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サウジ原油増産と米ウクライナ鉱物協定 ロシアに新たな挑戦

2025/05/03
更新: 2025/05/03

サウジアラビアが原油増産方針を示し、アメリカとウクライナが鉱物資源に関する協定を締結したことで、世界のエネルギー市場とロシア経済に、大きな影響が及んだ。本稿では、その最新動向と今後の展望について考察する。

トランプ政権発足後の最初の100日間、経済政策や外交姿勢に対する世論の評価は低迷し、アメリカ国内には懸念の声が広がった。そうした中、4月30日に注目すべき2つの動きが報じられた。サウジアラビアが原油の減産を拒否し、アメリカとウクライナが歴史的な鉱物協定を締結した。この2件の動きは何を意味するのか、以下に整理してみよう。

サウジの戦略転換―減産を否定し、低原油価格を受容

ロイターによれば、交渉の事情を把握する5人の関係者の証言によって、サウジアラビア政府は、同盟国および業界関係者に対し、これ以上の供給削減は行わず、長期的な低油価にも対応可能との立場を示し、この姿勢は、OPECプラスを主導するサウジが、5年ぶりに増産路線へ転換し、市場シェアの拡大を狙う戦略に移行した可能性を示す。

サウジアラビアにとって、原油増産は、価格下落圧力を強め、数百億ドル規模の収入減につながりかねないし、また、NEOMに代表される経済多角化プロジェクトへの影響も避けられないが、短期的な損失を許容し、長期的な影響力の拡大を優先する方針がうかがえる。

低原油価格は世界経済に対し、二面的な影響を及ぼす。一方で、アメリカや欧州など主要消費国では、インフレ圧力が和らぎ、消費者の可処分所得が増加するが、他方では、ロシアやベネズエラのような産油国にとって、財政基盤が揺らぐ深刻な問題となる。とりわけロシアは、世界有数の輸出国であり、歳入への打撃は無視できないこととなる。

広い視野で見れば、サウジの増産決定は、エネルギー市場における複雑な国際的駆け引きを映し出している。

今回の増産方針には、アメリカからの圧力が影響した可能性もあり、OPEC内での協調体制にも再調整が求めらる。低価格環境は、アメリカのシェールオイル産業など高コスト生産国にとっては採算を圧迫する要因となり、減産を促す可能性がある。結果的にこの動きは、サウジの市場支配力を高める契機となる。

このように、関係は極めて繊細であり、国家間の関係は、時として個人的な感情や政治的配慮に左右される局面もある。周知のとおり、バイデン政権下においてアメリカとサウジの関係は悪化の一途をたどったことが一つの例である。

2021年以降、アメリカでインフレ率が高止まりしても、サウジは増産に消極的で、価格安定への協力姿勢を見せなかった。バイデン大統領がサウジを訪問し、増産を要請した場面でも、サウジが応じたのは象徴的な1万バレルの増産だけにとどまった。

だが、トランプ政権が復活すると状況は一変した。サウジはアメリカから1千億ドル規模の武器を購入し、さらに6千億ドルにおよぶ投資計画を示した。これにより、インフレ抑制と油価安定に向けた協力関係の構築が進んだ。まさに対照的な対応である。

米ウクライナ鉱物協定、地政学的構図を再構築

低油価は、トランプ外交において重要な選択肢となる可能性が高く、なぜなら、低油価は、ロシアの財政を直撃するからである。国際通貨基金(IMF)は、ロシアの2025年のGDP成長率が4.1%から1.5%へと大幅に落ち込むと予測している。原油収入は、ロシア財政の約4割を占めており、油価の下落は、戦費や国内福祉の削減を招き、社会的不満を引き起こす要因となりうるのだ。

数日前、トランプ大統領とルビオ国務長官は、プーチン大統領による戦争の長期化に強い不満を表明した。これにより、トランプ政権が今後ロシアに対し「アメとムチ」のうち、ムチの比重を高める姿勢を強める可能性が浮上した。

4月30日、アメリカとウクライナは、画期的な鉱物協定を締結した。主な内容は以下の通りである。

・アメリカは過去3年間のウクライナ支援に関する請求権を放棄し、1千億ドル以上の資産を無償で提供する。

・両国は共同基金を設立し、ウクライナの鉱物、エネルギー、インフラ分野に対する投資を推進する。

・基金は鉱物分野を最優先とするが、取得には、市場価格での購入が義務付けられ、ウクライナは、第三国に有利な条件を設定できない。

・資源開発においては、ウクライナが土地を提供し、アメリカが資金、技術、人材を供給し、利益は双方で分配する。

・アメリカは軍事的保証を与えないが、戦略的投資協力を通じて、実質的な安全保障ネットワークを構築する。協定には、両国が「長期戦略的同盟パートナー」であり、アメリカがウクライナの安全、復興、国際統合を支持する姿勢が明記されている。

この協定は、アメリカとウクライナの双方に利益をもたらし、アメリカにとっては、中国依存からの脱却とAI・電気自動車・防衛産業における自立性の強化につながる。一方、ウクライナにとっては、戦後復興のための資金を獲得し、西側産業体系への統合を促進する足がかりとなる。

地政学的観点からも、この協定は、ロシアの影響力を削ぐ効果を持つ。アメリカは、ウクライナに「安全保障とは呼ばれない安全保障」を提供し、自国の利害をウクライナに深く根付かせることで、ロシアの介入を抑止する構えを形成した。ウクライナの重要鉱物の多くは、ロシア支配地域およびその周辺に存在しており、ロシアにとって軍事行動の選択肢は著しく限定され、アメリカに対して武力を行使する余地は、現実的に存在しないということになる。

ベッセント財務長官の声明に従えば、この協定は、「ロシア指導部に対する明確なメッセージ」であり、トランプ大統領が「自由で主権を持ち、繁栄するウクライナ」を支持していることが協定を通じて明確に示された。また、協定文には「ロシアの戦争に機械や資金や物資を供給する国家および個人は、ウクライナ復興による利益を得ることはできない」と明記されており、この条項は中国共産党への直接的な警告と解釈できる。

トランプ大統領の初期100日は内政に注力し、不法移民の排除、規制緩和、政府改革に取り組んできた。今後の100日では、減税法案の成立、国内投資の促進、ロシア・ウクライナ停戦協定の実現、通商協定の見直し、イラン核合意の対応などが主要課題となる。プーチン大統領と中国共産党がどのように反応するかが注目される。

総じて、サウジアラビアによる原油増産と米ウクライナ協定は、ロシアに新たな圧力を加え、世界秩序の再編が加速する。

経済や地政学の背後には、複雑な駆け引きが存在するが、主流メディアや一部専門家は、その実態に言及せず時に意図的な誤認を招く。

ゆえに、大量の情報に流されず、冷静に思考し、事実を見極める姿勢が求められ、AI、エネルギー、投資の動向を把握することが、世界構図の再編を読み解く出発点だ。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
秦鵬
時事評論家。自身の動画番組「秦鵬政経観察」で国際情勢、米中の政治・経済分野を解説。中国清華大学MBA取得。長年、企業コンサルタントを務めた。米政府系放送局のボイス・オブ・アメリカ(VOA)、新唐人テレビ(NTD)などにも評論家として出演。 新興プラットフォーム「乾淨世界(Ganjing World)」個人ページに多数動画掲載。