中国の富裕層流出が加速か 追徴課税で資産移転・国外移住に拍車

2026/08/07
更新: 2026/08/07

中国共産党(中共)当局は、超富裕層を対象とした世界規模の追徴課税に乗り出した。過去数十年にわたり未納となっている数千億ドル規模の税金を追跡し、深刻化する財政難を補う狙いがあるとみられる。

中国の超富裕層はこれまで、海外信託などを利用して海外に資産を保有してきた。今回の動きは富裕層の間に動揺を広げており、中国からの資産移転や国外移住をさらに加速させる可能性がある。複数の専門家が、その影響について分析した。

財政難深刻化 富裕層の海外資産を追跡

英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は8月5日、今回の追徴課税では、不動産や株式、貴金属、暗号資産などへの投資で得た利益が重点的に調査されていると報じた。

複数の当局者、銀行関係者、アドバイザーによると、調査は過去にさかのぼって行われており、一部の案件では2000年まで遡って調べているという。

当局はAIを活用し、投資記録の分析を効率化しているとされる。

中国の財政収入は税収への依存度が高い。一方、不動産市場の低迷が続くなか、かつて地方政府の主要な財源だった土地使用権の売却収入は、2021年の8.7兆元をピークに、2025年には4.15兆元まで減少した。

中共財政省が7月22日に発表した上半期の財政収支によると、すべての省で財政自給率が100%を下回り、歳入だけでは歳出を賄えない状況となっている。

こうした財政圧力が強まるなか、税務当局は富裕層が海外に保有する資産への課税を強化している。

中共財政省と国家税務総局は7月24日、「海外信託に係る個人所得税に関する公告」を発表した。

公告では、海外信託を「海外の法律に基づいて設立された信託、または信託機能を持つその他の海外法的枠組み」と定義している。中国の居住者が財産を海外信託に移した場合や、信託を通じて利益を得た場合には、個人所得税の申告が必要となる。

新規定では、資産を海外信託に移す際に生じた所得のほか、信託の存続期間中に得た利益や、信託終了後の清算による利益も課税対象となり、関連所得には20%の税率が適用される。

すでに海外信託を設立している一部の個人については、過去に納めていなかった税金の申告と納付も求められる。

当局は対象となる納税者に対し、公告の施行から90日以内、つまり10月22日までに、過去の未納分を申告するよう求めている。

資産や所得を隠していた場合、20%の税金だけでなく、追徴税や延滞金が課される可能性がある。不法所得が関係している場合には、刑事責任を問われる可能性もある。

台湾南華大学国際事務・経営学科の孫国祥教授は大紀元の取材に対し、今回の動きは単なる税務調査ではなく、海外資産を「透明化し、追跡可能にし、課税可能にする」ものだと指摘した。

中国問題専門家の王赫氏は、「課税するには、まず富裕層の資産がどこにあるのかを把握し、海外での投資状況を詳細に収集、監視する必要がある」と述べた。

そのうえで、現在の状況からみて、当局はすでに富裕層の海外資産について相当程度の情報を把握しているとの見方を示した。

富裕層に動揺 国外移住を加速か

米CNBCは8月4日、中国の超富裕層が新たな課税規定に「衝撃」を受け、納税に必要な現金の確保を急いでいると報じた。

申告期限が迫るなか、多くの富裕層が弁護士やプライベートバンカーに相次いで相談しているという。

シンガポールを拠点とする弁護士の1人は、「中国に関係する個人資産の管理にとって、これは大きな転換点だ」と語った。

FTも関係者の話として、世界規模の追徴課税を受け、一部の超富裕層が中国を離れる準備を始めていると伝えた。

中国の富裕層が国外へ移住する動きは、すでに数年前から続いている。

胡潤研究院が最新に発表した報告によると、2025年の中国の高純資産世帯は約206万世帯に減少した。減少は過去16年間で3回目で、これまで2019年と2023年にも減少している。

中国の資本市場関係者、徐真氏は、今回の追徴課税によって、富裕層による資産の海外移転や国外移住がさらに加速する可能性があると指摘した。

資本と富裕層の流出が続けば、中国経済は成長の原動力やイノベーション能力をさらに失うことになるとの見方を示した。

一方、中共は最近、新たな「出境入境管理規定」を発表し、9月15日から施行する。

新規定には、高リスク国への渡航を思いとどまらせる措置や、輸出管理・技術安全保障に関わる人員への出国制限などが盛り込まれている。また、県レベルの機関にも出国制限を決定する権限を認め、出入国仲介業者への管理も強化する。

