香港の大富豪・李嘉誠氏は現在、中国本土および香港に保有していた資産を大規模に売却し、その資金をヨーロッパのエネルギー、インフラ、公益事業へ積極的に投資している。この動きは世間の注目を集めており、中国の時事誌『南風窗』(8月13日号)は「李嘉誠は危険を嗅ぎ取った」と指摘し、中国での資産売却が加速していると伝えている。
「土地を溜め込む王」から「投げ売り王」への異常な転換
李嘉誠氏が中国資産を売却するたびに、世論は二つに分かれる。一方では、これは純粋に商業的な判断であり、市場環境を見据えた投資家として当然の行動だと捉える人々がいる。しかし他方では、こうした動きは並の資産調整とは異なる不穏なシグナルを放っており、その背後には何らかの重大な不確実性が隠されているのではないかと見る向きも少なくない。
では、なぜ今になって李嘉誠氏が急いで「逃げ出す」必要があるのか。その理由を理解するためには、彼がかつて中国本土で成功を収めたビジネスモデルを振り返る必要がある。それは、「土地を安く仕入れ、長期保有する」という戦略である。
成都市の「南城都匯」プロジェクトは、その典型例と言える。2004年、李嘉誠氏は成都高新地区において21億元(約429億円)で土地を取得した。ところがその後の2年間、ほとんど工事を進めず、むしろその土地の一部を銀行に担保として差し入れ、資金を調達していた。その後、土地を8期に分けて段階的に開発し、取得から12年が経過してようやく第6期の開発に着手したのである。
2020年、李嘉誠氏は残っていた第7期・第8期分の権益を他社に売却し、この取引だけで38億香港ドル(約710億円)を手にした。そして同年、彼は突如としてプロジェクトからの撤退を開始した。長江実業の発表によると、同年7月、南城都匯の権益は英領バージン諸島に登記された共同出資会に譲渡されている。この会社は、中国の不動産開発会社の禹洲集団と成都瑞卓置業がそれぞれ50%ずつ出資している企業である。
李嘉誠氏は、「土地を超低価格で取得し、10年以上保有した後、市場の動向に応じて段階的に開発する」というモデルを、北京・東莞・上海・武漢など数多くの都市で繰り返し、莫大な利益を上げてきた。
しかし現在、彼の行動パターンは根本的に変化している。かつては不動産不況期に土地を取得し、市場のピークで現金化していたのに対し、今では不振の不動産市場において資産を投げ売り同然の価格で手放している。この異常な動きから、彼が資金を他分野に急速に振り向けているのか、あるいは完全撤退の準備を進めているのかといった憶測が広がっている。
資産の投げ売りが加速する背景
近年、李嘉誠氏の資産投げ売りは一層加速している。今年7月末、不動産大手・長江実業集団は大湾区(中国の恵州市・中山市・東莞市・広州市)の4都市にある400戸の物件を投げ売り価格で一括売却し、最低総額はわずか40万元人民元(約820万円)に設定された。8月初旬には、複数の仲介業者によると、多くの香港人が中国本土に押しかけて購入し、いくつかの物件はほぼ完売状態となった。
李嘉誠氏が不動産市場の底で資産を急いで現金化している背景には、中国市場環境の大きな変化がある。具体的には、政策リスクの増大、マクロ経済の低迷、そして民間企業を取り巻く厳しい経営環境が挙げられる。
2015年以降、中国は不動産市場への規制を強化し続け、とりわけ「土地の囲い込み」や「長期保有」といった行為に対して一連の対策を講じてきた。この規制強化により、李嘉誠氏が長年築き上げてきた高利益モデルの維持は困難となった。
李嘉誠氏は、中国市場におけるリスクの増大を認識し、資産をより安定した海外市場へ移すことで、自身のビジネス帝国の長期的な安全を確保しようとしている。
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