映画『世紀血案』が台湾で物議を醸している。作品は1980年に起きた殺人事件「林宅血案(林家の殺人事件)」を題材としているが、制作側は当事者や遺族からの許諾を得ず、俳優の軽率な発言や政治的意図が疑われる演出が見られたことから、公開前から批判が殺到した。
ネット上では『世紀血案』への反対運動が広がり、「受難者への冒涜」として映画を非難する声が相次いでいる。
1980年2月28日、台湾は依然として戒厳令が施行されており、国家安全の名目で言論が抑圧され、数万件の政治的案件が発生していた。
当時、美麗島事件により拘束されていた民主派政治家・林義雄氏の台北市にある自宅で、3人が死亡、1人が重傷を負う凄惨な事件が発生。事件は政治的に極めて敏感な時期に起き、現場は情報機関が監視していたにもかかわらず、犯人は容易に出入りしており、未だ真相は解明していない。
この事件は当事者に消えない傷を残すと同時に、台湾民主運動史に深い裂痕を残すものとなった。
事件の46年後、同事件を題材にした映画『世紀血案』を放映した。しかし許諾なしの制作、俳優の軽率な発言、そして政治的意図が疑われる内容が明らかになり、台湾市民の怒りを買う事態となった。
事件の報道を消費する形で映画化されたことにより、倫理的問題だけでなく、台湾の民主的価値への意図的な介入を懸念している。
さらに、映画の中では史実の歪曲が指摘され、事件の責任が特定政治運動の指導者に向けられる描写があることから、単なる創作の名を借りた政治的中傷ではないかと批判が強まった。
中国の映画制作者、石宇歌氏は「海外の映画制作者であれば、実在の事件や人物を扱う際、関係者や遺族への配慮が不可欠であると知っている。今回の件には明らかに別の意図がある。政治的背景や陰謀が絡んでいる可能性が高い」と指摘した。
また、アメリカに在住している時事評論員の唐靖遠氏は、「台湾民衆による反対運動の影響で俳優も上映停止を求める事態になったのは自然な流れだ」と述べ、「『林宅血案』は台湾民主運動史の象徴的な事件だが、制作側はこの感情を軽視していた」と指摘する。
映画の公開をめぐり、制作側は公式声明で「確認不足」を認めた。俳優たちは、自身が未許諾・政治的誤導のある演出に加わったことを受け、肖像権と音声の使用停止を要求し、弁護士を通じて上映差し止めを求めている。
専門家によれば、映画は歴史的な悲劇をエンタメ化し、陰謀や権力闘争として描くことで、国際社会や台湾の若年層に「台湾の民主進程は暗く不信に満ちている」という印象を植え付けようとしている可能性がある。
石宇歌氏はさらに、「単なる歴史の再現ではなく、台湾の政治生態を貶め、民主主義を確立したという成果を消し去ろうとする外部勢力の介入が見える」と語る。
唐靖遠氏も、「民主・自由である台湾社会では、情報は透明で真実は共有されている。中国のような政府主導による歴史の改編とは全く異なる」と指摘。
「『世紀血案』のような行為は、当事者に深刻な二次被害を与えることがある」と述べている。
年末の台湾選挙を控え、中国資本を含む映画製作は商業的な意図ではなく、政治的操作を意図したものとの見方も強い。立法委員の林楚茵氏は、『世紀血案』の製作会社「費思兔」の資本額や経営陣の経歴を挙げ、中国共産党による台湾史書き換えの可能性を指摘した。
今回の物議は単なる映画の商業的な失敗にとどまらず、台湾社会における歴史正義と受難者権益の保護意識の高まりを示している。
唐靖遠氏は、「悲劇は安易に消費されるべきではなく、娯楽化することは許されない」と強調した。
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