小型ドローンとはいえ、軍事施設への侵入が突き付ける安全保障上の問題は決して小さくない。
オーストラリアでは2024~25年度、軍関連施設でドローンによる侵入事案が147件確認された。安全保障の専門家は、侵入が常態化すれば、外国勢力に軍事施設や運用態勢を探る情報収集の機会を与えかねないとして警戒を強めている。
懸念が改めて浮上したのは、豪南東部ニューサウスウェールズ州(NSW)のウィリアムタウン空軍基地だ。7月11~13日の3夜にわたり、ドローンが相次いで基地の制限空域に侵入したと報じられた。
同基地には、豪州が保有するステルス戦闘機F35Aの大半に加え、早期警戒管制機E7A「ウェッジテイル」6機すべて、ホーク127やPC21などの練習機が配備されている。
豪国防省報道官はメディアに対し、ドローンの操縦者や飛行目的は確認できていないと説明した。
事案の捜査はニューサウスウェールズ州警察の対無人航空機(Counter-UAS)部隊に引き継がれた。
パット・コンロイ国防相は8月10日、警察による捜査が終了したことを明らかにした。一方、捜査結果については公表を拒否。豪ABCのインタビューでは「われわれは人員、基地、能力を守るため、強固で多層的な安全保障措置を講じている」と述べるにとどまった。
基地では対策の一環として、軍関係者に窓のブラインドを閉めるよう指示したとも伝えられている。
しかし、機微な軍事施設上空へのドローン侵入は、今回が初めてではない。
2024年12月中旬には、中国人とみられる人物がクルーズ船の訪豪中に飛ばしたとされる民生用ドローンが撮影した映像がSNS上で拡散した。ドローンはシドニーのガーデン島に停泊していた強襲揚陸艦「キャンベラ」の飛行甲板に着陸。近くに停泊していた「ワラムンガ」や「チョールズ」も撮影していた。
中共関与の証拠は「現時点でない」 元豪連邦警察官
この事案は警告として受け止めるべきだったと指摘するのが、アジア太平洋安全保障研究所のポール・ジョンストン氏だ。
豪連邦警察の元捜査官である同氏は、ドローン侵入の「頻度、執拗さ、潜在的な情報収集価値」を軽視することはできないと強調する。
ジョンストン氏はエポック・タイムズに対し、「正体不明のドローンをすべて、制限空域に誤って侵入したレジャー目的の操縦者だと片付けるのは危険だ」と述べた。
ただ、中国共産党や中共軍、中共の情報機関が関与したことを裏付ける公表済みの証拠は、現時点では存在しないとも認める。
「証拠なしに中共の責任だと断定すべきではない。しかし、外国の情報機関による活動の可能性をオーストラリアが無視することもあってはならない」
「軍事施設は明白な情報収集の標的だ。特にインド太平洋地域におけるオーストラリアの戦略的重要性が高まる中ではなおさらだ」
ウィリアムタウンの事案で最大の懸念は、ドローンが制限された軍用空域に繰り返し侵入したにもかかわらず、無力化されなかったことだという。
「国防当局が、数十億ドル規模の航空機や戦略的に重要な施設を守りながら、正体不明のドローンを単なる航空規則上の問題として扱うことはできない」
「ウクライナなど近年の紛争から得られた戦場の教訓は明白だ。小型無人航空機は偵察を行い、標的を特定し、攻撃を誘導できる。敵対的な状況では爆発物を搭載することも可能だ」
ジョンストン氏は、包括的な防諜調査を実施するとともに、国内の主要防衛施設に多層的な対ドローン(Counter-UAS)能力を整備するよう求めている。
「SFの想定ではない」 専門家が対ドローン防衛の強化要求
豪シンクタンク「ストラテジック・アナリシス・オーストラリア」のマイケル・ショーブリッジ所長は、2024年のガーデン島の事案以降、「オーストラリアの防衛にとって最も明白に重要な場所さえ守るための措置が、何年も講じられていない」と批判する。
同氏は、エポック・タイムズに対し「オーストラリアは主要な軍事基地に対する対ドローン防衛に緊急に投資する必要がある。重要インフラについても、いまや現実となっている脅威から、少なくとも限定的に防護できる手段を持つべきだ。遠い未来のSFのような仮想的シナリオではない」と述べた。
ショーブリッジ氏は、豪信号情報局(ASD)と国防情報機構(DIO)の双方で副長官を務めた経歴を持つ。
同氏は「残念ながら、オーストラリア軍は新技術の導入も学習も遅い」と指摘。「年間600億豪ドルに上る防衛予算は、大規模で時間のかかる事業に縛られている」とし、「小型ドローンという、いまや通常の脅威から防護するうえで、想像力の欠如と行動の欠如という危険な組み合わせが生じている」と訴えた。
対ドローン技術には、各種センサーのほか、散弾銃や迎撃機器といった比較的単純な装備も含まれる。
「オーストラリア企業はこうした装備を供給できる。しかし防衛当局の官僚は発注していない」と同氏は批判する。
また、ウィリアムタウンの事案が公になった経緯について、内部告発者がフィリップ・トンプソン下院議員に情報を伝え、同議員がメディアに知らせたためだと指摘した。
ショーブリッジ氏は、今回の事案について政府から詳細な説明を受けるよう求めている。
「政府には一歩踏み出してほしい。行動を起こしてほしい。『多層的な防衛』という説明だけでは納得できない。基地を守るための対無人航空機能力について、いまこそ実際の行動を取るべきだ」
豪政府は最近、対ドローン技術に70億豪ドルを投じる方針を表明した。ただ、支出は今後10年間にわたって行われる予定で、内訳にはAIM Defenceへの2130万豪ドル、SYPAQ Systemsへの1040万豪ドルの発注が含まれている。
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