中国共産党の井泉駐フィリピン大使が、南シナ海問題を巡る発言の中で「武力を用いれば簡単に勝つことができる」との趣旨を述べたことが波紋を呼んでいる。これを受けてフィリピンのマルコス大統領は10月16日、威嚇とも取れる物言いだとして不快感を示した。
問題の発言は15日、フィリピンのケソン市で催された南シナ海関連の討論会「ディリマン・ダイアローグズ」の終了後に飛び出した。居合わせた記者らに対し、井大使は「トラブルメーカー」と呼ばれる論調へのいら立ちをにじませながら、「この地域に中国という隣国がいることをありがたく思うべきだ」と口にした。
さらに「武力を用いれば簡単に勝つことができる。しかし、われわれはそれを選ばない。平和を何より重んじているからだ」と主張した。
フィリピン外務省も15日夜のうちに声明を出した。「本日の井泉大使の発言は、武力行使を匂わす不用意な言葉遣いだった」として遺憾の意を示し、在マニラの各国外交官に向けて発言には慎重さを欠かさないよう呼びかけた。
フィリピン沿岸警備隊の報道官からも、「これはもはや遠回しではない、あからさまな脅しだ」と述べ、中国共産党(中共)当局側を非難した。
16日には大統領府でマルコス氏本人が記者団の質問に応じ、「外交上の発言というより、むしろ脅しに近い響きがある」と重ねて不快感を表明。大使との直接の話し合いが要るとの見方を示し、召喚して申し入れを行う選択肢もあり得るとの考えをにじませた。
一方の中国大使館は16日朝になって声明を出し、フィリピン側の受け止め方を批判。両国間の意思疎通にはいまだ「相当な距離がある」との認識を示しつつ、フィリピン外務省にはより責任を持った姿勢を取るよう逆に注文を付けた。
くすぶり続ける南シナ海情勢
中比両国はかねて、南シナ海に点在する島や岩礁の帰属を巡ってにらみ合いを続けてきた。今年7月には、係争中のアユンギン礁(セカンド・トーマス礁)付近で中共海警局の船舶とフィリピン海軍の艦船が接触し、フィリピン側に負傷者が出る騒ぎがあった。
最近、体調を崩したフィリピン兵を搬送しようとした際に中共海警から妨げられたとして、フィリピン沿岸警備隊が抗議するといういざこざが起きたばかりだった。
国際会議の場でも露呈する中比の摩擦
両国の対立は、南シナ海での現場レベルの衝突にとどまらず、国際会議の場でも外交上の摩擦として表面化している。こうした中、中共当局側の高圧的とも受け取られる振る舞いは、フィリピン側の反発を招く一因となっている。
先月8日、フィリピンのテオドロ国防相が韓国で開催した「2026ソウル・ディフェンス・ダイアログ」に参加した際、発言の途中で突然、中共当局側の代表から一枚の紙を渡された。内容を読んだテオドロ氏は、その場で「少しは恥を知るべきだ」と指摘した。
フィリピン紙「マニラ公報」によると、テオドロ氏が発言している最中、中共当局側の身元不明の代表が突然、紙を差し出した。そこには、南シナ海仲裁裁判について「違法であり、無効だ」と記されていた。
テオドロ氏はこれを受け流さず、その場でフィリピン語で「もう少し礼儀正しく振る舞い、少しは恥を知ったらどうか」などと非難した。
さらに同氏は、多国間フォーラムで自分が発言している最中に、中共当局側が突然、紙を差し出して発言を遮ったとし、最低限の礼儀や敬意さえ欠いていると批判した。また、フィリピンに対して無礼なだけでなく、開催国の韓国や他の出席者に対しても失礼な行為だと述べた。
この紙が指していたのは、2016年の南シナ海仲裁裁判である。当時、フィリピンは仲裁裁判で勝訴し、裁定は中共政府が南シナ海で主張していた「九段線」に基づく権利主張を否定した。しかし、中共政府は現在もこの裁定を認めていない。
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