中国では、子どもの行方不明が年々増え続けている。
背景には臓器狩りや人身売買の存在が広く疑われており、「失踪=自らの意思に反した拉致=臓器狩りや人身売買に遭った=二度と戻ってこない」。いまの中国では、こうした恐ろしく残酷な「連想」が、多くの市民の共通認識となっている。
そして、それは暗い路地裏でひっそり起きるとは限らない。白昼堂々と街中で子どもが抱え上げられ、そのまま奪い去られる。年老いた祖父母や母親が手を握っていても、犯人が力ずくで引きはがし、車に押し込んで逃走する事件が実際に起きている。その瞬間を捉えた監視カメラ映像がネット上に拡散され、人々はそのあまりの光景に目を疑った。
(中国の街中を歩いていた女性が、近づいてきた車に突然引きずり込まれる様子)
人が消える。警察は動かない。そして戻ってこない。この国の現実を理解するには、その「理由」を直視しなければならない。中国の臓器移植産業は、国際調査機関や複数の人権団体によって「国家ぐるみで運営される巨大ビジネス」と繰り返し指摘されてきた。だから市民の間では、「失踪したということは、もう戻らないということだ」という絶望的な認識が深く根を下ろしている。

こうした恐怖の中で、親たちは愛する我が子に、かつての常識では考えられない「生き延びるための教え」を授け始めた。
国家や警察を信頼できない社会が生んだ、究極のサバイバル術である。その中で、ある母親が「いざというときに生き延びてほしい」と子に伝えた言葉が、社会の崩壊を痛烈に物語っている。
母親はまず、こう言い聞かせる。「誘拐されたら、犯人ともみ合う必要はない。人の目が届かない場所であれば火をつけなさい。そばに人がいる場合は、通りすがりの人のスマホを壊し、店を壊し、道端の車を壊し、とにかく値段の高いものから片っ端から壊しなさい」
さらに、ためらいなく続ける。「『助けて』と叫んでも、人は他人の危険には関わりたがらない。人は自分に不利益が及ばないかぎり動いてくれないからだ。しかし、自分の財産となると話は別だ。必ず動くだろう。大事なものを壊された人は、あなたを拉致者の手から力づくでも奪い返し、警察に通報する。そうして初めて、あなたは救われるかもしれない」
この「非常識な教え」は、もはや中国社会の新しい常識になりつつある。

実際、この教えに似た「極限の戦術」は、中国のショッピングモールで現実に試され、救出につながった例さえある。湖北省十堰市では行方不明になったわが子を探す母親が消火器を手に貴金属店を叩き壊し、温州市でも母親が高級腕時計店のショーケースを次々と破壊した。いずれも強力なセキュリティを備えた店舗で、破壊された瞬間に警報が鳴り響き、モール全体の出入口が封鎖され、警察が一斉に駆けつけた。

その結果、大規模な捜索が開始され、失踪した子どもは(薬のようなものを嗅がされ)昏睡状態でトイレから発見された。髪を剃られ、見た目はまるで別人になっていたという。SNSでは「時間が経てば臓器が奪われていた」「母親は正しかった」との声が相次いだ。
いまの中国では「警報付きの貴金属店を壊すこと」が、警察を最速で呼びつけられる最も効率的な方法の一つと受け止められている。国家への信頼が崩壊した社会が生んだ、狂気のサバイバル術である。
こうした極端な「子どもへの教え」は、決して一部の家庭だけではない。同じ内容の動画は無数に存在し、別の親はさらに過激な「生存戦略」を子に教えている。「危険を感じたら、とにかく人目を引きなさい。例えば『習近平を打倒せよ』『共産党を打倒せよ』と叫べば、治安部隊は一瞬で駆けつける。
とにかく大騒ぎを起こして周囲を巻き込み、人の視線をあなたに向けさせること。それが、生き延びるための最も確実な方法だ」
親が子どもに「打倒習近平」と叫ぶよう教える国。その異常さは、もはや説明を要しない。しかし、こうした言葉に、中国のネット上では「残念だが真理だ」と共感が広がっている。
記憶に残るのは、以前SNSで見た短い動画である。失踪した子どもを探す父親に、ある「悟りの境地に達した」市民がこう助言していた。
「『子どもが失踪した』と通報しただけでは、警察は絶対に動かない。『反共産党の地下組織に加入させられて連れ去られた』と言いなさい。そうすれば夜明け前には見つかる」
この市民は、警察が「何で動くのか」を知り尽くしている。だからこそ、警察が「動かざるを得なくなる理由」を与えてやれ。それが、この助言の本質である。
最初は皮肉として笑えたかもしれない。しかし、笑いが消えたあとに残るのは深い嘆きだけだ。どうして中国は、ここまで狂ってしまったのか。「火を放て」「人を殴れ」「カバンをひったくれ」そして「打倒習近平」と叫べ。
それでしか道が開けない社会など、狂気以外の何物でもない。


(失踪した子どもの写真と情報を印刷したポスターの前で跪き、情報提供を求めて訴える親たち、2025年3月30日、中国福建省漳州市の街角)


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