これらの改正は、危険な国際保健官僚制への扉を開くことになる

2024/04/06
更新: 2024/04/04

新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、世界保健機関(WHO)とそのパートナーたちは、前例のない知名度と、世界中の公衆衛生法と政策を形成する途方もない「ソフト」パワーを手にすることができた。WHOはこの1年余り、世界規模で公衆衛生上の緊急事態を宣言し、管理する権限を強化・拡大するために突き進んできた。

この統合のための主要な手段は、WHOパンデミック協定と、既存の国際保健規則(IHR)の広範囲にわたる改正である。IHR改正案と新しいパンデミック協定の最終決定目標は2024年5月である。

パンデミック協定と国際保健規則の改正案がもたらす正味の効果は、国際的に調整されたバイオ・サベイランス体制を築くために必要とされる法的・財政的基盤を構築し、世界各地で発生する公衆衛生上の脅威に対して国際的な対応を指揮・調整するという、WHOの権限を大幅に強化することである。

WHOがなぜ、IHR改正案と重要な点で重複するパンデミック条約を別途交渉することにしたのか、その理由は不明だ。いずれにせよ、この保健規制の広範囲に及ぶ変更のほとんどは、すでにIHR改正案の中に含まれているため、ここではそれに焦点を当てる。

たとえWHOが新たなパンデミック条約の成立に失敗したとしても、提案されている国際保健規則の改正案自体が前例のない権限をWHOに与え、WHO自らが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」とみなす状況において、国際的な保健政策やワクチン政策を指示する権限を持つことになる。

WHOは、IHRの改正案の決定を世界保健総会(5月27日から6月1日)に間に合わせることを望んでいる。改正案が代表団の過半数で承認された場合、18か月から10か月に短縮されたオプトアウト期間内に各国首脳が正式に拒否しない限り、その12か月後には完全に批准されたものとみなされる。

批准されれば、2022年5月28日に合意された国際保健規則改正(2005年)の付属書に規定されたとおり、2024年5月の世界保健総会での発表から2年後(つまり2026年6月頃)に発効する。

言い換えれば、国際保健規則の改正は、各国首脳による正式な受諾ではなく、デフォルトで可決されることになる。各国首脳の沈黙は同意と解釈される。このため、国際保健規則改正は、適切な立法による精査を受けることなく、また新しい法的枠組みの対象となる国々で国民的な議論が行われることもなく、簡単に可決されてしまう。

このような国際法の改正が、各国政府の政策や市民生活にどのような影響を与るのかを知るには、改正案の一部を確認すれば十分である。どの改正案が交渉プロセスで生き残るかわからないが、その方向性は憂慮すべきものだ。

つまり、国際保健規則が改正されれば、民主的な説明責任が制限され、利害の対立が目立ち、組織的に市民の健康と自由を著しく害する恐れのある、世界的な官僚制に私たちを駆り立てることになる。

以下に述べる改正案は、WHOのウェブページに掲載されている46ページの文書 “Article-by-Article Compilation of Proposed Amendments to the International Health Regulations (2005) submitted in accordance with decision WHA75(9) (2022) “から抜粋したものである。このような改正は、ほとんど選挙政治の枠外で交渉されているため、一般市民はほとんど気づいていない。

この改正が発効すれば、(WHOが定義する)公衆衛生上の緊急事態が発生した場合、各国は国際法に準じて、WHOとその「専門家」からなる「緊急委員会」の決定した保健政策ガイドブックに従うよう強制され、各国議会や政府がWHOの勧告から逸脱した政策を打ち出す余地がはるかに少なくなる。

国家が国際保健規則の改正に正式に同意する限り、法的には国家の主権はそのまま維持される。しかし、国際的な政治的勢力の指示に従う場合、この領域で自国の政策を定める自由を失うことになる。そして、保健政策の「専門家」は国民を代表するのではなく、国政を超越した世界的な保健体制を代表し、国内法を超えて活動することになる。

WHOが公衆衛生上の国際的な緊急事態を宣言して動き出す世界的な協調体制の下では、市民は、WHOが指名した「専門家」が犯した過ちに対して脆弱である。彼らは、ジュネーブやニューヨークを本拠地にしており、その過ちは、各国政府からの抵抗がほとんどない世界的な保健システムを通じて再現される可能性がある。

市民は、改正された規則がWHO主導の世界保健体制と、世界経済フォーラムや世界銀行、ビル&メリンダ・ゲイツ財団といった影響力を持つ財政的・政治的利害関係者に、前例のない権力を与えるものであることを知る権利がある。

2005年の国際保健規則には、何十もの改正案が提案されている。ここでは、各国の保健衛生体制の独立性と市民の権利に影響を及ぼすと懸念される8つの改正案を取り上げる。

各国は、国際的な公衆衛生上の緊急事態の際に「ガイダンスおよび調整機関」としてWHOの助言に従う義務を負う

国際保健規則の改正案のひとつに、「締約国は、WHOを公衆衛生上の国際的緊急事態における指導・調整機関として認識し、国際的な対応においてWHOの勧告に従うことを約束する」と書かれている。他の多くの条約や「約束」と同様、国際保健規則の他の締約国が、この「約束」を執行する手段は限られている。

