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外国人運転手の日本語要件緩和 特定技能制度の拡大と課題

2025/06/11
更新: 2025/06/11

6月11日、法務省で開催された有識者会議において、外国人労働者の在留資格「特定技能」と「育成就労」制度の運用に関する検討が行われた。特に、バス・タクシー運転手の日本語能力要件の緩和が主要な議題となり、運転手不足の解消を目指す一方で、安全性やサービス品質に関する懸念が浮き彫りになった。

特定技能制度は、2019年に創設され、人手不足が深刻な16分野で外国人労働者を受け入れる枠組みである。2024年6月末時点で約25万人がこの資格で在留している。2024年3月29日の閣議決定により、自動車運送業(バス・タクシー・トラック)が新たに対象分野に加えられ、2024~28年度で最大2万4500人の外国人受け入れを見込む。一方、「育成就労」制度は、技能実習制度の廃止に伴い2024年に創設され、特定技能への移行を前提とした3年間の育成プログラムを提供し、2027年から本格施行される予定である。

日本語要件の緩和N3からN4へ

バス・タクシー運転手の特定技能評価試験では、2025年4月末時点で合格者がゼロだったことを受け、政府は日本語能力要件の緩和を決定した。現在、特定技能の在留資格で求められる日本語能力試験(JLPT)の基準はN3レベル(日常的な日本語をある程度理解できる)だが、これをN4レベル(ひらがなの読み書きや基本的な会話が可能な基礎レベル)に引き下げる。さらに、N4レベルの外国人運転手に対し、日本語サポーターの同乗を義務付けることで、業務中のコミュニケーションを補佐する。

サポーターは、乗客とのやり取りや緊急時の対応を支援し、運転手には日本語能力向上のための教育プログラムを提供し、N3取得を促す。この措置は、運転手不足の早期解消を目指す一方、業務の質を維持するための暫定的な対応と位置付けている。

問題点と懸念

日本語要件の緩和には、以下のような問題点や懸念が指摘されている。

コミュニケーション能力の不足

N4レベルは基本的な会話やひらがなの読み書きが可能な程度であり、乗客との細かなやり取り(道案内、クレーム対応)や緊急時の対応には不十分である可能性がある。X上では、日本語教師が「N4ではひらがなも書けない」と批判し、業務遂行に支障が出るとの声が広がっている。

安全性の懸念

バスやタクシーは公共交通機関であり、乗客の安全が最優先される。N4レベルでは、警察や救急との連絡、乗客への適切な指示が難しい場合があり、安全性への影響が懸念される。日本語サポーターの同乗を提案しているが、常時配置の現実性や人員確保の負担が課題である。

サービス品質の低下

タクシーやバスは接客業の側面が強く、丁寧な接客や地域情報の提供が求められる。N4レベルではこれらの対応が不十分になる可能性があり、顧客満足度の低下が懸念される。特に観光客向けサービスでは、英語や他の言語スキルも求められる場合があり、N4レベルの日本語力だけでは対応が難しいとの指摘がある。

日本語サポーター制度の実効性

サポーターの同乗は、N4レベルの運転手の日本語能力を補う措置だが、運用面での課題が多い。雇用コスト、資格や訓練の必要性、常時同乗のスケジュール調整の難しさなどが問題視されている。維新の会の柳ヶ瀬裕文議員は「日本語が話せる人を同乗させるのは本末転倒」と国会質疑で指摘し、制度の整合性に疑問を呈している。

運転手不足解消とのバランス

要件緩和は運転手不足の解消を目的としているが、労働力増加と安全性・サービス品質の維持とのバランスが課題である。N3の基準が高すぎる一方、N4への緩和が質の低下を招くリスクが議論されている。

今後の展望

政府は、日本語サポーター制度や早期のN3取得促進策を通じて、懸念への対応を図る方針である。しかし、運用ルールの明確化や教育体制の強化が不可欠である。また、特定技能や育成就労制度全体の適正運用に向け、不正防止策や入管DXによる審査体制の整備も進める必要がある。

バス・タクシー業界における外国人運転手の受け入れは、人手不足解消の有効な手段となり得るが、安全性とサービス品質の維持が成功の鍵となる。

清川茜
エポックタイムズ記者。経済、金融と社会問題について執筆している。大学では日本語と経営学を専攻。