金需要の高まり、中央銀行デジタル通貨普及加速…脱ドル化という電撃戦に突入

2023/05/08
更新: 2023/05/07

要旨

  • 中央銀行はを購入し、中銀デジタル通貨(CBDC)は脱ドル化を加速させる可能性がある。中国はデジタル人民元普及を試す。
  • 100以上の国がCBDCの導入を検討中。脱ドル化が進めば、世界の通貨バランスが変化し、米ドルの地位が揺らぎ始める可能性がある。
  • 米ドル覇権が続けば、米国はインフレを輸出し過剰支出を続けることができる。しかし、脱ドル化が進めばハイパーインフレの恐れも。

記事は、米ドルの覇権はいつまで続く? 地位低下狙う中露、武器は人民元かCBDCかの続きとなります。

金とCBDCの役割とは

金と中央銀行デジタル通貨(CBDC)は、脱ドル化という電撃戦でどのような役割を果たすことができるのだろうか?

世界黄金協会(WGC)によると、中央銀行の黄金に対する需要は過去最高水準に達し、約700億ドルに相当する1100トン以上の黄金を購入した。中央銀行は過去30年間に渡り売り手側に立っていたため、これは劇的な転換だった。

中国は62トンの金を購入し、その合計が初めて2000トン以上に達した。そのほかの主要なバイヤーとして、トルコ(148トン)、エジプト(47トン)、カタール(35トン)、イラク(34トン)、インド(33トン)、アラブ首長国連邦(25トン)、オマーン(2トン)だった。

中央銀行は往々にして、外貨準備のバランスを取り、ポートフォリオを多様化し、不換通貨をヘッジするために金を購入している。

WGCは報告書の中で、「中央銀行の黄金保有に関する最新の年次調査によれば、中央銀行が金を保有する目的は、危機到来時のパフォーマンス性と長期的な価値の保存である。また、地政学的な不安とインフレの激化に見舞われたこの年に、中央銀行が、より多くの金塊を金庫に蓄える選択をし、そのペースが加速したとしても、何ら驚くにはあたらない」と述べている。

何ヶ月もの間、ロシアとその同盟国が対外貿易のために、金に裏打ちされた安定通貨の構築を目論んでいるという憶測が広まっている。

専門家が、これらの報告には誇張されている面があると主張する一方で、CBDCを道具として広範な脱ドル戦争を戦うというコンセプトは現実になる可能性がある。

中国は、世界的なCBDCの推進を主導しており、他の政府や中央銀行に対して、通貨のデジタル化の取り組みを加速するよう促している。その結果、中国の主要都市ではデジタル人民元が使用されており、デジタル人民元を使用するウォレットの数は2610万を超えている。いっぽう、中国当局は採用率や使用率の低迷といった一連の障害に直面しており、多くのウォレットがあるものの、個々のウォレットの平均残高は実質的にゼロであるという調査結果もある。

米国のシンクタンクはデジタル人民元のもう一つの懸念として、外国での採用実績に乏しいことを挙げている。戦略国際問題研究所(CSIS)のセオドア・ベンズミラー氏は「デジタル人民元は、外国の消費者の間で足場を確立できなかった。このことは、従来の人民元とデジタル人民元のどちらもあまり使われていないことを反映している」と指摘した。「自国の政治システムと制度に対する国際的な信頼を高めない限り、変化は望めないだろう」。

中国当局が国際市場における人民元の存在を高めようとするなか、eCurrency Mint Ltd.の創設者であり、デロイトのコンサルティング部門でシニアパートナーを務めたジョナサン・ダルマパラン氏は「理論的には、中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)がそのイニシアチブを後押しするだろう」と語っている。

ダルマパラン氏はエポックタイムズの取材に対し「中国は長い間、人民元を世界通貨や準備通貨に仕立て上げようとしてきた。CBDCは一助となるのだろうか。流動性については、中国がCBDCを一つのてことして取引を実現させようという意図を見なければならない。中国がそれを望んでいることは周知の事実だ」と述べた。

「CBDCは西側の制裁を回避するのにも効果的だが、そのためには追加の措置を講じる必要がある」とダルマパラン氏は付け加えた。

地政学に詳しいオブザーバーは、中国がCDBCの導入を主導する狙いは、アジア域内のクロスボーダー決済を脱ドル化することであり、一定の支持を集めていると指摘する。

カーネギー国際平和財団の非常勤研究員であるロバート・グリーン氏は「アジア諸国の中央銀行は昨年、いわゆるホールセール型CBDCを活用して、国内および地域内の金融フローの効率化を図り、各国の国益を増進する方法を検討する動きを活発化させた」と指摘する。

