中国発のインターネット通販サイト「Temu(テム)」や「SHEIN(シーイン)」などを通じて日本に流入する少額輸入品に対し、これまで適用されてきた免税措置「デミニミスルール」の見直しが本格化している。財務省は今後、これらの少額輸入品にも消費税を課税する方向で検討を進めており、2026年度以降の税制改正を視野に入れている。
急増する中国発少額輸入品 「デミニミスルール」とは
「デミニミスルール」とは、ラテン語で「ささいなこと」を意味し、各国で少額貨物の通関作業の負担軽減を目的に導入されてきた制度だ。日本では現在、1万円以下の輸入品について関税と消費税が免除されている。この仕組みは、海外から個人がネット通販などで少額の商品を購入した際、煩雑な手続きを省き、流通を円滑にするために設けられた。
近年、この制度を利用した少額輸入が急増している。財務省によると、2024年の1万円以下の「少額貨物」輸入は約1億7千万件、金額で4258億円に達し、過去5年間で約5倍に拡大した。背景には、TemuやSHEINなど中国系ECサイトがこの免税措置を活用し、低価格商品の大量販売を展開している現状がある。
アプリ調査会社センサータワーによれば、2024年に世界で最もダウンロードされたECアプリはTemu(5億5千万回)、次いでSHEINとなっており、日本でも利用が急増している。
国内事業者からの強い危機感
こうした状況に対し、国内の小売業者やEC事業者からは強い危機感が広がっている。「海外事業者の価格競争力が大きく、国内事業者にとって脅威」「市場シェアを奪われ、競争の不均衡が大きな影響を及ぼしている」といった懸念の声が相次いでいる。免税措置が海外事業者に有利に働き、国内産業の競争力を損なっているとの指摘が強まっている。
実際、TemuやSHEINは免税制度を最大限に活用し、国内小売業者が太刀打ちできない低価格で商品を提供してきた。これにより、国内市場のシェアが海外EC勢に流出し、価格競争の不均衡が深刻化している。
財務省が消費税課税へ方針転換 公平な競争条件整備へ
財務省は、来年度以降の税制改正を見据え、少額輸入品に消費税を課すことを想定している。今後は通販サイト運営事業者に税務当局への登録を義務づけ、申告納税させる案などが検討されている。一方、関税については現場での作業負担が重くなる課題があるため、免税措置を続ける見通しだ。
この見直しは、国内外の事業者間で公平な競争条件を整備し、国内産業の競争力を回復させる狙いがある。消費税課税により、海外ECサイトの価格優位性が一定程度是正される見込みだ。
世界的な規制強化の潮流
日本だけでなく、世界各国でもデミニミスルールの見直しが加速している。アメリカでは、2025年5月2日から中国・香港からの荷物についてデミニミス適用を廃止し、800ドル以下の少額貨物にも関税を課す措置が始まった。これはTemuやSHEINなど中国系ECサイトによる大量の免税輸入が国内産業や税収に影響を与えているとの批判を受けたものだ。
欧州連合(EU)も2021年に150ユーロ以下の輸入品に対するVAT(付加価値税)免除を廃止し、すべての輸入品にVATを課税するようにした。イギリスも見直しを検討中で、オーストラリアやニュージーランドなども既に少額輸入品への免税措置を廃止し、すべての輸入品に消費税(GST)を課税している。ベトナムやタイでも同様の動きが進んでいる。
このように、世界的にECの拡大で少額輸入品が急増し、国内産業の保護や税収確保の観点からデミニミスルールの見直しが国際的な潮流となっている。
小売業界への影響と今後の課題
デミニミスルールの見直しは、日本国内の小売業に大きな影響を与える。まず、海外からの少額輸入品にも消費税を課すことで、国内外の小売業者間の競争条件が公平化される。これにより、国内小売業者は価格面での不利が緩和され、健全な競争環境が期待できる。
一方で、単純な価格競争から商品の差別化や付加価値の強化へと戦略転換が求められる。オリジナリティやブランド力、サービス面での競争がより重要になるだろう。また、海外からの仕入れコストが上昇し、調達先の見直しや分散化が必要となる。特定国への依存度が高い場合、コスト増や物流の遅延リスクも考慮しなければならない。
消費者にとっては、海外ECサイトでの低価格商品の魅力が薄れ、国内小売業へ回帰する動きも期待されるが、依然として価格志向は根強い。小売業界にはコスト競争力やサービス向上が引き続き求められる。
また、制度変更に伴い、通関や税務処理など事務負担が増加する可能性もある。特に小規模小売業者や個人事業主は、税務申告や物流オペレーションの見直しが必要となる場合がある。
今後の展望 公平な競争環境の実現へ
TemuやSHEINなど中国発ECサイトを中心に拡大した少額輸入品の免税措置は、国内事業者との競争条件の不均衡を生み、制度の抜け穴となってきた。今後は消費税課税の方向で見直しを進め、海外・国内事業者間の公平な競争環境の整備を図る見通しだ。
世界的な規制強化の流れの中、日本も国際的な動向に歩調を合わせる形で制度改正を進めている。国内産業の健全な発展と消費者保護、そして税収確保のバランスをいかに実現するかが、今後の政策運営の焦点となる。
「ささいなこと」として始まったデミニミスルールは、グローバルEC時代の到来とともに大きな社会的・経済的インパクトを持つ制度へと変貌した。制度の見直しを通じて、どのような競争環境と消費者メリットが生まれるのか、引き続き注視が必要だ。
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