反日政策・法輪功迫害・臓器収奪・腐敗拡大 江沢民が残した禍根 生誕100年に問う

2026/08/20
更新: 2026/08/20

今月17日、江沢民の生誕百年を記念する式典が北京で開かれ、習近平は江沢民を異例な調子で称え、共産党の官製メディアも相次いでその「功績」を喧伝した。だが、その統治が残した禍根は、今も消えていない。

当時の上海市党委員会書記だった江沢民は1989年、天安門事件で学生らへの武力弾圧に反対した趙紫陽が失脚する中、上海で学生運動を抑え込んだことで党保守派から評価され、趙の後任として共産党総書記に抜擢された。その後、2002年まで総書記を務め、国家主席と中央軍事委員会主席を兼任。胡錦濤への政権移行後も中央軍事委員会主席の座にとどまり、影響力を維持した。

江沢民政権期には軍・官僚機構に腐敗が蔓延し、愛国主義教育を通じた反日感情の醸成が進み、法輪功に対する残酷な人権迫害も行われた。生誕100年の節目を機に、その統治が残した負の遺産を含め、江沢民政治の実像をたどる。

1、江沢民時代に腐敗が急拡大

江沢民政権期を特徴づける問題の一つが、党・政府・軍における腐敗の急速な拡大である。改革開放の進展に伴って経済規模が急拡大する一方、政治権力と経済的利益を結び付ける制度的な歯止めが弱く、権力を利用した不正蓄財や密輸、縁故人事が広がった。

とりわけ軍や地方組織では、幹部の昇進や資源配分をめぐって人的関係が大きな影響力を持つようになり、腐敗が個人の汚職を超えて組織的な問題へと発展していった。

軍内部では、1988年に軍銜制度(軍の階級制度)が復活した後、将官の昇進が相次いだ。1993年から2004年にかけて多数の将官が昇進し、1997年10月には1日で152人が昇進したとされる事例も報告されている。こうした急速な昇進の背景には、能力や実績だけでなく、上層部との個人的な関係や派閥への忠誠が影響したとの指摘があり、軍内部に人事権と経済的利益を結び付ける土壌が形成された。

中国共産党の会議に出席する官僚たち。(Getty Images)

腐敗の拡大を象徴するのが、1999年に発覚した「遠華事件」である。事件では巨額の密輸と脱税が明るみに出た。密輸貨物の総額は530億元、脱税額は300億元で、国家に与えた損失は合計830億元とされる。審査は600人余りの関係者に及び、うち約300人が刑事責任を問われた。1949年以降で最大級の経済犯罪事件の一つとされる。

さらに注目を集めたのが、事件が福建省の党・政府関係者を巻き込んでいた点である。密輸を拡大させた時期に福建省党委書記だった賈慶林が江沢民の側近とされたことから、捜査が党上層部にまで及ばなかったのではないかとの見方も根強く、地方権力と中央指導部の人的関係が腐敗の追及を妨げる構造を浮き彫りにした。

腐敗と縁故主義は、江沢民の長男・江綿恒にも及んだと指摘されている。江綿恒は父親の政治的影響力を背景に、通信、金融、軍需産業など幅広い分野で急速に影響力を拡大し、「太子党」型の特権の一例として批判された。

こうして江沢民時代に拡大した腐敗は、政権交代後も消えなかった。習近平政権は2012年末以降、大規模な反腐敗運動に乗り出し、2014年以降は江沢民派の徐才厚、郭伯雄ら軍上層部を相次いで摘発、大規模な軍改革にも踏み切った。こうした粛清と組織改革は、江沢民時代に形成された腐敗や人的ネットワークが軍内部に深く根付いていたことを示している。

2、反日を政治の求心力に 「歴史カード」の制度化

1989年の天安門事件により、共産党は従来の社会主義イデオロギーだけでは国民統合が困難になるという危機に直面した。その代替として持ち出されたのが、共通の歴史認識と「民族的屈辱」の記憶を軸とする愛国主義であった。