それにもかかわらず、新しい規制に従う締約国は、WHOの勧告を遵守する法的な拘束力を負い、国際条約の約束を守らなかった場合には、信頼性を失ったり、政治的な打撃を受ける可能性がある。これは一部の人にとっては、骨抜きのように見えるかもしれないが、現実には、この種の「ソフトパワー」が国際法の遵守を大いに推進する。

「拘束力のない」文言の削除

旧版の第1条では、WHOの「勧告」は「拘束力のない助言」と定義されていた。新版では、単に 「助言」と定義されている。この変更について唯一妥当な解釈は、WHOの勧告を各国が自由に無視できるという印象をなくしたかったということである。署名国が、「公衆衛生の国際的対応において、WHOの勧告に従うことを約束する」限りにおいては、このような 「助言」は、新しい規則のもとでは法的な拘束力を持つことになり、国家がWHOの勧告に反対することは法的に難しくなる。

「尊厳、人権、基本的自由」への言及の削除

IHRの改正案の最も異常で憂慮すべき側面の1つは、規制が実施されれば、「個人の尊厳、人権、基本的自由を全面的に尊重する」ことを要求する重要な条項が削除されることである。

その代わりに、新しい条項は、規則の実施は「公平性、包摂性、一貫性の原則に基づき、締約国の社会的および経済的発展を考慮して、締約国の共通であるが異なる責任に従って」行われるとしている。正常な思考を持つ責任感のある人なら、国際保健規則から「尊厳、人権、基本的自由」を取り除くという行為を正当化することはできないだろう。

国際保健規制の適用範囲の拡大

第2条の改訂版では国際保健規則の範囲には公衆衛生上のリスクだけでなく、「公衆衛生に影響を与える可能性のあるすべてのリスク」も含まれている。この改正により、国際保健規則とその主要な調整機関であるWHOは、公衆衛生上のリスクだけでなく、それに「影響を与える」と思われるすべての社会的リスクにも関心を持つことになる。例えば、職場のストレス、ワクチン忌避、偽情報、誤報、医薬品を入手できる可能性、GDPの低さなどであるが、WHOの介入とガイダンスの根拠は、無期限に拡大される可能性がある。

世界的な保険官僚制の統合

各国は、「これらの規制の下で健康対策を実施する」ために、「全国的なIHRフォーカルポイント」を任命しなければならない。この「フォーカルポイント」は、WHOの「能力開発」と「技術支援」を利用することができる。このフォーカルポイントは、おそらく選挙で選ばれたわけでもない官僚や「専門家」によって運営され、WHOが主導する新しい世界保健官僚制の中核となるだろう。

この新しい世界保健官僚制がもつ別の重要な側面は、以下のようなWHOの三つの役割である。すなわち、世界的な「健康製品(ワクチンを含む)の配分計画」を策定し、世界中で拡大した疾病のサベイランスや研究に係る情報をハブとしてまとめ、公衆衛生上の出来事や防疫措置に関して流れる「虚偽や信頼性の低い情報」との戦いに専念する関係者による国際ネットワークを主導することである。

WHO緊急権限の拡大

改正された規則では、WHO事務局長は、「緊急委員会の意見/助言に基づき」、ある事象を「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態に発展する可能性がある」と指定し、推奨される措置を締約国に伝達することができる。「潜在的な」公衆衛生上の緊急事態という概念の導入は、「中間的な」緊急事態という概念とともに、WHOに対して、緊急事態のプロトコルと勧告を実行に移す自由を与えるものである。「潜在的」あるいは「中間的 」緊急事態がどのようなものなのか、誰にもわからない

国際的なバイオ・サベイランス体制の定着と正当化
旧第23条「到着時および出発時の健康措置」は、渡航者に対して、渡航前に「公衆衛生上の目的を達成できる最も非侵襲的な健康診断書」など、特定の医療証明書を提示させる権限を国家に与えている。新版の第23条では、渡航者は「病原体の検査に関する情報や疾病に対するワクチン接種に関する情報を含む文書」の提出を求められる可能性がある。

これらの書類には、WHOが認証したデジタル健康証明書が含まれる可能性がある。本質的には、2021年から2023年にかけて、ワクチン未接種の国民に法外な検査費用を課し、何千、何万もの人々が、健康上の配慮からではなく、旅行の利便性のためだけにワクチン接種をする結果となった。そのワクチンパスポート制度を再確認し、法的に有効化するものである。

「虚偽・信頼できない情報」に対抗するための世界的な取り組み

国際保健規則の改正草案では、WHOとIHRに拘束される国は、「メディアやソーシャルネットワークなどで流布される、公衆衛生事象、予防・疫病対策、虚偽情報に対して、協力しなければならない」とされている。明らかに、誤報/偽情報の解消にはプロパガンダと検閲体制を伴う。

