米国の有力シンクタンクであるアトランティック・カウンシルは2026年2月3日、在日米軍再編計画(DPRI:Defense Policy Review Initiative)の抜本的な見直しを求める記事を発表した。本記事は、米海兵隊の沖縄駐留規模を縮小し、グアムへ移転させる現行の計画が、中国の台頭という現在の安全保障環境において「抑止力を損なう」と警告している。
背景:時代遅れとなった「負担軽減」の論理
日米両政府が2006年に署名した再編計画(DPRI)は、政治的な理由から沖縄の米軍駐留負担を軽減することを主眼としていた。具体的には、今後10年間で約5千人の海兵隊員と家族を沖縄からグアム等へ移転させる計画である。
しかし、レポートは、この計画が策定された当時と現在では、安全保障環境が劇的に変化していると指摘する。中国は西太平洋での支配権確立を加速させ、台湾統一を「核心的利益」と位置づけている。こうした状況下で、即応部隊を「第一列島線」の要衝である沖縄から、約2400キロメートルも離れたグアム(船で3日の距離)へ後退させることは、戦略的な誤りであると断じている。
実際、2024年12月には最初の海兵隊部隊100名が沖縄からグアムへ移転を開始したが、これは中国の軍事計画立案者が最も望む「第一列島線からの米軍排除」を自ら差し出すに等しい行為であると批判している。
戦略的懸念:スタンド・イン・フォースの必要性
レポートが強調するのは、沖縄に展開する第3海兵遠征軍(III MEF)および海兵沿岸連隊(MLR)の重要性である。これらは、中国のミサイル射程内(A2/AD環境下)で分散・隠蔽しつつ活動できる「スタンド・イン・フォース(内側に入り込む部隊)」として設計されている。
有事の際、これらの部隊が現場に存在することで、敵の侵攻を遅らせ、米軍本隊の増援到着までの時間を稼ぐことが可能となる。もし部隊がグアムに下がっていれば、迅速な展開は不可能となり、抑止力は著しく低下する。沖縄の地理的優位性は、台湾有事や北朝鮮への対処において代替不可能であるというのが同レポートの主張である。
今後の予測と提言:DPRIの再交渉と「3つの柱」
アトランティック・カウンシルは、現行のDPRIを破棄し、新たな現実に基づいた再交渉を行うべきだと提言している。その解決策として、以下の3つの柱を提示している。
1. 沖縄への経済的インセンティブの強化
再編見直しには、沖縄県民の理解と協力が不可欠である。レポートは、沖縄を「関税免除の特別区」として認定するなど、大胆な経済的優遇措置を講じることを提案している。観光業への恩恵や、基地内での日本企業の活動規制緩和を通じて、沖縄経済を活性化させる狙いがある。2024年の沖縄県議選で基地反対派の「オール沖縄」が過半数を割ったことは、県民の関心が経済問題にあることを示唆していると分析している。
2. 米国の防衛コミットメントの再確認
日本政府内にある米国の拡大抑止(核の傘を含む)への懸念を払拭するため、ワシントンは日本防衛への関与を公に再確認する必要がある。日本側が防衛費増額を続ける限り、米国は断固たる抑止力を提供するという姿勢を示すことで、再交渉の土台が築かれるとしている。
3. 基地運用の再編:普天間の継続使用と与那国島の活用
最も論争を呼ぶ可能性があるのが、普天間飛行場の扱いである。レポートは、普天間基地の閉鎖・返還を見直し、継続使用すべきだと主張している。固定翼機の岩国移転により騒音や危険性は以前より低下しており、キャンプ・シュワブ(辺野古)の新施設と普天間の「両方」を維持・活用することが、作戦上の柔軟性と兵站拠点としての機能を最大化すると論じている。
さらに、南西諸島防衛の強化として、日本最西端の与那国島への海兵隊展開も視野に入れるべきだとしている。陸上自衛隊と連携し、ローテーション配備や共同訓練を行うことで、中国に対し強力なシグナルを送ることができる。また、グアムの施設については、海兵隊の代わりに、太平洋でのプレゼンスを強める米陸軍が使用する案も示されている。
結論
レポートは、東京とワシントンの現政権に対し、過去の経緯に縛られず、劇的に変化した安全保障環境に適応するよう求めている。沖縄への経済支援、強固な抑止政策、そして地域全体での戦力再配置を含む「新DPRI」への転換こそが、日米同盟と地域の平和に貢献する道であると結んでいる。
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