1994年に党中央が発した「愛国主義教育実施綱要」は、抗日戦争の歴史を学校教育・社会教育の中核に据えた。1995年の抗日戦争勝利50周年を境に、こうした教育・宣伝はさらに強化される。結果として、日本は中国の歴史教育において恒常的な「加害者」として位置づけられ、この教育を受けた世代の対日観に長期的な影響を及ぼしたと指摘されている。

こうして見ると、江沢民政権の対日政策が残した最大の影響は、個別の外交摩擦だけではない。「抗日」という歴史認識を愛国主義と結び付け、共産党政権の正統性を支える政治的枠組みの一部として定着させたことにある。歴史問題が日中関係のたびに再燃する構造は、江沢民時代に形成された側面が大きい。

反日教育がもたらした悪影響

反日教育がもたらした最も可視的な悪影響は、反日デモである。中国では大規模な街頭行動は通常、当局の黙認あるいは管理なしには継続しにくい性質があるが、反日デモは2000年代以降に繰り返し発生してきた。

2005年には、日本の国連安保理常任理事国入りや歴史教科書問題を機に、北京・上海をはじめ全国の主要都市で抗議デモが発生し、日本大使館や日系店舗への投石・破壊行為が相次いだ。

さらに2012年9月、日本政府による尖閣諸島の国有化を機に発生した反日デモは、柳条湖事件の記念日にあたる9月18日には中国全土100以上の都市に広がり、日中国交正常化(1972年)以降で最大規模となった。

山東省青島市では日系スーパーの店舗が破壊・略奪され、被害総額は約25億円、商品の8割が奪われたと報じられたほか、同市のパナソニック・ミツミ電機の工場やトヨタ・日産の販売店が破壊・放火された。

反日教育を受けて育った世代が担い手の中心となったこれらの事件は、日系企業の対中投資判断や日中間の経済関係にも現実的な打撃を与えた。

研究者の間では、愛国主義教育が中共政権自身の外交上の選択肢を狭める「諸刃の剣」として作用してきたとの指摘がある。

政府が長年にわたり対日強硬論を国民統合の手段として用いてきた結果、世論の対日感情がしばしば政府の統制を超えて先鋭化し、政権が対日関係の改善や譲歩を図ろうとする局面でも、国内の民族主義的な突き上げによって身動きが取りにくくなる構造が生まれた。

実際、江沢民の後を継いだ胡錦濤政権下では、対日愛国主義教育の行き過ぎを是正しようとする動きがあったとも指摘されており、江沢民時代に築かれた「歴史カード」の政治的枠組みが、後継政権にとってすら制御の容易ではない遺産となっていたことをうかがわせる。

中国東北部、吉林省長春市にある満州国故宮博物院にある慈禧楼の写真。写真右下の石碑には、「忘れ勿れ九・一八 江澤民」と刻まれている。(Rolfmueller/Author)

訪日時 江沢民の非礼

江沢民自身の反日的な振る舞いも、この時期の対日外交の性格を象徴する出来事として記録されている。1998年11月、江沢民は中国の国家元首として初めて公式に日本を訪問したが、この訪日中、日本政府による歴史教育が不十分だから国民の歴史認識が乏しいと発言し、日本の歴史教育を激しく非難した。

当時の小渕恵三首相に対しては、同年10月の金大中韓国大統領訪日時の日韓共同宣言にあった「痛切な反省と心からのお詫び」に相当する文言を日中共同宣言に明記するよう強く求め、その執拗な姿勢が日本国民の反発を招いた。 

とりわけ象徴的とされるのが、11月26日、宮中晩さん会での振る舞いである。当初、中国外交部は歴史問題に踏み込まない答礼スピーチの草稿を準備していたが、晩さん会の直前に江沢民の意向で内容が差し替えられ、晩さん会の席上で歴史問題への率直な日本批判が展開された。出席者が黒の礼服で臨む中、江沢民は人民服姿で出席した。

