日中韓初の経済連携協定となるRCEP、2022年1月1日に発効する。写真は、2020年11月のASEANサミット期間中に開かれたRCEP会議 (Photo by NHAC NGUYEN/AFP via Getty Images)

RCEP、2022年1月1日に発効 中共の地域的影響高まりに警戒感

日本政府は2日、10カ国が国内手続きを終えた地域的な包括的経済連携(RCEP)について、来年1月1日に発効すると発表した。米国や欧州諸国の参加しない、世界でも最大規模の経済連携協定貿易圏が形成される。複数の調査報告は、中国共産党の地域的影響が強まるとの見方を示している。

RCEPは来年、日本とオーストラリア、ブルネイ、カンボジア、中国、ラオス、ニュージーランド、シンガポール、タイ、ベトナムが発効する。物・サービス貿易、投資、経済・技術協力、知的財産に関わる包括的な経済連携協定だ。加盟国による段階的なゼロ関税率の適用製品は、品目ベースで91%に達する。

日本は、ASEANや豪とはすでに既存の貿易協定で無関税の品目を多く設けているが、RCEPは中韓との初の経済連携協定で、中韓の無税品目の割合が大幅に増える。中国が8%から86%に、韓国が19%から92%になる。

自動車分野で言えば、中国からは電気自動車のモーター部品、リチウムイオン蓄電池の電極・素材など。韓国はカムシャフト、エアバッグ、液晶保護フィルムの原料などで、3カ国の自動車生産チェーンは広がる可能性がある。

中国共産党は、一帯一路の評判が低下するなか、欧米主要国不在のRCEPを通じてアジア・オセアニア圏の投資や輸出を増やし、地域の経済的影響力を高めることを狙う。共産党機関紙・人民日報傘下の環球時報は、RCEPを通じて「西太平洋地域の西側覇権を終わらせる」と声高に叫んでいることからも、政治的な狙いを垣間見ることができる。

すでにWTOで非難浴びる「中共ルール」

英国に本部を置くシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)日本担当主席ロバート・ウォード氏が発表した昨年11月の分析記事によれば、RCEPには国家による補助金の規定がほとんどないという。「国内の経済管理手段を維持したいという北京の意向にほぼ沿ったものだ」と同氏は述べた。

中国による国家の補助金で市場主義経済が乱されるとの問題は、10月に開かれた世界貿易協定WTO)の中国貿易審査会合で、米国を筆頭に主要国から相次ぎ非難を浴びた点だ。

このWTO会合では、RCEP加盟国の日本、オーストラリア、韓国も中国の不公平な貿易慣行について申し立てている。米紙ポリティコが10月21日、報じている。

報道によれば、日本は中国に対し、国有企業補助金問題や、中国国内法の規制の不明確さ、貿易条例の通知がないことなどを並べ、市場に影響を与える問題に取り組むよう要求したという。

また、政治的な理由で中国から報復制裁を受けるオーストラリアは、中国が「恣意的な国境検査、輸出施設のリストアップと準備、輸入許可証の発行の不当な遅延、不当な反ダンピング・相殺関税」などにより、幅広い製品の貿易を妨害していると述べた。そして、中国当局が、国内輸入業者に「オーストラリア製品を買わないように」と(ボイコットを)指示する「信頼できる報告」があると明かした。

韓国は、中国が法的枠組みを改善していると主張しているにもかかわらず、商標登録や審査に関する不正な慣行を続けていると訴えた。

中国国内の裁判は海外企業に対して恣意的な判決を下すことで知られる。奇しくも、日本でRCEPの発行が発表された2日後の11月5日、「無印良品」ブランドをめぐる北京での裁判で、日本の良品計画が中国のコピー企業に敗れ、40万元(約710万円)の罰金を命じられた。

RCEPにいない米国からは、「国家主導の非市場的な貿易慣行を増やし続け、米国やその他の国々の労働者や企業に不利益をもたらしている」とデビッド・ビスビーWTO臨時代理大使が指摘した。さらに、「中国は変わる気もないようだ」と付け加えた。

「Made in RCEP」で域内サプライチェーンが強化される

RCEPでは、他の貿易協定よりも緩和される項目として、原産地規則ROO=Rules Of Origin)とよばれるものがある。すべての国際貿易貨物には、「どこで作られたのか」を証明する必要となる。このROO証明書は、自国の生産力の保護を考える各国などで審査基準が異なり、国際貿易の障壁のひとつとされている。

政策シンクタンク・Perth USAsia Centreの調査部長ジェフリー・ウィルソン氏が10月4日、オンラインメディア「九段線」に発表した分析記事によれば、RCEPは複雑なROO証明の審査をまとめ、域内で共通基準を設定した単一の「Made In RCEP」証明書を申請できるようになる。越境取引がスムーズになり、域内サプライチェーンの構築が進むという。

たとえば、オーストラリア産の大麦麦芽がベトナムの醸造業者に販売され、作られたビールは「Made in RCEP」として扱われ日本市場に流通するなども考えられるという。

「中国がRCEPの名前のもとで、WTO加盟国に義務付けられた原産国規則や制約に、たやすく違反できるようになることに、気をつけなければならない」と、元国際通貨基金(IMF)エグゼクティブ・ディレクターでインド政府の財政顧問を歴任したアルビンド・ビルマニ(Arvind Virmani)氏は警告している。

前出のウォード氏もまた、RCEP発効の各国発表を受けて、「RCEPにより原産地規則などの域内ルールが調整され、地域統合の強化が進めば、中国の経済的牽引力が増大する」と警鐘を鳴らした。

さらに、ウォード氏は、RCEP加盟国により域内のサプライチェーンの効率化が高まれば、域外である米国や欧州に対する貿易摩擦や「デカップリング」に対する抵抗力を中国は強めることができると指摘する。「長期的には、RCEPの地政学的な影響は経済的な重要性と同じくらい大きくなるだろう」と同氏は記事内で述べている。

中国共産党による影響の高まりは、他の安全保障枠組みにも影響するとの見方がある。

インドの元外務大臣カンワル・シバル(Kanwal Sibal)氏は、「インド太平洋地域におけるRCEPとクアッド(日米豪印戦略枠組み)は、経済および安全保障面でその目的が相反する」と指摘する。シバル氏は、RCEPに対する日本やオーストラリアの二面性のある態度は「対中戦略に基本的な欠陥」があるためだと批判している。

日本政府は2日、RCEPの来年1月発効に際して「RCEPにより、世界の成長センターとなる地域とのつながりがこれまで以上に強固になり、経済成長に寄与することが期待される」と声明を出している。しかし、中国共産党の拡張主義による安全保障貿易管理上のリスクに関してはコメントしていない。