徐氏は、今回の新規定によって一部の権限が地方に移され、地方当局が出国制限について従来以上の権限を持つことになると指摘した。

そのため、国外移住を希望する富裕層が、追加の納税などを求められる可能性があるとの見方を示した。また、家族の一部を先に海外へ移住させるなど、さまざまな対応が取られる可能性もあるという。

孫氏は、富裕層が国外へ出ようとしても出られなくなった場合、「資金を先に移す、身分を先に移す、家族を先に移す、あるいは資産構造を先に変更するといった方法を取る可能性がある」と述べた。

具体的には、追徴税を支払ってリスクを下げるほか、資産を分散させたり、海外に身分を持つ家族を利用して信託や企業の株式保有構造を再編したりすることが考えられるという。一方で、非正規な資金流出が増えるリスクも高まるとした。

王氏は、これまでに早い段階で国外へ移住し、資産も移した人々がいるとして、不動産大手SOHO中国の共同創業者、潘石屹を例に挙げた。

一方、アリババ創業者の馬雲のように、中国国内の事業や資産との関係を完全には切り離せない富豪もいると指摘した。海外に一部の資金を移すことはできても、大部分の資産は依然として中国国内に残っているという。

専門家「1950年代の資本家と似た状況」

中国経済について発信するセルフメディア「冷眼財経」は大紀元の取材に対し、今回の追徴課税の背景には、中国の深刻な財政難があるとの見方を示した。

同氏は、強い政治的後ろ盾を持たない国内の富裕層が課税強化の主な対象になる可能性がある一方、権力層とつながりのある一部の有力者の資産はすでに海外へ移されており、影響は比較的小さい可能性があると指摘した。

王氏も、当局は富裕層を一律に扱うのではなく、政治的背景などによって対応を分ける可能性があるとみている。

権力者一族やその資産管理に関係する人物については一定の利益が守られる一方、政治的な後ろ盾を失った富豪や一般の富裕層は、より厳しい資産調査や課税の対象になる可能性があるという。

最近、潘石屹氏が巨額の罰金を科される可能性があるとの情報がインターネット上で広がっているが、中国当局はこれまでのところ、公式な発表を行っていない。

王氏は、富裕層がすでに海外へ移した資金についても、当局がさまざまな手段でその収益に課税し、一部を中国国内へ戻すよう圧力をかける可能性があると指摘した。

「中国国内の資産を完全に手放し、移せるだけの資産を海外へ移して、中共との関係を断ち切るほど徹底しなければ、海外で完全に独立した生活を維持するのは難しいだろう」と述べた。

王氏は現在の状況について、1950年代に中共が民間資本家を対象に進めた社会主義改造と似ていると指摘した。当時も、贈賄や脱税などの摘発から始まったという。

1950年代初めに行われた「五反運動」では、贈賄、脱税、手抜き工事、国家財産の横領、国家経済情報の窃取が取り締まりの対象となった。

運動の過程では多くの冤罪や不当な処分が発生し、迫害を受けて自殺した資本家や商人のほか、処刑されたり、拷問によって死亡したりした人もいた。その後、中国本土の民間資本家層は急速に姿を消していった。

こうしたなか、新華社は6月19日、1953~56年に行われた社会主義改造を評価する記事を掲載し、特に資本主義工商業に対して行われた「公私合営」を取り上げた。

孫氏は、当局による企業家や富裕層への資産管理がさらに強まれば、民間資本と企業家精神が損なわれると指摘する。

その結果、中国は「統制が強く、人や資本の流動性が低く、イノベーションも生まれにくい閉鎖的な国家」に近づく可能性があるとの見方を示した。

徐氏は、中国経済が低迷し、財政難も深刻化していると指摘した。そのうえで、過去25年にさかのぼって追徴課税を行っても、財政問題を根本的に解決することはできず、一時的に財政を支える効果にとどまるとの見方を示した。

唐兵
駱亜
中国語大紀元の記者、編集者。