国家元首が公式行事の場で天皇陛下を前に反日的な発言を行ったこと自体が、日中関係史における異例の出来事として、その後も繰り返し取り上げられている。さらに翌27日には、日本の衆参両院議長主催の朝食会や日中友好団体主催の歓迎会でも、江沢民は繰り返し歴史問題に踏み込んだ発言を行った。 

この一件は、国賓を迎える儀礼の場においてすら対日批判を優先した江沢民の姿勢そのものが、単なる外交上の摩擦を超えて、日本国内における対中感情を長期的に冷え込ませる一因になった。

3、残酷な人権侵害

江沢民が抱えたさまざまな問題の中でも、とりわけ国際社会から厳しい非難を浴びたのが、深刻な人権侵害である。その最たる例が、法輪功に対する迫害だった。

27年前、1999年7月20日、中共政権は 「真善忍」を修める法輪功学習者を非道な手段で迫害し始めた。無数の法輪功学習者とその家族に壊滅的な被害をもたらし、多くの人々が職を失い、ひいては拷問や不当拘束、強制労働、さらには生きたまま臓器を摘出するという人権侵害にさらされてきた。

法輪功は「真善忍」を理念とする修煉法で、その健康効果と道徳性の回復が話題を呼び、国民階層に人気を博した。1999年当時には中国国内だけで法輪功学習者が1億人を超えていた。法輪功は、いわゆる宗教的な教団組織とは異なり、入会制度や会費などはなく、各地で自主的に集い、互いに参考にし合いながら修煉に励んでいる。

2014年5月10日、ニューヨークのセントラルパークで煉功する法輪功学習者たち(Dai Bing/The Epoch Times)

1998年5月、中国国家体育総局は法輪功に関する広範囲の調査を行った。同年9月には、医学専門家で構成された調査チームが、調査の一環として広東省の法輪功学習者1万2553人を対象に抽出調査を実施。その結果、病気の改善や健康増進について「有効」とされた割合は97.9%に上った。

1998年後半には、喬石・元全国人民代表大会常務委員長を中心とする一部の全人代退職幹部らも、法輪功について一定期間にわたり詳細な調査・研究を実施。その結果、「法輪功は国家と国民にとって百利あって一害もない」と結論付け、同年末、江沢民を中心とする共産党中央政治局に調査報告を提出した。

なぜ敢えて迫害するのか

このように好評を博していたにもかかわらず、わずか1年後には、政権は法輪功を全面的な弾圧の対象へと転じた。では、なぜ、江沢民率いる中共は法輪功に対する迫害を敢行したのか。主な理由として、2つの点が挙げられる。

1つ目は、共産党体制下では共産主義以外の理念や思想が国内に広がることは共産党にとって容認できない点だ。特に、法輪功の理念である「真善忍」は、共産党の「闘争哲学」や暴力革命とは相容れない。

2つ目として、当時の共産党トップ・江沢民の個人的な企みと私情が挙げられる。中共は、体制維持のための政治的動員の一環として、特定の集団を「敵」と位置付けることで社会統合を図り、党の支配の「正統性」および求心力を高める統治戦略を採用してきた。

また、情報筋によると、江沢民が法輪功創始者の李洪志氏に過度に嫉妬していたということも迫害を敢行した一つの理由だとしている。

「ローマ帝国におけるキリスト教徒迫害に類似」

江沢民は、「名誉を毀損し、経済的に破壊し、肉体的に消滅させる」とする政策を命じ、虚偽の罪状をでっち上げ、残酷な拷問や洗脳、生体臓器摘出といった残虐な手段によって、法輪功への迫害を始めた。この迫害は、近現代史における最も組織的かつ残酷な人権侵害の一つとされている。

法輪功に対する迫害について、カナダの元国務大臣デービッド・キルガー氏は、かつてローマ帝国で行われたキリスト教徒への迫害に例えている。

「迫害されている法輪功学習者たちは、皆とても優しい人で、彼らは人々に対し善意しか持っていない。それなのに、彼らはこのように扱われている。これは、キリスト教徒がローマ帝国から受けた扱いに似ている。突然、ローマの怪物(ネロ)がやってきて、『お前たちを火あぶりにしてやる』と言ってきたのである。キリスト教徒の身体に火をつけ、焼き殺した」

