大紀元時報

「脱虚向実」でみる中国当局の規制強化=程暁農氏

2021年9月13日 19時48分
2021年8月24日、在米中国経済学者の程暁農氏は新唐人テレビの番組「熱点互動」に出演し、中国当局の規制強化や米中関係について分析した(「熱点互動」より)
2021年8月24日、在米中国経済学者の程暁農氏は新唐人テレビの番組「熱点互動」に出演し、中国当局の規制強化や米中関係について分析した(「熱点互動」より)

在米中国経済学者の程暁農氏は8月24日、大紀元グループメディア、新唐人テレビの番組「熱点互動」に出演し、中国共産党政権が近日、各分野の中国企業に対して締め付けを行った真意などを分析した。

方菲氏(熱点互動の司会者):中国当局はこのほど、国内複数の分野に対して規制を強化しています。とくに、学習塾業界に対しては、業界に壊滅的な打撃を与えたと言えるほど厳しく取り締まりました。当局の一連の規制強化はどのような目的と意図があるのでしょうか?

程氏:中国当局は最近、ほぼ毎日一つの産業をやり玉に挙げて批判し、締め付けを行っています。海外メディアにも大きく注目されたように、学習塾業界が受けた打撃は最も深刻です。この業界の多くの企業は米国に上場しているため、中国国内だけではなく、米国の投資家や投資銀行も含めて、中国当局の真意を推察しようとしました。

一部の人は、中国当局が保護者の負担を減軽するための措置だと主張しています。また、学習塾の出費や家庭の負担を減らして、より多くの子どもを産ませるための政策だという認識もあります。さらに、米投資家に損失を被らせるための中国当局の計略だとの考えを持つ人もいます。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙にもこのような分析記事があります。これらの推測はある程度、的を射ていると思います。しかし、中国共産党政権は全体主義体制なので、当局の企業に対する厳しい締め付けは今、初めて起きたのではありません。ウォール街のエリートたちはこれを予見できるはずでした。データの海外への流出を防ぐとか、貧困格差を解消するためとか、これらの意見を挙げた人々は実に、中国当局の真意を理解していないと思います。

脱虚向実

司会者:では、中国当局は一体何のために規制を強化したのでしょうか?

程氏:中国当局が各セクターの企業への締め付けを強めてから、中国の経済学者から反対の声が全く聞こえてこない。市場経済活動に深く介入している当局に対して、市場経済を主張する経済学者は反論していません。つまり、彼らは、今回の市場介入を批判してはいけないと心得ていると推測できます。

私の考えでは、中国当局は今、目障りな業界や会社に徹底的な打撃を与え、その業界を当局が望むような状態に作り変える狙いがあります。

ただ今回は、今までのように当局がまず、政策方針や通達を出して経済構造の調節を行うと公表していないのです。つまり、当局には今回の締め付けの意図を明らかにしてはいけないという考えがあると思います。

私は、今回の取締りは、習近平氏の3期目の続投や党内の権力闘争とあまり関係ないと思っています。

取り締まられている業界をよく見ると、多くは中国当局が策定した経済戦略計画と無関係です。

例えば、半導体業界。今まで突然現れた1万社以上の半導体関連企業の大半は、半導体産業振興策を利用して各レベルの政府の補助金を騙し取っています。不動産業界の投機活動で、不動産市場や住宅市場における金融リスクが高まりました。学習塾業界は、子どもに良い学校に進学する機会を提供しています。オンラインゲーム業界はもちろん、ゲーマーを顧客にしています。アントグループは、収入の限られた人に消費ニーズに合わせて少額の融資を提供しています。さらに、料理出前を行うフードデリバリー業界も狙われています。

実に、中国当局は数年前に、あるスローガンを打ち出しました。新型コロナウイルスの大流行以来、当局は国内経済のために、このスローガンを言わなくなったのです。このスローガンは「脱虚向実」です。

虚は、実体を伴わないことを意味します。実は実体経済の実です。中国当局は、「脱虚向実」政策を通じて、実体の伴わない業界を排除するということです。

中国共産党機関紙・人民日報は2019年9月の評論記事で、製造業こそ実体経済であると唱えました。この記事で人民日報は、すべての経済資源を製造業に投じるべきで、中国経済における「脱実向虚」という現象、つまり実体を伴わない業界を正さなければならないと主張しました。

この記事は、世界の一部の国で所得格差の拡大、伝統産業の衰退、ブルーカラー労働者の失業増加などが見られた原因は、実体経済の弱体化と産業の空洞化にあると主張しました。

