アメリカ議会下院の「中国共産党特別委員会」のジョン・ムーレナール委員長は、アメリカの大手製薬企業5社に対し、中国で実施している臨床試験について説明を求める書簡を送った。特に新疆や中国軍関連の医療機関での試験を念頭に、倫理面や安全保障上のリスクに懸念を示している。
対象となっているのは、アッヴィ、イーライリリー、メルク、ファイザー、ブリストル・マイヤーズ・スクイブの5社である。
書簡では、アメリカと中国の間でバイオテクノロジー分野の競争が激化していると指摘したうえで、この競争は国家安全保障や経済のみならず、医療や医療データの安全、さらに人権にも影響を及ぼすとしている。
バイオ分野での競争とデータの重要性
ムーレナール委員長は、バイオテクノロジーが米中競争の中核分野になっていると指摘している。中国は第15次五か年計画で同分野を重点領域と位置づけ、データを戦略的資産として扱っている。
一方、アメリカ議会も「バイオセキュア法案」を通じて、同分野を安全保障上の重要領域と位置づけている。
書簡では「この競争は国家と経済の安全に加え、将来の医療や医療データの安全にも影響する」としている。
中国臨床試験の実態と件数
委員会の調査によると、対象となった5社はいずれも中国で多数の臨床試験に関与しているとみている。
ファイザーは2000年以降300件以上の臨床試験を実施し、このうち少なくとも6件が新疆に関連している。また、中国軍関連医療機関での試験は少なくとも43件に上り、5社の中で最多となっている。
メルクは2005年以降224件の試験を実施し、このうち少なくとも31件が新疆関連とされる。中国軍関連医療機関での試験は少なくとも40件である。
イーライリリーは2003年以降220件以上の試験を行い、新疆関連は少なくとも11件、中国軍関連医療機関は少なくとも16件。
ブリストル・マイヤーズ・スクイブは2004年以降およそ180件の試験を実施し、新疆関連は少なくとも8件、中国軍関連医療機関は少なくとも17件である。
アッヴィは2007年以降100件以上の試験を行い、新疆関連は少なくとも17件、中国軍関連医療機関は少なくとも16件とされる。
新疆での試験と人権問題
書簡では、新疆についてウイグル人など少数民族に対する人権侵害を指摘している地域だとしている。
こうした状況の中で、臨床試験の参加者が十分な説明に基づき自発的に同意しているのかについて、疑問があると指摘した。
また、中国の臨床試験は患者の募集が速く、アメリカの2~5倍のスピードとする一方、インフォームド・コンセントなど倫理面での懸念があるとしている。
さらに、2023年の研究を引用し、調査対象の91.2%が臨床試験を標準治療と誤認し、80%が副作用について正しく理解していなかったと指摘している。
中国軍関連機関との連携と安全保障
ムーレナール委員長は、中国軍関連の医療機関での研究を通じて、アメリカ企業の技術を軍事分野に転用する可能性があると懸念を示している。
現時点で違法行為の証拠は確認されていないとしつつも、中国での臨床試験は倫理面と安全保障の両面でリスクがあると指摘している。
軍関連医療機関と技術転用リスク
ファイザーについては、新疆や中国軍関連医療機関での試験への資金提供を行わない方針を示しているとし、これを評価した。
一方で、その判断に至った経緯や中国企業との関係への影響について、説明を求めている。
また、アメリカ議会では、中国で得られた臨床試験データをFDAが受理・審査・考慮することを制限する法案の検討を進めている。
さらに、国内の臨床試験の迅速化も進められており、FDAは第1相試験の期間を6~12か月短縮することを目指している。
提出期限は7月17日で、5社には中国での試験の詳細やデータ保護の措置、さらに2020年以降の中国企業との提携内容についても報告を求めている。
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