中国資本のヨット大手支配に調査 イタリア安保規制違反の疑い

2026/05/28
更新: 2026/05/28

イタリア政府の関係者3人は5月27日、ロイターに対し、豪華ヨットメーカー、フェレッティ(Ferretti)をめぐり、中国資本系の投資家がイタリアの「ゴールデンパワー」規制に違反した疑いがあるとして、同国当局が調査を進めていると明らかにした。関係する投資家は、保有株の状況をイタリア当局に十分に開示していなかった疑いがあり、国家安全保障上の審査対象となる可能性がある。

「ゴールデンパワー」は、国防や安全保障、重要インフラ、先端技術などに関わる戦略的企業に対し、外国資本による買収や出資、経営関与を政府が審査・制限できる制度である。政府は必要に応じて、議決権や取締役の任命、重要技術へのアクセスに条件を付けることができる。

今回の問題は、今月フェレッティ内部で表面化した経営権争いに端を発している。中国資本側の支配に異議を唱えたチェコの投資会社KKCGマリタイムは、その後、イタリア政府に対応を求めた。

株主総会で対立 チェコ投資家が政府介入を要請

5月14日に開かれた株主総会では、フェレッティの経営権をめぐる対立が表面化した。投票の結果、多数の株主が大株主である中国の濰柴集団(Weichai Group)を支持し、中国資本側は同社に対する支配権を維持した。

この採決により、アルベルト・ガラッシ最高経営責任者(CEO)は、12年にわたるCEO職を退くことになった。後任には、濰柴集団が推したスタッシ・アナスタソフ氏が就任した。

中国共産党(中共)国有企業の山東重工集団傘下にある濰柴は、フェレッティと長年関係を築いてきた。フェレッティが債務危機に陥った2012年、濰柴は同社の戦略的再建を主導し、3億7400万ユーロを投じてフェレッティ株の75%を取得した。

その後、フェレッティは2022年に香港で上場し、2023年にはミラノにも上場したことで、濰柴の持ち株比率は希薄化したが、現在もフェレッティ株の35%超を保有しており、筆頭株主として強い影響力を維持している。

解任されたガラッシ氏は、イタリア財界で経験豊富な経営者である。2014年にCEOに就任して以降、濰柴はヨーロッパで最も信頼される経営者の一人とされ、双方は約10年にわたり良好な関係を維持してきた。

しかし、フェレッティがミラノ市場に上場した後、ガラッシ氏とイタリア本土の経営陣は、チェコのKKCGなど新たに参入した欧州系投資家との関係を深めた。さらに、中国資本の影響を抑える動きを進めようとしたことで、濰柴は強い警戒感を抱いたとみられる。

5月14日の株主総会で焦点となったのは、フェレッティの支配権を引き続き大株主の濰柴のもとに置くのか、それともガラッシ氏とKKCGが支持する欧米系候補者の陣営に移すのかという点だった。

最終的に、濰柴は株主の支持を取り付け、内部からの反対の動きを退けた。そして、国際的な高級品・小売業界で豊富な経営経験を持つアナスタソフ氏を速やかに後任CEOに起用した。

これを受け、KKCGはイタリア政府への通報に踏み切った。KKCGは、中国資本が投票において、共同保有の実態を隠し、持ち株を十分に開示しなかった疑いがあると主張している。

ゴールデンパワーの焦点 軍需・防衛関連資産

イタリアのメローニ首相の事務所は現在、単独または連携して動いた一部の投資家が、規定に基づく通知を行わないまま、フェレッティ株を取得、または保有比率を高めていなかったかを重点的に調べている。

イタリアの法律では、国防または安全保障に関わる資産を持ち、ミラノ市場に上場している戦略的企業について、外部投資家の持ち株比率が3%、5%、10%、15%、50%などの基準を超える場合、内閣府による審査・承認が必要となる。

フェレッティは、「リーヴァ」(Riva)や「ウォーリー」(Wally)などの民間向け高級ヨットの建造で知られている。一方で、同社は軍用巡視艇や防衛装備を手がける小規模な安全保障関連事業も傘下に抱えている。フェレッティ経営陣はこれまで、この事業を中核事業ではないと位置付け、売却を試みてきた。

しかしKKCGは、この軍需部門があるため、フェレッティはイタリアの「ゴールデンパワー」の適用対象になると主張している。

ロイターがコメントを求めたところ、新CEOのアナスタソフ氏は、現在は事業運営とフェレッティの取引先との関係構築に専念していると述べた。また、株式や政策に関わる事項は取締役会の職責に属するもので、自身は関与していないと説明した。

一方、株式取得をめぐっては、以前から別の動きも報じられていた。イタリアの経済紙MFは株主総会前、中国銀行がフェレッティ株を約2%保有していると報じていた。

フェレッティは5月14日の会議で、5%を超える持ち株のみを開示した。同社は、詳細な株主名簿と持ち株比率の記録については後日公表するとしている。情報筋によると、イタリア企業・メイド・イン・イタリー省(産業省)の当局者は現在、この案件に関わる複数の関係者に対し、予備的な聞き取りを行っている。

中国資本による戦略企業支配を警戒

イタリアが安全保障上の理由から、国内企業に対する中国資本の影響力を制限するのは今回が初めてではない。同国政府は近年、技術、インフラ、伝統的製造業における中国資本の拡大に強い警戒を示している。

先月、メローニ政権は「ゴールデンパワー」を発動し、中共国有企業の中国中化集団がイタリアの老舗タイヤメーカー、ピレリで任命できる取締役の人数を強制的に削減した。あわせて、同社の中核技術に関する権限も制限した。

イタリア政府によるピレリ案件への介入は、ピレリ側のリスク回避にもつながるものだった。アメリカ政府は近年、中共の軍産複合体と関係のある多くの中共国有企業を、制裁や取引制限の対象リストに加えている。中国中化集団の一部関連企業もその対象に含まれる。

仮にピレリが中国中化集団による全面的な支配を受け入れていれば、アメリカ当局による取引制限などの影響を受ける恐れがあった。その場合、ピレリは巨大な北米市場を失い、先端タイヤ技術での提携機会も損なう可能性がある。

李言