雪の高速道路で立ち往生が6日間 危険を承知で、車を乗り捨てる市民が続出=華中

2024/02/09
更新: 2024/02/09

旧正月(春節)の長期休暇に入った中国。人々は帰省や旅行で大移動する時期であるが、特に華中地区(河南、湖北、湖南)ではここ最近大寒波に見舞われ、連日のように降った雪やみぞれの影響は、人々の移動に深刻な混乱をもたらしてきた。

湖南省や湖北省の高速道路で大渋滞が始まってから6日が経つ。数百キロに及ぶ交通渋滞が発生しており、なかには6日連続して路上で立ち往生する市民もいる。

寒さと飢えでついに耐え切れず、車を乗り捨て、徒歩で高速道路を脱出を試みる人も続出する事態になっている。

絶望的な状況、救援は全く来ない

数日待っても、地元政府による救援は全く来ない。携帯電話のバッテリーも尽きようとしている。路面は積雪、または凍ったアイスバーンになっていて、とても車の運転はできない。

そのため多くの人が、車を路上に置き、子供をふくむ家族を連れて、全く動かない高速道路から脱出するため雪の道を歩き出した。

手持ちの食料もほとんどなく、十分な防寒具や雪上を歩くスノーシューズもない。近くの町まで数10キロもある中国の田舎では、徒歩で行こうとする行為自体、生命の危険をともなうものだ。

しかし言い換えれば、それほど雪に閉ざされた路上の人々は「ここにいたら死ぬ」という危機感に迫られていることになる。

(雪に閉ざされた湖北省の高速道路で、延々と続く交通渋滞)

見せかけだけの「除雪作業」

2月8日時点で、湖北省の高速道路の「除雪作業」は続けられている、という。当局が公開した動画のなかには、スコップによる手作業や土木工事用ショベルカーなどが使われる場面が映っている。

しかし、必ずしも毎年大雪が降るわけではない華中地区(河南、湖北、湖南)では、除雪車などの専門的な除雪設備が乏しく、実質的な除雪作業はほとんど進んでいない。

当局が公開した映像は、除雪を「やっているところ」を見せるだけである。また、中国メディアには、路上で立ち往生する運転者のもとへ、付近の親切な村民が、フェンス越しにカップ麺とお湯を「無料」で届ける場面も映っている。

心温まる光景ではある。しかし、それが本当に無償の好意なのか、撮影用の「演出」であるかは、分からない。いずれにせよ映像に映る場所以外の、ほとんどの「遭難者」のもとへは救援の手が全く届いていないのが現状である。

湖北省各地の除雪風景。スコップによる手作業もある。(SNSより)

中国メディアの取材に応じたある男性は「すでに路上で5泊6日を過ごしている」という。

「旧正月のために買った家族への手土産の食品は、車上で食べ尽くしてしまった。それでも足りずに、サービスエリアでさらに食料を補充している」。サービスエリアに着く機会があったこの男性の車は、幸運なほうかもしれない。それでも「4日間かけて、20キロしか進んでいない」という。

運搬中の「牛」も餓死寸前の状態

また別の動画では、湖北高速道路で牛を満載した大型トラックの運転手が「牛たちは餓死寸前だ」と助けを求めている。

画像(左)は2024年2月、数百キロの大渋滞が生じた湖北省の高速道路。画像(右)は高速道路上で立ち往生する大型トラックに積まれた牛たち。牛は何日もエサを食べておらず、餓死寸前の状態だという。(SNSより)

2月6日に撮影された動画のなかには、湖北省の荊岳長江公路の橋のうえを、スーツケースを引い歩く市民が長蛇の列を作っていた。

なかには幼児を抱き、小さな子を連れて歩く市民の姿もいる。しかし、氷の張った路面を歩くのは、とても困難な様子だった。このエリアは渋滞が最も深刻な路線の1つであるため、動画の中で歩く市民たちは、車を乗り捨てた人たちと考えられる。

これに先立ち、渋滞に巻き込まれた多くの市民は「雪の中で2〜3日間も立ち往生しており、寒さと空腹に耐えている」などとネットを通じてSOSを発信してきた。

ネット上では「車を置いて、とりあえず逃げて、渋滞が解除されてから戻ればいい」といったアドバイスをする人が多い。

しかし、そのアドバイスが適切とは限らない。渋滞の場所によっては、徒歩でたどり着ける距離に全く民家がないケースもある。雪の原野で、力尽きて倒れれば、凍死するしかないのだ。

(車を置き、子供を抱いて、徒歩で脱出を試みる人々)

数百キロに及ぶ大渋滞を作り出している原因について、ネット情報ではあるが、北上ルートにある小高い丘で2台の大型トラックが斜面を登れなかったため、道路を塞いでしまったことによるとされる。

