歩道を普通に歩いていただけで、高額な賠償を命じられる──そんな理不尽な出来事が現実に起きた。
2023年5月19日、中国・青島市で、通話しながら前を歩いていた人物が、突然何の前触れもなく振り返って逆走し、後ろを歩いていた歩行者と衝突。逆走したほうは転倒して骨折。
その後ろを歩いていた市民は、「あんた、なんで避けないんだ?」と怒りをぶつけられ、裁判を起こされ、「安全距離を保たなかった過失がある」として約7万元(約140万円)の賠償を命じられた。
後ろを歩いていた市民にとっては、まさに「天から降ってきた災い」と言うほかない。これが今、中国社会に波紋を広げている「青島・歩行者衝突事件」である。
“荒唐無稽な判決”の余波が冷めやらぬ青島(中国山東省)で、今度は裁判所自らが証拠映像を捏造していたとの疑いが浮上した。
「青島歩行者同士衝突事件」の判決は中国国内のテレビ番組でも紹介されたが、SNSでは「歩行に“安全距離”などという概念があるのか」と炎上。
現地の法学教員からも「安全距離は交通法の用語であって、人混みの中で歩く市民に適用できるものではない」と厳しく批判。今や「青島では7万元ないと町を歩けない」「年金にカネ払わなくていい、年を取ったら青島行って当たり屋やる」といったブラックジョークすら出回っているほどだ。
ある論評記事に至っては「青島の裁判官は創造性がある、『安全距離を保たなかった』という専用の法律用語を発明したうえ、それを“優良判例”と称して、当たり屋たちに、合法的な仕事法を提供した」と皮肉っている。
世論の批判を受け、青島地裁は「安全距離という表現は不適切だった」と釈明し、「真実の経過を示す映像」を公開した。しかし、その映像は、テレビ放送時のイラストによる再現映像の内容と異なっていたのだ。

エポックタイムズの姉妹メディア・新唐人テレビ(NTD)は、現地の独自情報ルートから入手した証言として、「テレビで放送された内容のほうのが実際の状況であり、後に裁判所が出した映像は、完全な捏造」と報じた。
さらに、NTDの取材に応じた内部関係者によると、炎上を受けて青島市当局は公安、司法局、裁判所、そして弁護士会に対して緊急会議を招集して、全関係機関に「当局公式の説明を拡散するよう」命じ、ネット上の否定的なコメントの監視と削除を徹底するよう指示したという。
今回の騒ぎで、「安全距離」という言葉は、間違いなく中国のことしの“流行語大賞”の有力候補だ。
もはや中国の街を歩く際には、前を歩く人との間の“訴訟リスク”を考慮して、安全距離を取らなければならない。
「なぜ避けなかった?」と訴えられ、7万元の“通行料”を払う羽目にならないよう、今後は「歩行保険」という新たな保険が発売されそうだ。もう笑うしかない。


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