中国 住民証言から見えた老兵の絶望

中国で止まらぬ報復事件 今度は人気観光地で24人死傷

2026/06/15
更新: 2026/06/15

「社会の戾気(リーチー)が強すぎる」。

近年、中国のネットや日常会話で頻繁に聞かれる言葉である。

戾気とは、正気の対極にあるものだ。ここでいう正気とは、人としての良心や善意、健全な社会の気風を指す。戾気はその反対側にある凶暴で破壊的な気であり、人の理性や善意を飲み込んでいく。

近年の中国では、些細な口論から殺人へ発展したり、無差別殺傷や他人を道連れにする凶悪事件が後を絶たない。そのため、多くの人が「社会全体に戾気が渦巻いている」と口にするようになった。

そんな中国で、その「戾気」を象徴するような大惨事が、また起きた。

6月11日未明、水墨画のような美しい景色で知られる中国有数の観光地・桂林(広西チワン族自治区)が、突如として爆音と炎に包まれた。

午前1時40分ごろ、桂林市興安県の住宅街で、社会への報復だったとの見方も出ている大規模な爆発が発生した。爆発の衝撃は4キロ先まで伝わり、周辺一帯の窓ガラスは吹き飛び、壁やドア枠には亀裂が走った。

住民は「まるで竜巻が街をなぎ倒したようだった」と振り返る。この爆発で少なくとも7人が死亡、17人が重傷を負った。負傷者の中には2歳の子供も含まれている。

当局は詳細な原因を公表していない。しかし、複数の住民は本紙の取材に対し、事件の内幕を語り始めた。その話をつなぎ合わせると、一人の高齢男性が追い詰められていく悲劇の構図が浮かび上がってくる。

住民らによると、男は1953年生まれで、かつて軍の工兵部隊に所属し、爆薬に関する知識を持っていた。病気を抱えていた男は、「治療に効く」と宣伝された茶葉に8万元(約180万円)を支払ったものの、期待した効果は得られず、返金も受けられなかった。

「病気なのに治療するお金もなくなった」「返金もしてもらえなかった」「最後は金が尽きてしまった」。住民たちは、そんな男の絶望を語っている。

事件後、現場周辺は警察や特殊部隊による厳戒態勢となった。同時に厳しい情報封鎖も敷かれ、住民たちは自由に話せない状況に置かれている。

一方で、本紙の取材に応じた住民たちも、公の場で発言することには強い警戒感を示している。ある住民は、「地元の人間はネットでは話せません。こういう話は身近な人同士で話すくらいです。警察に目を付けられるのが怖いので、許してください」と語った。

そして、この事件は決して特殊な例ではない。

今年に入ってからも、北京でショベルカーが市場に突っ込み人々を次々とはねた事件や、瀋陽での無差別殺傷事件、福建省での車両突入事件、広東省での通り魔事件などが相次いでいる。

5月に入ってからも、成都、柳州、温州、洛陽などで無差別傷害事件が続発した。広西チワン族自治区陸川県では、警察官への報復を目的とした襲撃事件も起きている。

さらに体制内部の関係者は、「中国では毎日数百件規模の刃物による傷害事件が発生し、そのうち数十件は悪質な無差別襲撃事件だが、公表はほとんどない」と明かしている。

当局はすでに、不満を抱える住民や極端な思想を持つ人々の洗い出しを地方政府に指示しているともいう。

桂林の夜空を赤く染めた炎。もし住民らの話が事実なら、騙されても救われず、怒りの行き場を失った一人の高齢男性の絶望があったのかもしれない。そして最後に、自分自身も巻き込みながら社会へ怒りをぶつけた。

これは一人の高齢者の暴走で片付く話なのだろうか。人々が「社会の戾気が強すぎる」と口にする理由が、その炎の向こうに見えるような気がする。

 

(現場の様子)

李凌
中国出身で、日本に帰化したエポックタイムズ記者。中国関連報道を担当。大学で経済学を専攻し、中国社会・経済・人権問題を中心に取材・執筆を行う。真実と伝統を大切に、中国の真実の姿を、ありのままに、わかりやすく伝えます!