このうち1台は、後ろから押し上げられている。しかし、現場にいた市民が撮影した動画のなかには、この問題を処理する責任を負った当局者の姿はない。

当局発表に、ネット上は「ウソだ!」の声

2月7日に湖北省で撮影された動画のなかには「こんなところで、まる5日間も立ち往生している」「助けてくれ!」と、絶望のあまり叫ぶ運転手の姿があった。

この男性はまた、皮肉たっぷりに「湖北省は、本当に良いところだな」という。動画のなかで、道路上には除雪の跡があるものの、それでも大型トラックや乗用車は列をなして路上に止まっており、まったく身動きが取れない。

雪が少ないように見える場所でも、路面が凍っているためハンドル操作ができないのだ。

(「まる5日間も立ち往生している」という男性による動画。2月7日、湖北省。)

この動画の2日前(2月5日)に湖北省当局は「全省の高速道路は渋滞から回復し、徐々に通行できるようになった」と発表している。

この当局の発表をめぐって、ネット上では「1日かけて50メートル進んだ。これが政府のいう、徐々に通行なのか!」と非難が殺到している。

また、湖北省交通運輸庁の陳光斌副庁長は「6日午後5時時点で、一部の地域で緩慢通行のエリアはあるが、それ以外の高速道路は、すでに全線スムーズに動いている。市民が立ち往生する事態は存在しない」と発表している。

こちらの当局者発言をめぐっても、ネット民が「ウソつけ!」と怒りの反論をしている。

「立ち往生が存在しないだと? 私はまさに今、路上で立ち往生してるぞ!」
「2日間も渋滞してる。スムーズに動いているとは、どの口が言うのか!」
「湖北高速で、まる4日間も立ち往生してるよ」

「どうして除雪車が来ない。軍がヘリコプターから救援物資を投下してくれないだろうか」「いつ復旧するんだ?」

「たかが路面凍結だろう。(雪を溶かす)塩数袋で解決できることだ。ここまで大惨事になるほどのことなのか!」

さらにネット上では「政府は金欠で、融雪用の塩を買う金もないのか」「無能な政府は何をしている!」と、政府当局への怒りが広がっている。

また高速道路上に残された一部の市民は、絶望のあまり、こんなコメントを発している。「もうこのまま、高速道路で年越しすることになりそうだ」。

今年の旧正月(春節)の元旦は2月10日。連休期間は2月9日(金)〜2月17日(土)の8日間である。

この非常時に、救助の「やらせ動画」を撮影

もはや大惨事である。この状況下では、どれほど多くの人が、寒さと飢えのため高速道路上で命を落とすかわからない。

そんな国民の一大事という時に、中共の官製メディアはお決まりの通り、渋滞で動けない道路で「タダで配られる愛の飲用水」など、いわゆる「ポジティブ・ニュース」の宣伝に大忙しだ。

当局者がタダで飲用水を配る「救援ショー」の撮影現場。(SNSより)

ネットに流出した「救援ショー」の撮影動画は、国民の怒りに一段と火を付けることになった。

動画の一例は、渋滞したトラックの運転手に交通警察(の役?)が飲み水を手渡す「誠に親切な場面」である。

その隣では、しっかりした撮影用カメラが回っている。その他の撮影チームは、地面に積もった雪を手でつかんで警察官のところへ投げ、あたかもまだ雪が降っているかのように演出している。

その背後からは、この「雪降らし」について「もっと速く、止めるな」と指揮する声も聞こえる。要するに、映画の撮影場面なのだ。

当然ながら、ネット上では「あいつらは、どうでもいいことにかけてはプロフェッショナルぶりを発揮する。だが、やらなければならない問題においては、全くの役立たずだ」と非難が殺到した。

(「救援ショー」の撮影現場。周囲が手で雪を投げて「降らせて」いる)

なかでも、この動画はネット民の怒りを買った。湖北省荊州市の役人がやる「除雪ショー」の場面である。

「スコップとツルハシで路上の雪かきをする4人。それを他の4人が撮影。その周囲の見物人は40人。どうせ撮影の後は、みんなで宴会するんだろ」。これは中国SNSウェイボー(微博)のホットリサーチ入するほど、ネット民から罵倒されている。

(湖北省荊州市の役人による、白々しい「除雪ショー」の撮影風景)

荊州市当局は「1万2000人の共産党員を組織し、道路に出て、手作業で除雪を行う」と発表している。

これに対して、ネット上では「なぜ除雪車でなくて手作業なんだ。あんな小さなスコップでやってたら、いつになったら渋滞が解消されるのか!」と嘆きが広がっている。

 
李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。
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