「信訪条例(2005年5月1日)」の施行開始から20年目となる今年、4月末から制度改善を訴えて国家陳情局のある北京を目指した各地の陳情民が次々と拘束・足止め、地元へ強制送還されたことがわかった。
陳情局付近の警備は異常なほど厳しく、警察は陳情民を見かけると即拘束する。それから公安派出所へ連行して登録を済ませた後、そのまま拘束されるケースもあれば、「久敬荘」と呼ばれる陳情民の一時収容施設へと放り込まれ、その後、地元へと強制的に送り返されている状況だ。
もちろん、ただ送り返されて「おしまい」というわけにはいかない。地方官僚の出世に響くため、不正の実態を中央に知られることを何としても避けたい地方政府からの報復(さらなる拘束や拷問など)を免れない。
地方から北京を目指す陳情者をなんとしても阻止したい地方政府は専門の「陳情者拉致要員」を北京へ送り込み、北京の公安当局と結託して、陳情民の排除(暴力を伴う)に努めている。
つまり、いくら国が認めた権利だとしても、いざ陳情しようとすれば、ただではおかないのだ。
(陳情者拉致の現場①)
こうした実態に対し、長く陳情を行ってきた上海市民の俞忠歓氏はエポックタイムズの取材にこう訴える。
「我が国の陳情制度は完全に崩壊している。当局は問題を解決するのではなく、陳情する市民そのものを潰して金を稼ぎ、肝心の陳情される問題に関しては全くの不作為だ」
「この国では司法は死んだ。正義を訴える民は今も“国家の敵”として葬られている」
俞氏の怒りと失望は尽きない。

中国の信訪制度~建前と現実の乖離~
中国には、国民が公務員、国家機関の違法行為や不正に対し、意見を述べたり、告発・告訴したりすることを認める制度「信訪制度」が存在する。
中国語の「信訪」の「信」は手紙や電話、「訪」は直接訪問の意味で、陳情とも表現される。
制度の目的は、政府と国民の橋渡しをし、民意を吸い上げることで社会の安定を保つことにある。
対象となるのは、各レベルの行政機関だけでなく、国有企業や裁判所、検察などの司法機関も含まれる。信訪を受ける側は誠実な対応が義務づけられているが、信訪者にも冷静で秩序だった行動が求められる。しかし、実際には政府側の黙殺や報復も多く、制度の形骸化が問題視されている。
(陳情者拉致の現場②)
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