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習近平が直面する内外7つの危機

2025/04/30
更新: 2025/04/30

2025年に入り、中国共産党の党首・習近平は、政権発足以来13年間で最も深刻な内外の困難に直面していた。中国国内外でその動向が大きな注目を集めており、特に以下の七つの出来事が象徴的だ。

1)シンガポールの元首相の妻が習近平を批判する文書をシェア

まず第一に、シンガポール前首相リー・シェンロン夫人であるホー・チン氏が、習近平を痛烈に批判する記事をSNSでシェアした件が挙げられる。2025年4月21日、ホー・チン氏は「習近平は12年間、まるでギャングのボスのように振る舞い、常に他者に『拒否できない提案』を突きつけてきたが、今になって被害者たちに、友人やパートナーとして自分を受け入れるよう求めている」とする論評をFacebookで転送した。この投稿は、大きな反響を呼んだが、削除されることはなかった。

シンガポールはこれまで中国共産党(中共)に比較的友好的な立場を取ってきた。歴代指導者は、頻繁に中国を訪問し、時に中国側の立場を擁護する発言もしてきた。しかし、これまで中国に対して、公然と厳しい言葉を発したことのなかったホー・チン氏が、突然習近平批判の記事を拡散したことは、非常に象徴的な出来事と言えた。

ホー・チン氏は、長年、シンガポール政府系投資会社であるテマセク・ホールディングスでCEOなどの要職を歴任し、2021年10月に退任後も関連財団の会長を務めていた。テマセクは2004年以降、中国最大級の機関投資家の一つであり、2021年度には、投資比率の27%を中国が占めていた。しかし、習近平による民間企業への締め付けや中国株の暴落を受け、テマセクの中国投資は2024年には19%まで縮小したと言う。

また、ホー・チン氏は、中国・清華大学経済管理学院の顧問委員会委員・名誉委員も務めており、朱鎔基元首相や王岐山元国家副主席といった中国高官とも接点が深い。こうした背景から、今回の投稿は、習近平の政策や党内権力闘争への不満、あるいは中国内部の動向を反映した可能性がある。

2)習近平はアメリカのトランプ大統領から一手を打たれた

第二に、アメリカとの関係悪化が挙げられる。2025年4月2日、アメリカ大統領トランプは「相互関税」政策を打ち出し、世界の貿易相手国に高関税を課すと発表した。多くの国が、アメリカと交渉を選ぶ中、中国だけが即座に報復関税を発動した。アメリカは、中国からの多くの商品に145%もの関税を課し、中国も報復として125%の関税をかけた。アメリカ財務長官は「米中双方が100%以上の関税をかけ合う状況は、事実上の貿易禁止に等しい」と発言し、米中貿易摩擦はかつてない規模に達した。

このような状況下で、アメリカは、中国以外の国に対して、関税適用を90日間猶予し、交渉の余地を残したが、中国には、「まず中国側が実質的な譲歩をしなければ関税を撤廃しない」と強硬な姿勢を崩さず、中国側は、アメリカ財務省に高官を派遣し交渉を試みているが、主導権はアメリカ側にあると言う。

3)習近平が組織した反米同盟は期待した効果を上げず

第三に、習近平が東南アジア諸国を訪問し「反米同盟」の構築を試みたものの、期待した成果を得られなかったことが挙げられた。4月14日から18日にかけて、習近平はベトナム、マレーシア、カンボジアを歴訪し、アメリカの「相互関税」政策に対抗するための連携を呼びかけた。しかし、東南アジア諸国連合(ASEAN)は、アメリカへの報復を拒否し、むしろアメリカとの対話・協力を志向する声明を発表した。

ベトナム副首相は「アメリカとの関係は特別で独自の絆がある」と強調し、アメリカの懸念解消のために、関税引き下げやアメリカ製品の輸入拡大を進める姿勢を示した。マレーシアもアメリカとの関税交渉に積極的であり、中国企業に対して「マレーシアを関税回避の拠点にしないよう」繰り返し要請した。カンボジアに至っては、中共の支援で拡張した海軍基地を、日本を含む「全ての友好国」に開放すると表明し、中共の思惑通りには動かなかった。

こうした一連の出来事は、習近平政権の外交的影響力が著しく低下していることを示した。東南アジア諸国は、中国の呼びかけに応じず、むしろアメリカとの協調に舵を切ったのだ。

4)習近平の人事権が揺らいでいる可能性

3月31日、中共中央政治局会議の終了直後、極めて異例な上層部人事の異動が発表された。すなわち、中央組織部部長であった李干傑と、中央統戦部部長であった石泰峰が、それぞれの職務を入れ替え、石泰峰が新たに中央組織部部長となり、李干傑が中央統戦部部長に就任した。