「虚偽で信頼できない情報の流布に対抗する」ことを解釈するには、これ以外にもっともらしい方法はない。新型コロナのパンデミックが2020年に発表されて以降、情報対策はまさにこのように解釈され、ワクチンの危険性、新型コロナウイルス研究室起源説、社会でのマスク装着の有効性に関する健全な科学的証明が抑圧されてきた。

これらと国際保健規則のその他の改正案の共同効果は、WHOとその事務局長をWHOの後援者の特別な利益に従順な巧妙につくられた世界保健官僚制のトップに据えることである。その官僚制は、WHOが発表した「助言」や「勧告」を実施する国家公務員や機関の協力によって運営され、締約国はこれに従うことを法的に約束させられる。

国際条約を強制的に執行できないのは事実だが、だからといって国際法が重要でないわけではない。新たに改正された規則の下では、高度に中央集権化された公衆衛生官僚制は、惜しみない資金提供メカニズムによって支えられ、国際法によって保護されることになる。この種の官僚制は、必然的に国の官僚制と結びつき、絡み合い、パンデミックの計画と対応の政策立案構造の重要な要素となるだろう。

理論的には、各国はこの官僚制を迂回し、IHRの下での法的約束を反故にし、WHOが推奨するのとは別の道を歩むことも可能ではある。しかし、彼ら自身が承認し資金提供した体制をボイコットすることは考えにくい。

WHOとそのパートナーが、1つまたは複数の署名国からの反対に直面した場合、そのような国が法的約束を守るよう辱めることで、WHOの指令に従うよう圧力をかけることができる。また、他の署名国が、国際保健を危険にさらす「反逆者」国家を叱責し、遵守させるために政治的、財政的、外交的圧力をかけることもできる。このように、WHOは国際保健規則を通じて、国家公務員に対して、警察を後ろ盾にした国家的規制よりもソフトな方法で働きかけることになるが、決して無力であったり、政治的に取るに足らない存在であったりするわけではない。

新たな国際保健官僚制が一般市民の生活に及ぼす影響は、極めて劇的なものになるかもしれない:国際法によって合法化された世界的な検閲体制が構築され、公式に認可された情報に対する異議申し立てがこれまで以上に困難になるだろう。また、以前にも増して、国際的な公衆衛生への対応がWHOの指令に隷属的になり、新型コロナパンデミック時のスウェーデンのような独立した反対的な対応が阻害されるだろう。

最後になるが、新しい世界保健官僚制は、一般市民の運命、つまり、国内および国際的な移動、投薬に対するインフォームド・コンセントの権利、身体の完全性、そして究極的には健康を、WHOの「勧告」と歩調を合わせて行動する公衆衛生当局の手に委ねることになる。

政策の多様化と実験が強固な医療制度には不可欠である一方で、健康上の緊急事態に対する高度に中央集権的な対応によって押しつぶされているという事実は別として、WHOはすでに内部で利害対立に悩まされており、また判断が破滅的に不健全であったという実績があるため、世界保健上の緊急事態を確実に特定したり、それに対する対応を調整したりする資格はない。

まず第一に、WHOの収入源は、製薬業界に多額の金銭的利害関係を持つビル・ゲイツのような個人に依存している。WHOのドナーがワクチンを含む特定の医薬品の成功に財政的に投資しているのに、WHOがワクチンの安全性と有効性などについて、公平で利害関係のない勧告をすることを期待できるだろうか?

第二に、WHOに対して、国際的な公衆衛生上の緊急事態を宣言することを認めることは、明らかに倒錯した誘因を生み出すことである: WHOが主導する国際保健官僚制の存在意義の大部分は、公衆衛生上の緊急事態を予防、監視、対応することであり、WHOの緊急権能の発動が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の存在に依存していることを考えると、WHOの事務局長は、潜在的あるいは実際の公衆衛生上の緊急事態を宣言することに明白な専門的、制度的な関心を抱いていることは明らかだ。

第三に、WHOは中国の残忍で結局は成功しなかったロックダウンを称賛し、批判者に対する検閲を支持し続け、効果の根拠が乏しい状況で何度もマスク着用を勧告し、mRNAワクチンの深刻なリスクについて的確に警告することを怠った。さらに、WHOは欧州連合(EU)とパートナーシップを結び、新型コロナワクチン証明書制度を世界的に拡大しようとしている。これらの人々を、私の身体の完全性、健康、インフォームド・コンセント、移動の管理者として、信頼できるはずがない。

 

本記事で述べられている見解は筆者の意見であり、必ずしもエポックタイムズの見解を反映するものではありません。

スペイン・パンプローナにあるナバラ大学文化社会研究所の研究員および講師。スペイン政府によって優れた研究活動を支援するために授与される名誉あるラモン・イ・カハール研究助成金(2017年から2021年、2023年まで延長)の受賞者。ナバラ大学に所属する以前は、バックネル大学とビラノバ大学での客員助教授、およびプリンストン大学のジェームズ・マディソン・プログラムでの博士研究員など、アメリカ国内でいくつかの研究職や教職を務めた。ダブリン大学カレッジで哲学の学士号と修士号を取得し、ノートルダム大学で政治学の博士号を取得している。
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