高市総理は都内で開催された日本経済団体連合会(経団連)の第14回審議員会に25日出席し、就任から約2か月の歩みと今後の経済政策の指針について挨拶を行った。

緊縮から「責任ある積極財政」への転換
高市総理は就任以来、物価高への対応を最優先事項として掲げてきた。国民民主党および公明党の賛同を得て成立した補正予算により、生活の安全保障や強い外交・安全保障の実現に向けた一定の方向性が打ち出されている。
今回の挨拶において特筆すべきは、「行き過ぎた緊縮財政によって国力を衰退させるのではなく、責任ある積極財政によって国力を強くする」という明確な姿勢である。これは「経済あっての財政」という方針に基づき、大胆な「危機管理投資」と「成長投資」を通じて力強い経済成長を目指すもの。背景には、欧米各国の国内投資促進策の強化や、米国の関税措置によるサプライチェーンの不確実性といった、厳しい国際競争環境がある。
投資促進と賃上げの定着
高市総理は、日本経済の供給能力を抜本的に強化するため、以下の具体的な施策を提示した。
- 大胆な投資促進税制の創設: 高付加価値型の設備投資を後押しするため、全業種を対象に「即時償却」または「税額控除7パーセント」を可能とする。年間約4兆円の投資を見込んでいる。
- 戦略的分野への研究開発支援: 量子、宇宙、フュージョンエネルギーといった、研究開発の難易度が高い次世代技術への税制を強化する。
- 持続的な賃上げ環境の整備: 30年以上ぶりの高水準(5パーセント超)の賃上げを定着させるため、中小企業への1兆円規模の支援や、価格転嫁の徹底を行う。2026年の春季労使交渉に向けて、物価上昇に負けないベースアップを改めて要請した。
- コンテンツ産業の支援: 日本のアニメやゲームなどのコンテンツ産業を世界一にするため、550億円超の補正予算を活用し、海外売上高20兆円を目標に官民連携で後押しする。
成長戦略の具体化と「フィジカルAI」
年明けからは、リスクや社会課題に先手を打つ「成長戦略」の具体化が加速する見通しである。特に注目されるのは、来年夏の策定を目指す「日本成長戦略」に向けた議論である。
今後は、AI、半導体、造船、量子など17の戦略分野において、投資促進のための多角的な対策が取りまとめられる。その中でも高市総理は、日本の製造業の強みである「質の高いデータ」と「信頼性」を活かした「フィジカルAI(ロボットなどを自律制御するAI)」を日本のAI戦略の背骨に据える考えを示した。
また、食料・エネルギー・資源の自給率向上や、サイバーセキュリティ、国土強靱化といった「危機管理投資」を進めることで、外部環境に左右されない強靭な経済構造の構築が進むと予測される。供給能力を強化し、所得を増やすことで消費を活性化させ、税率を上げずに税収を増加させるという好循環の実現を目指すとしている。
この経済の好循環は、いわば「血液の循環」のようなものである。政府が「積極財政」というポンプを動かして投資を呼び込み、企業が「賃上げ」という形で家計に十分な栄養(所得)を届ける。それによって消費という血流が活発になれば、再び企業の収益が上がり、結果として国全体の健康状態(財政)も改善していく、というメカニズムを目指している。
挨拶を通して、高市総理は会場の経営者たちに向け、厳しい国際情勢の中で日本を再び成長軌道に乗せようとする、高市内閣の不退転の決意を述べ、官民一体の国づくりを熱く呼びかけた。
そして、「経団連の皆様の1年間の御理解と御協力に改めて感謝を申し上げますとともに、来年の皆様の御健康と一層の御活躍をお祈り申し上げます」との言葉で、就任後初となる経団連審議員会での挨拶を締めくくった。
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