したがって、当局のこの「脱虚向実」という観点で考察すれば、今の規制強化を少し解釈できる気がします。不動産投機への取締りは不動産バブルの拡大を阻止するためで、アントグループへの締め付けは金融バブルや、少額の消費者金融を抑制するためにあります。学習塾業界への締め付けも、各世帯の財が過剰に学校教育産業に投入されることを回避するためです。

どうして中国当局はこの「脱虚向実」を再開したのでしょうか。当局はこの理由を明言していません。それは、はっきりと言いたくないでしょう。

実際に、中国経済に潜む最大のリスクは金融リスクです。その主因は脱実向虚にあります。例として、不動産市場もP2Pなどのネット金融が挙げられます。中国当局は2017年にすでに金融市場を規制し始めました。当時、元最高指導者、鄧小平の孫娘の夫、呉小暉氏と同氏が率いる安邦保険集団はやり玉に挙げられました。その際、官製メディアは「資金の『脱実向虚』という資産バブルに対する反腐敗運動である」と強調しました。

不動産市場、P2P、アントグループへの封じ込めによって、中国当局は金融バブルの抑制である一定の効果を収めました。しかし、金融バブルは依然として存在しています。ただ、その拡大ペースが緩やかになっただけです。

苦境にいる製造業

司会者:中国当局は「脱虚向実」のために、多くのセクターを取り締まっています。しかし、これによって数多くの失業者が今後現れる恐れがあると思います。これについて、分析していただけますか?

程氏:中国製造業、特に民間企業は、材料コスト、輸出コスト、人件費コストの増加という重圧がのしかかっています。これらのコスト高騰で製造業の企業は悲鳴を上げています。

人件費コストの増加は、労働力不足のほかに、国内の物価急上昇、つまりインフレと関係しています。中国が輸入した原油や非鉄金属などの資源価格の上昇も影響しています。

今年5月、中国の生産者物価指数(PPI)は前年比で9%上昇し、2008年9月以来の高い伸びとなりました。7月のPPI指数も依然として同9%上昇しました。これは、中国のインフレ製造業における原材料の価格上昇が全く改善していないことを反映しました。今、製造業の多くの民間企業が非常に苦しい状況に立たされていることを容易に想像できます。

さらに、輸出コストの上昇も追い打ちとなっています。特に、海運コストが上がっています。国営中央テレビの番組「央視財経」は7月28日、今年4月以降、国際海運の運賃はコンテナ不足などが原因で、2019年と比べて5倍も上昇したと報道しました。海運の運賃は実際にまだまだ上がるのです。

中国当局は、この3つのコスト増で国内製造業の見通しについて非常に不安を感じているでしょう。

だから、当局は、経済にとって重要ではないセクターに対して締め付けを強化しました。それらのセクターにいた労働力を製造業にシフトしようとしています。このやり方で製造業の人件費コストを下げられると当局は考えているでしょうね。

海外留学に必要なTOEFLやGREなどの試験の指導を行う学習塾業界を取り締まる目的は、留学を希望する学生を国内に止まらせて、特に渡米させないようにするためと考えられます。

米中関係の悪化が背景にありますし、学生が留学に行かなくなったかわりに、その留学資金を国内で消費できるから、国内経済にとって良いことです。

労働市場を狙う経済粛正

また、中国当局によるオンラインゲーム業界やフードデリバリー業界などへの取締りには、労働市場を粛正する目的があると思います。これによって、国内の若い労働力を製造業に導き、「脱虚向実」を実現したいと当局は考えています。しかし、この方法は直接若者に対するものではなく、若者の雇用主に対するものです。当局は強権的な手法で、雇用主を経営難に陥らせて、若者を解雇せざるを得ない状況を作るのです。学習塾業界などをみれば、この意図がわかると思います。

当局が労働市場を粛正する背景には、中国の若者が製造業に就職したくないという現状があります。特に、中小都市部や農村部の若者のなかに、親世代のように厳しく管理されている工場で重労働したくない人が多いのです。若者は、フードデリバリー業界で就職した方が楽だと考えているでしょう。

フードデリバリー大手の美団のような企業で出前スタッフとして働く若者は、全国で1000万人います。学習塾業界で働く人も1000万人います。中国当局にしてみれば、実体を伴わない業界の若い労働力はこれほど多くあるのです。

中国社会の老齢化も、製造業や建築業などの労働力不足を深刻化しています。

司会者:中国当局のやり方で労働力不足という問題を解決できると思いますか。

程氏:中国当局がこのやり方で効果を収められるとは言いがたい。なぜなら、若者が製造業で働きたいという願望がないからです。今の中国では「すべての業界の中で、サービス業が最も優れている」と考えている若者が非常に多いのです。彼らは仕事が楽であればあるほど良いと思い、重労働やきつい仕事はできれば避けたいと思っているでしょう。

計画経済への回帰

司会者:中国当局のこの方法は自由経済市場のやり方ではないですね。先ほど、程さんは「経済を粛正する」という言い方を使いました。これは、「経済を改造する」という表現とも似ていると思います。中国が今後「計画経済」に戻る可能性があるのでしょうか?