カンボジアの中央銀行関係者は、CBDCが脱ドル化を促進し、現地通貨を押し上げることができると主張している。

「カンボジアは依然としてドルに依存した経済構造として考えられており、その取引のほとんどは現金ベースである。これは、金融政策の効果的な実施と決済システムの開発を妨げる可能性がある」とカンボジア国立銀行はホワイトペーパーで綴った。

いっぽう、CDBCの導入に向けた動きは100以上の国々で確認されている。

欧州委員会は、ユーロ紙幣と硬貨とを補完するデジタルユーロを考案すると発表した。カナダはこれまでのところ、公開協議プロセスを開始したばかりだ。インドネシアは、3段階のアプローチによってデジタルルピアを開発する予定であり、ブラジルは2024年にCBDCをリリースする予定だ。ロシアと日本は4月にそれぞれデジタルルーブルとデジタル円の試験を開始する。

中央銀行政策や経済政策について調べるシンクタンク「OMFIF」の調査に回答した中央銀行のうち、3分の2は今後10年以内にCBDCを発行すると回答した。

ドルの覇権はいつまで続くのか

第一次世界大戦後、米ドルはスターリングポンドに代わって国際基軸通貨としての地位を確立し始めた。第二次世界大戦後、国際社会はブレトンウッズ体制を確立し、米ドルは正式的に世界の基軸通貨となった。当時、米ドルは金との兌換が可能だった。

1971年、当時のニクソン大統領は、ドルと金の兌換を廃止した。しかし、それでも米ドルの魅力は衰えず、何十年もの間、中央銀行や世界の投資家にとってセーフヘイブン(安全資産)であり続けた。

FRBの量的引き締めを受け、米ドルの主要通貨バスケットに対する強さを表す米ドル指数は昨年急騰した。これにより、米国製品、特にドル建ての商品の輸入が海外市場で割高になった。

国際通貨基金(IMF)が公表したデータによると、2022年の世界の外貨準備に占める米ドルの割合は、前年と変わらず約58パーセントだったが、今世紀初頭の72パーセントからは減少した。

同時に、中国は米国債の保有を減らすことで、米国経済を弱体化させようとしている可能性がある。米財務省のデータによると、北京が保有する米国債は1月時点で前年同月比約17%減の8590億ドルとなった。

人民元を受け入れる国が増加するいっぽう、地政学アナリストでスカラベ・ライジング社長のイリーナ・ツケルマン氏は、「先が見通せないなか、ドルは当面の間は選ばれる通貨であり続けるだろう」と考えている。

「アジアとアフリカの国々の安定性は懸念材料であり、特にアフリカは投機的な事業を行う余裕がない」とツケルマン氏はエポックタイムズに語った。「特に中国は通貨価値の操作や過大評価を行なってきた前科があるから、関係者は皆懸念を抱いている」。

彼女はまた、IMFや世界銀行などの経済システムや機関は、依然としてドルに依存していると付け加えた。

米財務省の元広報次官補であるモニカ・クロウリー氏は「仮に、米ドルが準備通貨としての地位を失った場合、それは米ドルの終わりを意味するだろう」と警告した。

クローリー氏は3月25日に行われたフォックスニュースとのインタビューで、「世界の準備通貨として米ドルが放棄された場合の壊滅的な影響について、正確に伝えることは難しい。米国は、長年にわたって無謀な金融・財政政策を行い、その特権を乱用してきた」と述べた。

「今のインフレをよく思わないのであれば、しばらく待てば良い。それよりも重要なのは、私たちが経済的覇権を失い、超大国の地位を失うことだろう」とクローリーは警鐘を鳴らした。

ヘリテージ財団で地域経済学研究員を務めるE.J.アントニー氏は「米国以外の地域におけるドル需要によって、米国がインフレを輸出し、身の丈以上の支出をして、余分なものを外国人に吸収させることができている。国際市場を駆け巡ってきたドルが戻って来れば、国内にある数兆ものドルと競合することになる」と語った。

「脱ドル化が進んだ場合、1944年以降世界中で蓄積されてきた数兆ものドルはどうなるのだろうか」とアントニー氏は尋ねた。「その時点で、ハイパーインフレでさえも誇張表現ではなくなるだろう」。

(おわり)

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