欧州を襲う「第二のチャイナ・ショック」 世界に広がる拒絶の連鎖

2026/05/30
更新: 2026/05/31

論評

米国が過去数代の政権にわたり対中関税を強化したため、中国の輸出は欧州などの新しい市場へと押し出される形となった。欧州委員会(ブリュッセル)は、この状況を「存亡の危機」と捉えている。そして、2001年の中国の世界貿易機関(WTO)加盟時に続く、第二の「チャイナ・ショック」と呼んでいる。 EUは米国の動きに追随して独自の対中関税を課す構えだが、これがドミノ倒しのような連鎖効果を引き起こし、中国の輸出製品をさらに別の地域へと押し流すことになる。

欧州委員会の産業戦略担当責任者であるステファン・セジュルネ氏によると、欧州で危機に瀕しているのは化学、金属、自動車、工作機械などの戦略産業であり、2900万人の欧州の雇用でもあるという。

2025年のEUの対中貿易赤字は3598億ユーロ(約4180億ドル)であった。昨年、EUの中国からの輸入は6.4%増加した一方、輸出は6.5%減少した。この状況が長引けば、欧州の製造業は二度と修復できないレベルまで衰退しかねない。そうなれば、「EUは自国を守ってくれない」と各国が失望し、欧州の単一市場という経済の枠組みそのものが崩壊の危機に瀕することになる。しかし、セジュルネ氏は、単一市場が崩壊すれば欧州の各国家は孤立し、国際交渉において今以上に不利な立場に立たされると指摘した。2016年に欧州連合からの離脱を決議した英国は、中国を含む他国に門戸を開くことでブレグジット(EU離脱)を補おうとした。「グローバル・ブリテン」という計画された「黄金時代」は実現しなかった。同国の一人当たりGDPは、離脱しなかった場合と比べて低くなり、国際的な企業投資や貿易も減少した。

欧州が民主主義のパートナーとの団結を破り、一枚岩の同盟ではなく個別の国として中国やロシアと交渉に臨めば、必ず失敗する。その罠を避けるには、自前の防衛産業を支える強力な産業基盤をEU内に築かねばならない。ロシアの中国とのパートナーシップ、ウクライナへの侵略、そして他の欧州の民主主義国に対する脅威が、このことを極めて明白にしている。

これと第二のチャイナ・ショックを回避するため、多くの欧州の外交官は、中国に対して「より積極的で効果的な貿易防衛政策」を求めている。フランス、イタリア、リトアニア、オランダの4カ国は、EU(ブリュッセル)において対抗策を主導している。彼らが問題視しているのは、中国による「不公正な貿易慣行の台頭」だ。具体的には、ライバル企業を市場から排除するため、中国が市場価格を大きく下回る価格で商品を不当に廉売(ダンピング)している行為などを指す。ひとたび競合他社が排除されれば、価格は独占的な水準まで上昇し、レアアース(希土類)や旧世代(レガシー)半導体などの物資が、ブリュッセルに対する戦略的なテコとして使われかねない。これら4カ国とスペインは、欧州の貿易防衛を改善するための潜在的な手段に関する研究論文を執筆した。同論文は、特定の国が「新たな貿易障壁を設け、構造的な過剰生産を続けている」と指摘している。そして、この歪んだ貿易環境が欧州の産業に直撃し、2019年から2025年の間に100万人もの雇用が失われる直接的な原因になったと結論づけている。フランスの貿易相は、中国の輸出過剰能力が体制による補助金によって引き起こされていると言及し、これは「大きな問題」であると述べた。

しかし、スペインとドイツは、中国との貿易関係の波風を立てることに最も消極的な2カ国である。欧州最大の経済大国であり、EU内で最も中国への貿易依存度が高いドイツは、足踏み状態にある。昨年は890億ユーロの貿易赤字を出したにもかかわらず、自動車、機械、エレクトロニクスなどのドイツの輸出産業の影響力は、市場を保護しつつ輸出を促進するという、いわゆる「バランスの取れた」対中アプローチを支持している。しかし、中国政府がその逆を求めて交渉している現状では、これを達成するのは困難である。特にドイツの産業は、中国からのレアアースや産業用ロボットの輸入に依存している。2016年、中国の投資家は、ドイツの産業用ロボットの世界的リーダーであり上場企業であったクーカ(Kuka)の株式の95%を買い取った。現在、ドイツはまさにこの分野で中国に依存している。