程氏:中国当局は行政令で経済活動をコントロールしています。しかし、計画経済に戻るという可能性は低いと思います。計画経済を行う前提は、政府が資源、生産、分配、流通、金融を掌握し支配することです。

政府の許可がなければ、企業も国民も、木材や穀物、セメントなどを買えません。同時に、政府はすべての企業を国有化し、民間企業の存在を認めないようにしなければならない。すべてを公有化すれば、初めて政府と企業が上下関係となり、政府の指示に従うのです。

現状では、中国の経済が計画経済体制に回帰するのはまだほど遠いのです。

計画経済は単なるスローガンではありません。経済構造と経済体制を毛沢東流の「社会主義的改造」する必要があります。ある日、中国共産党が「すべての民営企業を廃止する。すべてを公有化する」と言い出したら、これは計画経済が始まったと考えてもよいでしょう。

もちろん、計画経済体制は、中国経済に破滅的な打撃を与えるでしょう。中国共産党は1950年代に計画経済体制を取っていました。その結果、中国は鎖国状態に陥り、経済的に非常に苦しかったのです。

私の考えでは、中国当局は政権維持が危うくなったと感じた時に、政権を守る手段として計画経済体制を始める可能性があります。しかし、これは当局にとって自殺的な方法でしかないのです。

司会者:中国当局の「経済粛正」は米中関係にどのような影響を与えますか?

程氏:先ほど話した「脱虚向実」は中国国内の経済状況という角度から分析したものです。国際関係において、これは中国当局にとってより大きな戦略的な意味を持ちます。つまり、当局の米国依存を軽減するための下準備であると考えます。

過去20年間、中国当局は、技術面において米企業からの技術窃盗に頼り、輸出では米市場へのダンピング行為で莫大な収益を収め、外貨では米国からの金融投資に頼ってきました。

トランプ前政権以降、米中対立が激化しています。実際に、米中関係をオバマ政権の米中のハネムーン期間に戻したいのは中国当局の今の本音です。オバマ政権の米中友好関係において、中国当局は多大な利益を獲得しました。当時のような米中友好関係に戻れば、中国当局は以前のように、技術窃盗やダンピングを行えて、米国からの投資も引き付けられると思っているでしょう。

しかし、バイデン政権が発足して半年を経った今、米国の親中派のロビー活動があっても、米中関係は一向に改善していません。

さらに、中国当局は、新型コロナウイルスの発生源に関する米議会の調査を危惧しています。米国民がこの真相を知れば、バイデン政権に対して、対中で圧力を強化して責任を追及するよう求めるでしょう。これで、バイデン政権は中国当局に歩み寄りたくてもできないでしょう。しかも、米軍当局は、台湾海峡や南シナ海などにおける中国当局の軍事的な動きに注意を払っています。

中国当局は、米中関係が以前のような友好関係に戻れないと予測したと思います。

先ほど言及した3つのセクターにおける対米依存は、中国当局にとって弱点です。米政府はこの3つのセクターを通じて、中国当局を抑制し、中国経済を揺るがすことができるからです。これに気づいた中国当局は、米国依存から急いで脱却するために国内製造業への振興策を始めたと言えます。

中国当局の規制強化によって、米株式市場に上場した中国配車アプリの滴滴出行や他の教育サービス企業の株価は急落しました。今、米投資家の間で中国企業への信頼度が大幅に低下しました。しかし、米市場で中国企業の株価が暴落しても、中国当局は何とも思わないのです。これは、米経済への依存から早く脱却したい当局にしてみれば、必ず通る道であるからです。

脱虚向実」「政権を守り生き残りを図る」という角度では、中国当局の経済粛正政策や規制強化の意図を容易に理解できます。しかし、この狙いはあまりにも範囲が広くて深いものです。だから、当局はこの真意を隠さなければならないと思います。

実際に、中国当局は「様子をうかがいながら一歩ずつ」で米国依存からの脱却を実行しています。包括的で体系的な計画を全く立てていないと私は思います。

司会者:本日はありがとうございました。

(翻訳編集・張哲)

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