THE EPOCH TIMES

≪医山夜話≫ (17) ナンシーのカルテ③

2011年01月16日 07時00分
 【大紀元日本1月16日】ナンシーは乳房の切除という苦しみを味わいましたが、本当の苦難は化学療法を始めてから経験することになりました。化学療法の第一週目、ナンシーの頭髪はほとんど抜けてしまいました。

 ナンシーが自分の姿を鏡に映すと、祖父とそっくりでした。禿げた頭、穏やかでない不親切な目つきをする老人の顔でした。ナンシーは自分の姿にショックを受け、同時に、彼女に起きたすべての苦難は祖先から残された「業」によるものかも知れないと考えました。ナンシーは祖父についてよく知らなかったのですが、彼が軍人だったことと、たくさんの人を殺したことは聞いていました。ナンシーは、冥界で自分が網にかかった魚になり、水面に引き上げられるような気持ちでした。

 本当に化学療法は効果があると、自信を持って言える医師はいません。しかし、ナンシーが化学療法を受けることを止める者もいません。何故なら、医師たちは、化学療法が患者に死ぬよりもつらい苦痛を与えると知っていても、これよりよい治療法はないからです。

 化学療法は薬物を人体に注射し、その薬物ががん細胞を消滅させ、同時に健康な細胞をも消滅してしまいます。化学療法を受けた後、ナンシーの血液の赤血球、白血球は最低の数値まで下がります。数日後、再び数値が上がってきたら、化学療法を繰り返します。ナンシーはこのように化学療法を繰り返し、健康状態は最悪となり、ほとんど死の淵をさまようところまで来ていました。

 ナンシーはすぐに吐いてしまうので何も食べられず、立つと強烈な目眩に襲われます。化学療法を止めれば、がん細胞が息を吹き返し増殖してしまうため、止めるわけにはいきません。しかし、彼女がこれ以上、化学療法を続けるのはとても危険でした。

 ナンシーは今でも最大の努力でがんと戦っています。化学療法はまだ進行中で、それを乗り越えれば、次は放射線療法やレーザー療法となります。それは、ナンシーにとって生きるための新たな戦いとなるでしょう。もし、ナンシーがレーザー療法に耐えることができ、それに成功したとして、彼女は平穏な余生を過ごせるのでしょうか? 彼女の医師によると、すべての治療を乗り越えても、生存の確率は30%しかないといいます。

 通常、ナンシーが受けているような化学療法は、ずっと前に終わっているはずでした。不思議なのは、ナンシーも医師も、この治療過程がいつまで続くのか分かっていないことでした。化学療法は患者の健康に重大な損害を与えます。この療法が患者の寿命を決めてしまうこともあります。誰もこの療法の終わりを決めることができないため、ナンシーはこの次元を超えたところにあるものが寿命を決めているのではないかと信じるようになりました。

 ナンシーは最近、3回にわたって化学療法を受けました。その6週間で、ちょっとした医療ミスが何回もナンシーの身に起こり、彼女は医者を次々と替えていました。医者を替えるたびに、ナンシーは彼女の治療過程や薬の量などを長々と説明しなければならず、その態度はまるで教授が生徒に教え諭す時のようでした。しかし、それでも彼女に対するミスは続きました。 

 ナンシーは、岐路に立たされていたのです。もし彼女が化学療法を止めたら、今までの努力や次々と替えた医師たちが、すべて無駄になってしまいます。もしこのまま続ければ、何が起こるかわかりません。彼女は正直に心の悩みを打ち明けました。

 「先生、もし貴方が私の立場ならどうします?もちろん、先生が私になることはありえないけど。多分、私の痛みを先生が感じることもないでしょう。先生の体ではないのですから。この猛烈な痛みを決して知ることはないでしょう…」

 私は何も言わず、静かに彼女の言葉を聞いていました。

 「すべてのがん患者は、私のような痛みを経験するのですか?時に、がん患者は自分の腫瘍で死ぬのではなく、医療事故で死ぬことがあると聞きました。誤診や間違った治療方法などが患者の死を招くことがあるそうです。一部の患者は、医者に絶望して、諦めてしまったそうです…」

 「最近では、多くの医師が学校を卒業したばかりで病院に入ってきます。彼らは多くの理論を教科書から学びますが、臨床経験は少ないのです。彼らの自信過剰ぶりと、患者の気持ちを無視する態度、そして金銭欲などが彼らの魂を汚し、無意識に殺人を犯してしまうこともあるでしょう。私は貴方を信じます。なぜなら、貴方は道徳心のある人だと思いますから。私は、他のどの医師からも真、善、忍などの精神に関する話を聞いたことがありません。最初は信じていなかったけれども、今ではそれが真実で大切なことだと分かります」

 「でも、なぜ私は真、善、忍、を信じているのに、いまだこんなにトラブルが多いのですか?貴方は健康そうで、うらやましいわ」

 私は笑いながら、「ナンシー、貴方は真、善、忍を信じていますが、それを実行していますか?その原則が良いと分かっていても、それを本当に心に受け入れているでしょうか?もしそれらを本当に信じて実行しているならば、なぜ何度も医師を替えたりしたのでしょうか?」と言いました。

 ナンシーは一瞬考えてから、「もしこの悪夢が終わったら、私は必ず心の修煉をします。先生、私にもチャンスがあるかしら?」と聞きました。

 もちろん、と私は頷きました。

(翻訳編集・陳櫻華)


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