2025年3月31日、ドイツ北部ハノーバーで、男性が3Dプリントされた人型ロボットと対話している(Ronny Hartmann/AFP via Getty Images)

5月29日、欧州委員(閣僚に相当)らは、EU市場を中国から保護するための手段に関する「方向性討論」を行った。その後、6月15日からは、フランスで開催されるG7サミットにおいて、EUの指導者たちが中国共産党(CCP)による重要原材料の輸出規制について議論する可能性が高い。6月18日には、欧州の国家元首たちがブリュッセルでの会議でこれらの問題に取り組む予定である。ポリティコが報じた議題の草案によると、指導者たちは「困難な地政学的文脈において、EUの競争力と戦略的自律性を推進し」、「世界のマクロ経済の不均衡」に対処するという。

これらの問題を解決するために検討されているのは、輸入枠、関税、反ダンピング税、相殺関税、そしてEU市場で過大なシェアを獲得したサプライヤーに適用される「強靭性(レジリエンス)税」をより迅速に課す手段である。例えば、レアアース(REE)の場合、欧州議会調査局は「EUは重レアアースの全量と軽レアアースの85%、さらにはレアアース磁石の98%を中国から調達している」と指摘している。また、欧州はマグネシウムの97%を中国から得ている。レアアースが多くの主要な産業および軍事用途に使用されていることを考慮すると、欧州の対中レアアース依存は、中国政府にブリュッセルに対する巨大な影響力を与えることになる。

EUはすでに、中国依存に対して小さな一歩を踏み出している。これには、中国製の太陽光発電インバーターの購入にEU資金を支出することを禁止する規則、中国による欧州への投資を審査する新しい規制案、そして中国のIT企業であるファーウェイ(Huawei)やZTEなどのテクノロジーを欧州の情報インフラから制限するためのサイバーセキュリティ法の改定案などが含まれる。両社は過去に、スパイ容疑や汚職を含むスキャンダルに関与したとされている。ドイツとスペインはこのサイバーセキュリティ措置に反対している。

中国政府はブリュッセルに対し、その貿易防衛策に対する報復を警告しているが、中国共産党の対抗策が欧州に与える打撃は、その逆ほど大きくはない。中国は欧州が中国に輸出するよりも多くの額を欧州に輸出しているため、欧州の関税は、双方の相互貿易関係において中国の関税よりも大きな影響力を持つ。

より厳しい措置の支持者たちは、9カ月に及ぶ調査といった現在のEUの手続きは、実施はおろか完了するまでにも時間がかかりすぎ、容易に回避されてしまうと主張している。中国は第三国を経由して輸出を転送したり、第三国で組み立てを行ったり、EU域内に自社企業を設立したりすることができる。より厳しい措置は、上記の戦略産業の中国からの輸出に加え、電気自動車(EV)、ソーラーパネル、風力タービン、旧世代半導体にも適用される可能性がある。米国のバイオ燃料や、インドネシア、ウクライナ、英国からの鉄鋼など、他国の輸出も影響を受ける可能性がある。EU5カ国の論文は、国だけでなく企業に対しても厳しい措置を適用することを推奨しており、これにより企業が関税を回避するために単に場所を変更することを防ぐ狙いがある。

中国共産党は、このような措置は世界貿易機関(WTO)の規則に違反し、保護主義の一形態であると主張している。しかし、主要な民主主義国が独裁国家を自国の同盟国と同じように扱うならば、権威主義者たちは国家経済全体に対するかつてない統制と調整力を利用して、経済的に、そして軍事的に民主主義国を圧倒することができる。彼らは、すべての民主主義国が中国に対して弱体化するまで、一度に一つの主要経済国を対象にこれを進めることができる。それは、中国政府を中心とした、拡大する国際的かつ覇権的な権力の構築につながる。このような台頭する権威主義に対する正当な防衛こそが、今や肯定的に捉えられるべきものである。すなわち、防衛可能なサプライチェーン、フレンドショアリング、そして民主的な保護主義である。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
時事評論家、出版社社長。イェール大学で政治学修士号(2001年)を取得し、ハーバード大学で行政学の博士号(2008年)を取得。現在はジャーナル「Journal of Political Risk」を出版するCorr Analytics Inc.で社長を務める傍ら、北米、ヨーロッパ、アジアで広範な調査活動も行う 。主な著書に『The Concentration of Power: Institutionalization, Hierarchy, and Hegemony』(2021年)や『Great Powers, Grand Strategies: the New Game in the South China Sea』(2018年)など。