二流の大陸へと転落する欧州

2026/07/12
更新: 2026/07/12

※本稿は、ポッドキャスト番組「Victor Davis Hanson: In His Own Words」で7月8日に配信された内容を、軽微に編集した文字起こしである。

 

欧州は苛立っている。非常に怒っている。欧州はいつも怒っているが、ここ2週間は特に怒りを募らせているようだ。報道によると、欧州連合(EU)の冬季首脳会議で、欧州各国は米国全般、とりわけドナルド・トランプ大統領に対する激しい怒りを表明したという。

その理由は分かっている。欧州は、自分たちに関税が課されたことに怒っている。しかし、欧州が米国に対して巨額の貿易黒字を計上していることには触れなかった。

欧州は、グリーンランド併合をめぐるトランプ氏の排外主義的で大げさな発言にも怒っている。確かに大げさではあったが、トランプ氏の指摘にも一理あったのではないか。グリーンランドは北米に位置する極めて重要な土地でありながら、遠く離れたデンマークの植民地となっている。

第二次世界大戦中、デンマークはグリーンランドを失った。その後、米国が同地を回復し、デンマークに返還した。デンマークには、第二次世界大戦中、この戦略的要衝を守る能力がなかったからである。冷戦中も米国が同地を防衛し、基地を置いた。そして現在、グリーンランドへの中国やロシアの浸透を阻止できるほど強力な国は、米国しかない。

したがって、この論争には双方に言い分があった。

欧州は、トランプ氏が北大西洋条約機構(NATO)から米軍を撤収させようとしていることにも非常に怒っている。撤収するのは大規模な兵力ではない。少数の部隊と、おそらく一部の航空部隊である。しかも米国本土に戻すのではなく、太平洋・アジア地域に再配置する。トランプ氏は、米国の存亡にかかわる脅威はロシアではなく、中国だと考えているからである。

それでは、欧州はなぜそれほど怒っているのか。

明白な理由として、米国はNATOの実際の予算の約16~20%を負担してきた。しかし、間接経費、兵站、情報活動、核抑止力まで含めれば、米国の負担は実質的に50%程度に達する。米国の国防支出は年間1兆5千億ドルに達しようとしているが、欧州全体を合わせても、その金額には遠く及ばない。

欧州側はこう主張する。われわれはいまロシアと向き合っている。米国は、ロシアがバルト三国やポーランドに侵攻する可能性を理解していない、と。

われわれは理解している。欧州には7万人を超える米軍兵士が駐留しており、欧州諸国は引き続き米国の「核の傘」の下にある。トランプ氏もすでにプーチン氏に対し、欧州のいかなる場所、地域、時点であっても、ロシアが侵攻すれば一線を越えることになると説明している。

しかし、欧州が怒っている理由には、さらに深い原因がある。ここまで述べたのは直接的な原因にすぎない。

ワールドカップ期間中、米国との関係を通じて、欧州の良い面と悪い面の両方が表れた。実際に米国中部の各会場を訪れた欧州の人々は、カンザス州やミズーリ州、南部、農村部、郊外、農業地域の人々と接し、彼らに好感を持った。

欧州の人々は、自分たちが米国人を気に入ったことに非常に驚いていた。米国人は親切にもてなし、寛大で、優しく、謙虚だったからである。

欧州の人々はそれまで、米国の東西両海岸に住むエリート層が、こうした人々を「嘆かわしい人々」「銃や宗教にしがみつく人々」「救いようのない人々」と評する見方を、基本的に受け入れていた。ジョー・バイデン氏の言葉を借りれば、「ごみ」「くず」「間抜け」といった評価である。しかし、実際に会ってみると、彼らは米国人を大いに気に入った。

その一方で、ブリュッセルでは、欧州が米国に勝利したことを誇示し、もちろんトランプ氏をからかっていた。トランプ氏の踊り方や、ある選手を復帰させるために介入したとされることをあざ笑ったのである。こうして、古くからの反米主義が再び表面化した。

しかし、欧州の怒りのさらに深い原因については、彼らにもある程度の理解を示さなければならない。

およそ1500年から、便宜的に1940年ごろまでの約500年間、欧州はほぼ世界を支配していた。

ロンドンは世界の金融の中心地であり、パリは世界の文化の中心地だった。米国は新興国にすぎず、成功するはずがないと思われていた。

米国を建国した欧州出身者たちは、欧州の貴族でもなければ、富裕支配層でもなかった。貧しい人々や虐げられた人々だった。したがって欧州は、米国型社会の形成によって、自分たちの中で最も劣った人々を追い出していると考えていた。

しかし、実際にはそうではなかった。欧州が手放したのは、最も行動力があり、最も冒険心に富み、最も危険を引き受ける人々だった。

米国は第一次世界大戦で世界的な存在感を高め、特に第二次世界大戦後には世界の中心的地位を担い、冷戦を戦った。

欧州の人々は、米国の奇妙ではあるが独自性と卓越性を備えた憲法、自由市場資本主義、私有財産の保護、社会主義への嫌悪といった要素が、活力ある経済を生み出したことを目の当たりにした。

