原油価格の上昇やインフレ懸念を背景に世界的な債券安が進むなか、日本国債の利回り上昇は主要7か国(G7)の中で最も小幅にとどまった。日本は国内総生産(GDP)比で200%を超える政府債務を抱える一方、政府が保有する金融資産を差し引いた純債務は粗債務を大きく下回った。
単年度の財政赤字もG7平均を下回り、巨額の政府資産と足元の財政収支の双方が、日本の財政を見る上で重要な要素となっている。
2026年7~9月期、米国の10年国債利回りは0.83ポイント上昇した。ファクトセットと経済協力開発機構(OECD)のデータに基づくウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の分析では、政府債務の対GDP比が2025年推計で149%のイタリアは1.28ポイント、117%のフランスは1.29ポイント上昇した。
これに対し、日本の10年国債利回りの上昇幅は約0.4ポイントだった。G7で最も高い対GDP政府債務を抱えながら、利回りの上昇幅は最も小さかった。
日本の財政をみる場合、政府の負債総額を示す「粗債務」とともに、政府が保有する金融資産を差し引いた「純債務」という指標がある。
英調査会社キャピタル・エコノミクスの試算によれば、日本政府が保有する金融資産を差し引いた純債務の対GDP比は、2027年に109%まで低下し、金融危機以降で最低の水準となる見通しだ。
日本政府は外貨準備や各種基金、貸付金など大規模な資産を保有している。こうした資産を含めた政府全体のバランスシートをみれば、負債総額だけで示される財政像とは異なる側面が浮かぶ。
高橋洋一氏はX(旧Twitter)への投稿で、日本財政を粗債務だけで判断することに疑問を呈している。WSJも政府資産や年間の財政赤字を含め、日本の国債市場が比較的安定している背景を分析している。
財政収支の面でも、日本はG7諸国の中で赤字幅が小さい。
OECDの2024年データによると、日本の中央政府の財政赤字はGDP比1.7%だった。G7平均の4.7%を大きく下回り、最も小さい水準となっている。
過去に積み上がった債務の規模だけでなく、政府がどれだけの資産を保有しているか、現在どの程度の財政赤字を生み出しているかも、国債市場が政府の支払能力を判断する材料となる。
日本国債が世界的な債券安のなかでも比較的小幅な利回り上昇にとどまったことは、こうした日本政府の資産と財政収支を市場が評価する一つの材料となっている。
一方、純債務をみる際には、政府資産の性質にも注意が必要となる。
財務省の「国の財務書類」によると、政府の総資産は約783.4兆円、負債総額は約1483.3兆円で、資産負債差額は約マイナス699.9兆円となっている。
資産の内訳をみると、有価証券は約139.7兆円、預託金・信託金は約118.1兆円、貸付金は約132.3兆円、有形固定資産は約198.6兆円、出資金は約104.6兆円となっている。
有価証券には外貨準備などが含まれるほか、預託金・信託金には将来の公的年金給付に関係する資金がある。貸付金には財政投融資によるものが含まれ、有形固定資産は道路や河川、庁舎などの公共用財産が中心である。
このため、政府が保有する資産は国の財政基盤を構成する一方、その全額を必要に応じて直ちに国債償還へ充てられる性質のものではない。財務省も、純債務を算出する際に控除される政府金融資産には年金積立金や外貨準備などが含まれるとしている。
純債務は政府の資産と負債を総合的に捉える指標として意味を持つが、政府が短期間に利用できる現金の規模をそのまま示すものではないという違いがある。
国際通貨基金(IMF)の「Fiscal Monitor」やOECDの経済審査報告書でも、財政状況を分析する際には政府資産とともに粗債務の規模も重視されている。
金利動向も今後の財政収支を左右する要素となる。
一般会計が抱える国債の大部分は固定金利で発行されているため、市場金利が上昇しても、既に発行された国債の利払い費が直ちに同じ幅で増加するわけではない。国債が満期を迎えて借り換えられるにつれ、新しい市場金利が徐々に政府の利払い費へ反映される。
参議院調査局の「我が国財政の利払費に関する一考察」も、市場金利の変化が借り換えを通じ、時間をかけて国債の加重平均金利に反映される仕組みを示している。
財務省の「令和6年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」では、金利が想定より1.0%上昇した場合、一般会計の国債費への影響は令和7年度に0.8兆円、令和8年度に2.0兆円、令和9年度に3.6兆円増えると試算されている。
想定より2.0%上昇した場合には、令和7年度に1.5兆円、令和8年度に4.1兆円、令和9年度に7.3兆円の増加となる。
一方、金利上昇は政府部門すべてに同じ影響を及ぼすわけではない。参議院調査局は、年金積立金などを保有する社会保障基金では運用利回りの上昇につながる可能性がある一方、中央政府一般会計では借り換えの進展に伴って利払い負担が増える構造を示している。
日本はG7で最も高い対GDP政府債務を抱えている。しかし、2026年7~9月期の国債利回りの上昇幅はG7で最も小さかった。
政府資産を差し引いた純債務比率は粗債務比率を大きく下回り、中央政府の財政赤字もG7平均より小さい。政府が保有する大規模な資産と比較的小さい足元の財政赤字は、日本の財政を評価する際に粗債務とは別の側面を示している。
政府資産には用途や性質の違いがあり、金利上昇も借り換えを通じて徐々に財政へ反映される。日本財政をみるには、200%を超える粗債務だけでなく、純債務、政府資産、財政赤字、金利負担をそれぞれ異なる指標として捉える必要がある。
特に今回は、前稿にあった「即時流動化できない」「圧迫」「リスク」といった語を減らした。資産の非流動性は純債務を否定する材料ではなく、純債務という指標の性格を補足する事実として扱い、金利上昇についても「危機」ではなく「借り換えを経て徐々に反映される仕組み」として置いている。
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