緊迫の朝鮮半島 大紀元コラム

党大会中に挑発を止めた北朝鮮 取引があった可能性も

2017/10/30
更新: 2017/10/30

中国共産党大会を終えて2期目がスタートした習近平総書記と、北朝鮮金正恩・労働党委員長との関係が明かに冷え込んでいる。

習氏の総書記再任が発表された25日に金正恩委員長はすぐ祝電を送った。26日、中国外務省の定例記者会見で、祝電が「中朝関係の改善を意味するのか」との質問に対して、外交部報道官は、「多くの国や政党の指導者から、祝電や祝辞を頂いた」と前置きしたうえ、「北朝鮮の指導者からも祝電を頂いた」と淡々と話した。しかし、報道官は自らの発言が逆に中朝関係の悪化を示唆したと気付いたのだろうか、すぐに「中朝両国は近隣国で、両国には友好交流の伝統がある」と付け加えた。

中国国営新華社通信25日の報道もあっさりしていた。

この日の報道のタイトルは『ベトナム、ラオス、キューバ、北朝鮮の指導者から祝電が届き、習近平氏の党中央委員会総書記選出を熱烈に祝った』だった。

5年前にも金正恩委員長は総書記に就任した習近平氏に祝電を送った。その際の新華社通信は、紙面一面に祝電内容を紹介したという歓迎ぶりだった

さらに10年前を遡ってみると、胡錦涛氏の総書記再任に北朝鮮の金正日総書記(故人)が祝電を送った際、中国官製メディアは今回と同様に北朝鮮をベトナムやラオスなどの国と並んで一緒に報じた。しかし、記事のタイトルは『北朝鮮、ベトナム、キューバ、ラオスの指導者が祝電を送った』で、国の順番では北朝鮮は他の共産国家の中でトップだった。当時中朝両指導部がまだ親密な関係であったことを示された。

 中国指導部に冷たい態度を示す金正恩委員長

一方、祝電を送ったものの、金正恩委員長も、中国最高指導部に「友好」と程遠い冷淡な文言を並べた。

党大会の開幕と閉幕に合わせて、金委員長は2回の祝電を送った。1回目の祝電で、金委員長は中国共産党の「社会主義建設の偉業」を称賛し、第19回党大会の円満に開催することを「心から祈る」とした。ただ、同内容の中に、習近平氏についての言及はなかった。これは非常に異例だ。

また、2回目の祝電に、「習近平総書記様」との文言があったが、分量が従来より減り、『朝中の友好には、両党両国の先代指導者らの心血と苦労が凝集されている』との文言がなく、簡素なものとなっている。

さらに、金正恩氏は閉幕に合わせて送った祝電の最後に「朝中の両党、両国間の関係が両国人民の利益にかなう発展をすると確信しています」と結んだ。しかし2012年に送った内容は「朝中の伝統的な友好は、両国人民の願いに即して、引き続き強化し発展すると信じています」と両国友好を強調したものだった。

中国党大会開催までの1年間の間、北朝鮮が頻繁にミサイル発射してきた。北朝鮮の後ろ盾である中国当局に対して、米国をはじめとする国際社会は、北朝鮮への圧力を強化するよう要求してきた。米国に同調した習近平政権は、中国共産党機関紙・人民日報の評論記事を通じて、北朝鮮を非難し始めた。朝鮮労働党機関紙・労働新聞もそれに負けずに、人民日報を批判した。このような中朝批判合戦は非常に稀なことだ。

さらに、国連安全保障理事会(安保理)では9月、中国当局は米国が主導した対北朝鮮の「過去最大な」追加制裁決議に賛成した。欧米社会に追随する習近平氏に金正恩氏は快く思っていないに違いない。

 党大会開催中、なぜ北朝鮮がミサイル発射を実施しなかったのか

 

海外メディアの多くは、18日の中国党大会開幕式の前に、北朝鮮がまたミサイル発射実験を行う可能性が高いと推測した。しかし、なぜ中国党大会の前後に、北朝鮮はミサイル発射実験を強行しなかったのか?なぜ、習近平氏の再任で送った祝電で「伝統的な友好」の代わりに「両国人民の利益」と強調し始めたのか?

まず中国最高指導層が、北朝鮮に対してより強い警告を発した可能性が高い。中国の党大会をかく乱するような真似を絶対許さないと、金正恩委員長らに念押ししただろう。

中国共産党指導部は、この数十年間にわたって北朝鮮への食糧援助と石油の提供に反対したことがない。しかし、金正恩政権が中国共産党内の権力闘争に関わっていれば、話は別だ。習近平指導部として、対北の食料などの提供などは再検討しなければならないであろう。

また、習近平陣営と党内最大の政敵である江沢民派閥との間で、何らかの妥協案を成立させたことがもう一つの理由であろう。

習近平氏は、2012年に総書記に就任してから、北朝鮮金政権と距離を置いてきた。理由は2つある。一つ目は金正恩委員長は、叔父である張成沢氏を含む朝鮮労働党内の親中派を粛清してきたことだ。2つ目は、江派閥らは北朝鮮金政権を操って、習近平氏を困らせる様々なトラブルを作ってきたことだ。北朝鮮が2013年に実施した核実験の背後に江派人員の影があった。江派は過去十数年に北朝鮮高層部と非常に親密な関係を維持していたことも周知の事実だ。

習近平氏と江派閥と金正恩委員長との関係を理解する上で最もわかりやす事例は、今年5月14日に実施された北朝鮮のミサイル発射実験だ。この日は、北京で「一帯一路」経済圏構想に関する国際会議が開幕した。この「一帯一路」構想は習近平氏が提唱した重要な外交・経済政策の一つだ。北朝鮮のミサイル発射によって、国際社会での習氏のメンツが潰されたのだ。江派の後ろ盾がなければ、金正恩委員長は中国共産党の総書記である習近平氏に対して挑発する勇気がないだろう。

一方、今月25日中国最高指導部である中央政治局常務委員の新メンバーの顔ぶれをみると、習近平氏の右腕である王岐山氏も、江派閥の重要人員もいなかった。事前、多くのメディアは習近平氏は党内「68歳定年制度」との慣例を廃止して、王岐山氏を最高指導部に留め、再任させると予測していた。

王岐山氏が指導部から去ったことは、激しい派閥闘争の中で習近平氏が江派に一定の譲歩をしたと言える。反腐敗運動で多くの江派人員を摘発した王岐山氏に対して江派らは極めて強い恨みを持っている。王氏の退任は、江派にとって目的が達成したことになる。またこれが理由で、江派に近い北朝鮮金政権が中国党大会の間に挑発行為を止めたに違いない。

中国当局が金正恩委員長の祝電に冷たい反応を示したのは、上述の背景があると考えられる。中朝関係が冷え込んでいるが、中国当局は地政学上自らの利益を守るために、まだ北朝鮮を完全に見捨てることができない。中国当局が最も目にしたくないことは、米韓両軍が朝鮮半島を完全に掌握することだ。

11月トランプ米大統領が訪中する予定で、習近平氏との間で北朝鮮問題を中心に協議していくとみられる。2期目の任期を開始した習近平指導部が引き続き米国と協力するのか、中朝関係がどう変化するのかに、世界各国からの注目が集まっている。

(時事評論員・周暁輝、翻訳編集・張哲)

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