中国共産党は法輪功学習者に対して数々の手法で迫害を行なってきた(大紀元)

国際的な反応も大きく、1999年後半には米国・カナダ・オーストラリアなどの政府・議会・人権団体が迫害を批判し、国連関係者や米国務省、米議会・中国問題執行委員会(CECC)の報告書でも、大量拘束・強制労働・拷問に関する指摘がなされてきた。

2009年12月にはアルゼンチンの裁判所が、法輪功迫害を主導したとして江沢民と元政治局常務委員・羅幹に対し、集団虐殺(ジェノサイド)および拷問の罪で逮捕状を発付した。同時期にはスペインの法廷も、同様の容疑で中国高官らを起訴する決定を下している。

4、国家主導の臓器収奪という未曾有の暴力

江沢民率いる中共による法輪功に対する迫害の中でも、とりわけ重大な人権侵害とするのが臓器収奪である。

臓器収奪の実行には、1999年6月に設置された法輪功迫害の実行機関「610弁公室」をはじめ、党中央の政法・治安維持システム、軍、医療機関などが関与し、その上位にある党指導部の意思決定の下で、実行体制が形成され、国家ぐるみの人道に対する罪となっている。

そして、この体制の中核を担った人物の多くが江沢民派である。

筆頭として挙げられるのが、司法・公安を統括する党中央政法委員会の書記を歴任した江沢民派の羅幹や周永康である。両者は政法委が統制する公安組織の資源を利用し、法輪功迫害や臓器収奪に関与した疑いが指摘されている。

さらに、国際人権NGO「追査迫害法輪功国際組織(WOIPFG)」は独自調査に基づき、江沢民が法輪功学習者の臓器を移植に利用するよう直接指示し、周永康や薄熙来らがその指揮・執行に関与したと結論づけている。

軍側では、中央軍事委員会副主席を務めた江沢民派の徐才厚の名前が挙げられている。徐才厚は軍内部で強大な人事権を握った人物として知られ、その影響下にあった軍総後勤部は、軍病院を含む軍の医療・後方支援を所管していた。法輪功迫害と臓器移植をめぐっては、この軍の医療ネットワークが重要な役割を担ったとされている。

さらに、2014年、追査迫害法輪功国際組織の調査員に対し、総後勤部の衛生部門トップだった白書忠元部長が臓器収奪は江沢民自身の指示によるものだったと証言している。

中国当局が同意なく生きたままの臓器を移植用に取り出す「臓器狩り」の犯罪を実演する法輪功学習者(2006年4月19日、米国ワシントンDC)(JIM WATSON/AFP/Getty Images)

臓器収奪への審理

中共による臓器収奪をめぐって、2019年に英国ロンドンで民衆法廷「中国民衆法廷(China Tribunal)」が審理を実施。判事団の議長には、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷で、元セルビア大統領スロボダン・ミロシェヴィッチの検察チームを率いたジェフリー・ナイス卿が就いた。

同法廷は、国際的な専門家の見解や当事者の証言などを踏まえて公開審理を行った。その結果、判事団は全員一致で、合理的な疑いを超えて、法輪功学習者を主な臓器供給源とする臓器収奪が長年にわたり中国で行われてきたと確信するとの結論を示した。

結び

江沢民が死亡したのは2022年11月。その後も習近平政権は腐敗一掃と軍の立て直しを続けている。だが、愛国主義教育が植え付けた対日観、深刻な政治腐敗、そして法輪功に対する迫害という負の遺産は、いまだ清算されていない。

100年を祝う式典が北京で行われる一方、その遺産の重さは、中国の内と外で、今も問われ続けている。

明善
エポックタイムズ記者。日本の外交をはじめ、国内外の時事問題を中心に執筆しています。