トランプ政権は米主要都市の治安改善を目指し、州兵の配備を進めている。メンフィスでは犯罪抑止の成果が現れ始める一方、シカゴやポートランドでは州政府や裁判所による反発で配備が停滞している。
この行動の根底にある争点は、「国家安全」を重視し法と秩序の維持を優先する連邦政府の姿勢と、「州主権」を掲げて対応を慎重に進める一部州政府との対立構図にある。
トランプ政権は、州兵の派遣が治安の回復および全米の市民の安全確保に不可欠であると主張している。
連邦施設と職員の安全確保
政権側は、一部都市で連邦の法執行官や機関――たとえば移民・関税執行局(ICE)――が過激な抗議活動や襲撃の対象となっていることを強調している。州兵の配備は、連邦の主権と捜査官の安全を守るために必要な措置であると説明している。
たとえば10月4日には、イリノイ州シカゴ郊外のブロードビューで反ICEの人たちが10台の車を使い、連邦捜査官の車両に衝突し、包囲する事件が発生した。
都市の暴力犯罪への対応
大統領およびホワイトハウスの関係者は、犯罪が深刻化している地域では地方警察の人員が不足していると指摘している。連邦部隊の介入は公共の安全を取り戻すための重要な施策であると位置づけている。
トランプ大統領は「長年犯罪に苦しんできた」メンフィスに対し、地方政府が治安問題を迅速に解決できるよう強力な連邦支援を提供したとしている。
メンフィス:州の支援がもたらした成果
メンフィスでの配備は円滑に進み、連邦政府と州政府の連携が効果を上げているとされる。州兵部隊は連邦特別対策チームの一部として巡回を開始しており、作戦の指揮権は共和党のビル・リー州知事が保持している。リー知事は、部隊を活用して連邦の犯罪対策を強化する姿勢を鮮明にしている。
一方、民主党のポール・ヤング市長は自ら配備を要請したわけではないが、特別対策チームが暴力犯罪の取り締まりに重点を置くことへの期待を表明した。
連邦当局によれば、9月29日の活動開始以降、FBI、麻薬取締局(DEA)、ICEなどの捜査官により数百人が逮捕され、交通違反切符は2800枚を超えたと報告されている。その成果が際立っているとされる。
シカゴとポートランド:法的課題と州権をめぐる対立
大統領は連邦権限に基づき、安全上の必要がある州に対し州兵配備を命じた。しかし、民主党主導の州ではこの行動に州政府が強く反発し、司法審査の対象となった結果、作戦は停滞している。
イリノイ州の連邦判事は、州政府の要請なしに州兵を派遣することが合衆国憲法修正第10条に違反すると判断し、シカゴでの部隊配備を一時的に差し止めた。これを受け、司法省は直ちに控訴している。
イリノイ州のJB・プリツカー知事は、州内に「反乱」の事実はなく、「シカゴの街頭に州兵を立たせるべきではない」と述べ、連邦の介入に対して明確な制限姿勢を示している。
オレゴン州でも同様に、配備をめぐる訴訟の影響でポートランドでの州兵配置計画が遅れており、現在は控訴裁判所で審理中である。
市街地での展開は妨げられているが、500名の州兵がシカゴ郊外に到着し、ICE施設の周辺で警備に当たっている。彼らは連邦職員と施設の保護任務を継続している。
ロサンゼルスとワシントンD.C.での先行事例
今回の論争が表面化する以前にも、連邦政府は民主党主導の主要都市で同様の配備を行い、法的課題と政治的反発に直面していた。
ロサンゼルスでは、6月にトランプ大統領がカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事の反対を押し切って州兵を派遣した。これは移民に対するICEの一斉捜索後に発生した抗議や衝突への対処を目的としたものであった。連邦判事はこの配備を違法と判断したが、ホワイトハウスは連邦権限を擁護する立場から控訴している。
また、ワシントンD.C.では8月に大統領が「犯罪緊急事態」を宣言し、州兵を配備した。D.C.州兵は大統領直属で報告する体制にあるため、地方レベルでの必要性に疑問の声も上がったが、配備自体は比較的円滑に実施された。
さらに大統領は、ボルチモア、オークランド、サンフランシスコ、ニューオーリンズなどへの配備の可能性についても言及しており、治安対策をめぐる議論は今後も継続するとみられる。
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