また、近年まで行われていた、合法的で多様性があり、能力を重視した移民受け入れも、米国にとってプラスに働いた。

私が言おうとしているのは、欧州の怒りの一部は、失われた栄光に由来するということである。

EUだけでも人口は4億5千万人に達する。NATO加盟国全体ではさらに多い。両者の重複を考慮しても、欧州人はおそらく5億人ほどいる。

彼らは高い教育を受けた西洋人であり、西洋文明の遺産を受け継いだ者、あるいはその遺産をつくり上げた者たちである。

それにもかかわらず、経済的、文化的影響力を測るあらゆる指標において、欧州は失敗している。

欧州が失敗しているのは、欧州人に才能がないからではない。彼らは極めて優秀な人々である。失敗の原因は、欧州が特定の政策路線を採用したことにある。

その政策路線とは、化石燃料を、信頼性が低く非効率なグリーンエネルギーに置き換えるというものだった。その結果、欧州は世界市場における競争力を失った。

欧州は再分配を重視する社会主義的な枠組みを採用し、特に上位中間層や起業家層を標的にしている。

一方で、欧州にはいまだに手を付けられない貴族階級が存在する。しかし、それは実際には、働きバチのように主体性を欠き、活力に乏しい人々の集団である。

欧州にはグーグルを創業するような人物も、ジェフ・ベゾス氏のような人物も、イーロン・マスク氏のような人物もいない。このような人々は、米国で活動したのと同じようには、欧州では活動できなかっただろう。

欧州は国境も開放してきた。欧州の衰退に最も大きな責任を負う人物は、アンゲラ・メルケル氏である。メルケル氏は国境開放政策と、特に中東からの不法移民の急激な流入を設計した人物だった。

ドイツなど一部の国では、人口の16%が外国生まれであり、同化も、文化への適応も、社会への統合も進んでいない。

さらに、ドナルド・トランプ氏が登場するまで、欧州は防衛費を支出しようとしなかった。本当に支出しなかったのである。

欧州は、自分たちは平和主義的で社会主義的であり、グリーンエネルギーを利用していると世界に説教することに頼っていた。その一方で、天然ガスを購入し、ウラジーミル・プーチン氏率いるロシアへの依存を深めていた。

私が何を言おうとしているのか。

欧州の人々は、自分たちの政策路線が機能していないことを分かっている。

彼らが米国を見ると、米国は原油を日量約1400万バレル生産している。米国は世界最大の天然ガス輸出国であり、自由市場経済は活況を呈している。

人口3億4000万人の米国は、人口5億人の欧州よりも、国内総生産(GDP)が10兆ドル多い。

欧州の人々はこう考える。

「なるほど。米国のやり方はうまくいっているが、われわれのやり方はうまくいっていない」

この事実が、欧州の人々を非常に怒らせる。なぜなら、その病は治療可能だからである。

米国には特別な責任もある。ある意味では、多様性・公平性・包摂性(DEI)や、グリーン政策への狂信、完全に開かれた国境という考え方を、オバマ、バイデン両政権の下で欧州に輸出したのは米国だったからである。

しかし、欧州とは異なり、米国は方向を転換し、是正策を講じた。

そのため現在、米国が欧州に語りかける際、批判するような口調で話しているのではない。

「われわれがしたことをまねてはならない。そんなことをすれば、二流の大陸になってしまう」と言っているのである。

米国もその方向に進んでいた。現在でも、その方向に戻ろうとする人々がいる。しかし、欧州は同じことをしてはならない。

われわれは、欧州より優位に立つパートナーではなく、対等なパートナーになりたい。

米国と欧州を結び付け、双方が最大限の潜在力を発揮すれば、世界の舞台で誰にも止められない存在になるだろう。

これは、領土拡張や帝国主義、植民地主義という意味ではない。米国と欧州の国境は安全になり、中国もロシアも中東のテロリストも、両者を攻撃しようとは考えなくなるという意味である。

しかし残念ながら、現在の欧州人は、自らの活力、重要性、影響力を取り戻すための薬が、病気そのものよりも苦しいものに思えることを知っている。

 

本稿は、ヘリテージ財団が発行する『デイリー・シグナル』の許可を得て転載したものである。

 

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
ビクター・デイヴィス・ハンソン(Victor Davis Hanson)は、古典学者および軍事史家です。カリフォルニア州立大学の古典学名誉教授であり、スタンフォード大学の古典学・軍事史シニアフェロー、ヒルズデール・カレッジのフェロー、そしてセンター・フォー・アメリカン・グレートネス(Center for American Greatness)のディスティングイッシュト・フェロー(特別客員研究員)を務めています。 ハンソン氏はこれまでに、『The Western Way of War(西洋の戦争のやり方)』、『Fields Without Dreams(夢なき耕地)』、『The Case for Trump(トランプを支持する理由)』、『The Dying Citizen(死にゆく市民)』を含む17冊の著書を執筆しています。