焦点:イラクで何が起きているのか、反政府デモ膨張 SNSで宗派超え

2019/10/10
更新: 2019/10/10

[バグダッド 5日 ロイター] – イラクで続く反政府デモは、ここ数日間の参加者と治安部隊の衝突によって新たに数十人が死亡し、政府当局にとって予想外の深刻な事態となっている。

特定の政治利害や宗教対立とは異なるといわれるその背景や実態、今後予想される展開などをまとめた。

<なぜ人々が抗議しているのか> これほど大規模な抗議活動が前回起きたのは1年以上前。

過激派組織「イスラム国(IS)」の崩壊から2年が経過し、イラクが豊富な石油資源を抱えているにもかかわらず、なお大半の地域で暮らしの悪化が続いていることに、国民がうんざりしているからだ。

ここ数年で治安は改善したとはいえ、破損したインフラは再建されず、雇用の機会は乏しい。若者は、自分たちを代表していない腐敗した指導者たちがこうした状況の元凶だと非難している。

<生活環境悪化の理由は>

近隣諸国との何十年にもわたる戦争、国連の制裁、米国による2度の侵攻、宗派対立による内戦、2017年のIS崩壊といった歴史を歩んできたイラクにとって、現在は1970年代以降で初めて長期にわたって平和を享受し、自由に貿易ができる状況にある。

しかし各種インフラは老朽化、劣化が進み、戦争で被害を受けた都市はまだ復興しておらず、まだ街頭で武器を行使する武装グループが存在する。

汚職の風習はサダム・フセイン時代以来根強く、同時代が終わった後に登場してきたさまざまなイスラム教政党によって一層強固になった。

<今回のデモのきっかけと組織者は>

このデモは、誰か特定の政治グループが組織したようには見えない。抗議を呼び掛けるソーシャルメディアの投稿がどんどん増加し、実際の参加者は治安部隊が驚くほどの多さになった。

不十分な行政サービスや働き口がないことが、国民が怒っている主な理由だ。政府の一連の措置、特に人気のあった有力軍人を明確な説明もなく降格させたことにも抗議の声が上がっている。

<イラクで大規模デモは久しぶりか>

昨年9月、主に南部の都市バスラで大きなデモが起きて30人近くが死亡した。それ以降は散発的なデモが発生しているものの、今回のような規模にはならなかった。昨年10月にアデル・アブドルマハディ氏が首相に就任してからは、初めての大規模となった。

<デモが拡大する可能性や付随するリスクは>

政府と治安当局の対応次第で状況は変わってくる。5日時点で80人を超えている死亡者がさらに増えれば、国民の怒りが高まるだろう。一方で強力な鎮圧活動が、人々をおびえさせてデモ参加者が減る可能性もある。

多くの国民は、昨年9月のバスラのデモで暴力的な取り締まりが行われた背後にはイランが支持する武装民兵グループがいたと信じている。それ以降、デモ参加者は少数にとどまっていた。

民族主義や地域の分離独立などを掲げる武装グループがデモに関与してくれば、事態が悪化しかねない。

<政府はデモ隊の要求に応じるか>

政府は既に国民の雇用機会を増やすと約束。アブドルマハディ氏は、大卒者に雇用を請け合うとともに、石油省などの政府機関に対し外国企業との業務契約で国内労働者に50%の仕事を割り当てるよう指示した。

前政権は昨年、医療制度や電力供給などの改善を約束していた。

<宗派対立に起因する騒乱か>

そうではない。イスラム教スンニ派の過激主義を標ぼうするISに支配された経験を持つ大半の国民は、宗派対立を避けようとしている。今回のデモは、経済や暮らし向きの悪化への抗議だ。ほとんどが首都バグダッドやシーア派が圧倒的な南部で起きているが、そこではあらゆる民族や宗派を巻き込んでいる。怒りの矛先は政治指導層であり、特定の宗派ではない。

<デモが政府に及ぼす影響は>

今回のデモには、どの政党や政治団体、過去に反政府活動を組織してきたシーア派聖職者モクタダ・アルサドル師のグループでさえ、公には参加していない。このため政府はデモを抑え込むのに苦戦するかもしれない。

デモが拡大した場合、政府がどのような手を打てるかもはっきりしない。これまでのところ政権は要職者の更迭や辞任には言及しておらず、アブドルマハディ氏を擁立し、政治的立場の弱い同氏をコントロールしている諸勢力は、今後もこうした状態を維持したいと考えそうだ。

10月5日、イラクで続く反政府デモはここ数日間の参加者と治安部隊の衝突によって新たに数十人が死亡し、政府当局にとって予想外の深刻な事態となっている。写真は燃えるタイヤの間を走るデモ参加者。10月3日、バグダッドで撮影(2019年 ロイター/Wissm al-Okili)
Reuters
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