このような高位の幹部同士の職務の交換は、中共の歴史上でもほとんど前例がなく、党内外に大きな波紋を広げた。組織部と統戦部は、宣伝部と並び中共中央の三大機能部門とされており、特に組織部は、高級幹部の人事管理を担う実権部門であり、従来、組織部長は、中共中央政治局常務委員への登竜門とされてきたが、統戦部長が常務委員に昇格した例は、今までに無い異例のことであった。

李干傑は1964年生まれで、現中央政治局委員の中でも最年少クラス。清華大学出身で、前任の組織部長・陳希の推薦により抜擢された経緯がある。陳希は習近平の清華大学時代の同級生であり、李干傑もまた「習家軍」と呼ばれる側近グループの重要な一員と目されてきた。一方、石泰峰は中央党校出身で、民族政策の実行者としても知られた。

今回の人事異動は、習近平が長年築いてきた「党管幹部」体制、すなわち高級幹部の人事権を、自らの手中に収める体制に対する大きな打撃と見る向きもある。特に、組織部長のポストは、習近平の権力基盤の中核をなしてきたため、側近の李干傑がその職を離れることは、習近平の人事掌握力の動揺を示唆するものと受け止められた。

さらに、4月22日には、かつて中紀委駐組織部紀検組長を務めた李剛が収賄容疑で逮捕されたとの発表がなされた。李剛は、陳希が組織部長時代に抜擢された人物であり、習近平の側近による組織部監督の役割を期待されていた。しかし、就任からわずか9か月で失脚したことは、習近平にとっても大きな痛手となった。

5)習近平の軍事権が失われつつ可能性

2024年7月以降、習近平が突然中風で入院したとの情報が流れる中、中共の政局に、一連の重大な変化が生じていた。軍部では、中央軍委弁公庁主任や軍紀委副書記など、習近平が重用してきた幹部が次々と異動・失脚し、主要戦区の司令官も相次いで交代した。さらに、軍委副主席の何衛東や、軍委政治工作部主任の苗華といった、習近平の最側近とされる軍人も調査対象となって、こうした動きは、習近平の軍権が大きく揺らいでいることを示唆した。

6)民間における習近平に対する反抗が絶え間なく続いている

一方、民間における反習抗議も続発した。2024年4月15日、成都の高架橋に「体制改革なくして民族復興なし」「人民は権力が無制約な政党を必要としない」「中国に必要なのは誰かの指導ではなく、民主主義だ」と記された三つの横断幕が掲げられた。このような抗議活動は、2022年の北京四通橋事件や、2023年の済南での「打倒共産党、打倒習近平」投影事件、2024年7月の湖南省婁底での四通橋式抗議など、近年頻発している。国内外で「反習(習近平に反対)」「倒習(習近平を倒す)」「習下台(習近平失脚)」などの声が高まっている現状は、習近平体制の求心力低下を如実に物語っている。

7)習近平の武力統一や平和的統一の台湾政策が重大な挫折

台湾政策においても、習近平の「武統(武力統一)」「和統(和平統一)」戦略は、大きな挫折を経験した。2025年、台湾の頼清徳総統は、中国共産党を「境外敵対勢力」と明確に定義し、対中統戦への対策を発表した。台湾民間でも親中議員のリコール運動が盛り上がり、4月には「拒絶統戦、守護台湾」大会が5.5万人規模で開催されるなど、台湾社会の反中・反習感情が高まった。加えて、習近平の台湾武力統一戦略を担ってきた軍幹部が次々と失脚し、軍の大規模な人事異動が続く中、武力統一の実現は、一層困難な状況だ。

結論

総じて、習近平は、政権掌握から13年の間に、反腐敗運動や政敵排除を通じて、多くの党政軍高官の反感を買い、内政・外交の重大な失策が重なったことで、中国共産党は、前例のない経済・社会・政治危機に直面した。

2024年7月以降の健康不安説を契機に、党内元老や軍高官らが連携して、習近平の権力を削ぐ動きが加速しているとされ、こうした状況下、習近平の権力基盤が、かつてないほど揺らいでおり、その孤立ぶりを象徴するエピソードとして、シンガポール前首相夫人のホー・チン氏が「中国は孤立している」と題した記事を再びシェアしたことが挙げられ、彼女が習近平の報復を恐れずに発言できるのも、習近平がもはや、中国政界で孤立無援の存在となりつつあることを示唆した。

以上のように、ここ一年余り、中国共産党内外の動向を俯瞰すると、習近平の権力は著しく削がれ、かつての絶対的な支配力が大きく揺らいだことが明白になった。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
王友群