どれほど絶望すれば、命の次に大事なお金をバラまけるのか?
6月12日、中国・広東省深セン市宝安区の小さな川に、中国で最高額面となる百元紙幣(1枚約2千円)が束のまま大量に投げ込まれているのが発見された。
現場では、通りかかった男性が袋を手に紙幣を拾い集める姿が目撃され、ネット上では「総額は100万元(約2千万円)を超える」との情報が飛び交った。

現場を撮影した人物によれば「札束を投げたのは中年おじさん、投げた後すぐに去っていった。当時は怖くて拾えなかったが、今は後悔している」という。一方、拾得者の男性は複数回にわたって紙幣を回収し、袋いっぱいに詰め込んだという。関連動画は一時ネット上で拡散されたが、すでに中国国内のプラットフォームでは削除された。
ネット上では「汚職官僚による証拠隠滅ではないか」「失意の末に捨てられたのでは」といった憶測が飛び交った。
(現場の様子)
実際、近年の中国では同様の「紙幣ばら撒き事件」が相次いでおり、そのたびSNSで大騒ぎになり、例えば、新型コロナ(中共ウイルス)を封じ込めようとした「ゼロコロナ政策」下のロックダウン中の武漢では、同様の現金ばら撒き事件が何件も起きた。
今年1月11日には、湖北省黄石市で男性が河川に現金を投げ入れ、昨年11月7日には貴州省銅仁市で「2キロにわたり札を撒きながら歩いた人物」が確認された。昨年1月に、広東省広州市で起きた社会報復事件の市民を、無差別に轢き殺した暴走車の運転手の男も、犯行後に紙幣をばらまいていた。
昨年8月には、河南省鄭州市で自殺前の女性が、マンション11階から大量の現金をばら撒いていた。昨年12月には、雲南省大理市にある著名な観光スポット「大理古城」の楼閣上から、大量のお札がばらまかれ、2023年8月10日には、浙江省金華市の路上に、札束が撒かれ、騒然となった。

なぜ、命の次に大事(と教えられてきた)なものを投げ捨てるのか……。追い詰められた末の衝動か? あるいは「一切向銭看」の果ての人生に対する絶望なのか? 真相は不明のままだ。
なお、「一切向銭看」という言葉は、本来「一切向前看(どんなときも前を向こう)」という前向きな励ましの言葉から派生したものだったが、中国共産党が金こそがすべてという価値観を広める中で、「前(ぜん)」と同じ発音の「銭(ぜん)」にすり替えられ、金銭第一のスローガンとして定着した。
もともと中国は、仁・義・礼・智といった精神的価値を重んじる文化を持っていた。しかしその伝統は、共産党による思想改造と無神論教育の中で破壊され、「金を得るためなら人間性すら切り捨てていい」という歪んだ価値観が浸透したのである。
いずれにしても、金さえあれば、何でも叶う──そう刷り込まれてきた社会で、人は今、逆に「金を捨てる」という行為でしか、何かを訴えることができなくなっているのかもしれない。

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