2025年の中国で、江油事件の大規模デモから農民工の帰郷警戒、企業ストライキ、墓掘り返し政策への反発まで、抗議と衝突が各地で噴き出している。地方財政の逼迫と失業の拡大、そしてネット統制の強化が重なり、専門家は「政変・兵変・民変のエネルギーが同時多発的に蓄積している」と警告する。中国は今、民衆蜂起にどれほど近づいているのか、その実像を追う。
一年を通じて頻発した民間抗争 その新たな特徴
中国四川省では7月に「江油事件」が発生した。14歳の少女が同年代の友人に未完成の建物内へ連れ込まれ、服を脱がされ、侮辱や集団暴行を受けた。加害者たちはその動画をネットに投稿した。中共当局が何の対応もしなかったことで、大規模な民衆抗議が勃発。当局は多数の武装警察を派遣して弾圧に乗り出し、双方が衝突。多くの抗議者が暴行を受け、拘束された。
10月末には、海南省の国有企業が農民のビンロウの樹を無断伐採したことが発端で、警察と住民の衝突へ発展した。
11月、広西チワン族自治州の北海市では乗用車が政府庁舎の門に突っ込む事件が発生したが、その情報は当局によって封殺された。
同じく11月、貴州省では強制的に墓を掘り返して火葬を推進する政策が実施され、激しい抗議が起きた。村人たちは「共産党が祖先の墓を掘り返したいなら、まず習近平の家の祖墓から掘れ」と怒りの声を上げた。
12月には、深セン市の易力声テクノロジー社で労働者による大規模ストライキが発生し、警察と衝突した。

米国の人権団体フリーダム・ハウスの報告によると、中国では今年第3四半期の抗議事件が前年同期比で約50%増加した。全国各地で大小さまざまな権利擁護運動が絶えず発生しているが、完全な統計を得ることは難しい。
北京では9月3日の軍事パレードや第4回中央委員会全体会議(四中全会)前後に、「反中共」「習近平・中共退陣」を求める標語が街頭に現れた。ライブ配信やネット上でも暗に中共を風刺するネットユーザーが少なくない。また俳優・于朦朧の死は政局に微妙な衝撃を与え、共産党離脱の動きが拡大している。
専門家が語る「中国民間抗争の三つの特徴」
中国の政局を長く観察してきたオーストラリア在住の学者・袁紅氷氏は、大紀元の取材に対し、今年の民間抗争には次の三つの特徴があると指摘した。
第一に、抗争の数と範囲が拡大傾向を示していることである。都市から農村、ネットから現実社会、経済問題から社会問題まで、言うなれば風が起こり雲が湧くような状態であり、これは中共暴政の末期的特徴の一つであるという。
第二に、2025年の民間抗争は、民衆の間にこれまで以上の絶望感が広がっていることを示している点である。袁氏は次のように述べた。
「中国人は苦しみに耐えられるが、希望を失うことには耐えられない。習近平の逆行政策が社会全体を絶望の淵へ追い込んでいる。失業した農民工、卒業しても職がない大学生、退役して職を得られない元軍人、自由主義的知識人、民営企業家らのすべてが絶望の状態にある」
第三に、民衆の抗争がますます強い政治的傾向を帯び、それが習近平個人への憎悪と怒りとして集中していることである。
さらに袁氏は「習近平は共産皇帝になろうとしている。彼は社会全体を毛沢東時代に逆戻りさせ、国際的には戦狼外交で中国を再び戦争の縁に押しやっている。その政治・経済政策は中国経済を不可逆的な大退行へ導き、彼は事実上『全国民の敵』となった」と指摘している。
「小さな火」が全国に広がる可能性
台湾勵志協会(TIA)執行長の頼栄偉氏は、現代の社会抗争は必ずしも経済要因に限られないと指摘する。生活のあらゆる側面で不満の引き金が低くなっており、江油事件のように生徒間のいじめが発端となる場合もあるという。
また、こうした事件は大都市に限らず農村や中小都市でも頻発している。「各地で小さな火がゆっくりと燃え広がっている」と同氏は述べた。
このような事件の多発により、中共政権の中央から地方までが巨大なプレッシャーにさらされている。経済が低迷し、地方財政が逼迫する中で、政府の「安定維持」への負担は増大している。
中共、農民工の大規模帰郷を厳重警戒 「復国党」文書が流出
11月、中共当局は異例にも「農民工の大規模な帰郷および滞在」を防ぐよう各地に通達を出した。
袁紅氷氏によれば、習近平政権下の経済大不況の中で、最も深刻な打撃を受けているのは約3億人の出稼ぎ労働者である農民工と就職難にあえぐ大学卒業生であるという。失業の波の中で民衆の不満は日増しに高まっている。
袁氏によると、「良心ある関係者」から伝えられた公安部内部報告書(11月)には「復国党淪陷区京津地区特別党部」と名乗る組織の文書が流通していると記されていた。その文書のタイトルは「2026年新年期間中に、中共の腐敗官僚が貪った不義の財を奪い、民生を救い、人民蜂起のエネルギーを結集せよ」というもので「帰郷する3億の農民工と失業大学生はこの呼びかけに応えよ」と呼びかけている。公安部の報告は「春節期間中に類似の事態を厳重警戒せよ」と全国の官僚に警告する内容だったという。
袁氏は次のように分析する。「中共が新年期間に農民工の滞留を防ごうとするのは、情報統制の焦点が都市部に置かれており、広大な農村には統治維持の力が著しく不足しているからである。経済不況の中で地方財政は破産寸前で、県・市レベル以下の基層党政機関では公務員給与の滞納や賞与の削減が横行している。基層警察を含め、彼らの収入は生活を維持できないほどである。まさに末期的様相を呈している」
「彼らは皆、横たわって何もしない『躺平(競争を諦め最低限の生活を送る)』状態にあり、中国の広大な農村地帯は中共支配の空白地帯となった」と袁氏は指摘する。

地方財政の崩壊と「流民化」が招く不安定化
2025年最後の月、中国各地の公務員から「五保一金(社会保険と住宅積立金)」の納付方式が変更されたことが報告されている。一部地域では過去数年分の未納金の追納を求められており、山東省濰坊市高密市の闞家鎮では鎮政府が複数部門に対し、2022年以降の未納分を補納するよう通知を出している。このような事例は他省にも広がっている。
袁氏は続けて「過去20年間、農民工はほとんど都市で働き暮らしてきた。しかし今や、農村に戻っても土地を失っており、生活基盤を完全に失った。もし彼らが農村に滞留すれば、膨大な流民が発生し、中共政権の安定を著しく脅かすだろう」と述べた。
頼栄偉氏も「中国の農民工は毎年大規模に故郷へ帰るが、今回は特別である。経済が下降を続け、都市で失業し収入を失ったことで、生活不安から中共政権への不満が募っている。中共は大都市では統制力を保てるかもしれないが、農民工たちが村へ戻れば制御不能に陥る可能性がある」と指摘。
「中央は多くの行政指標を基層に押し付けているが、人手不足と業務過多の地方政権は限界にある。中共は、この人々が農村へ戻れば秩序が崩壊することを最も恐れている」と述べた。
強まるネット統制と揺らぐ監視システム
近年、中共のネットセキュリティシステム、グレートファイアーウォールはますます強化されている。各地方では国家レベルより厳しい「地域版インターネット検閲システム」が構築され、「壁の中の壁」と呼ばれている。
今年7月15日には「国家ネットワーク身分認証システム」が正式に稼働し、「ネット身分証」がユーザーの実名とオンライン行動を一体化させ、監視が強化された。その後、青島市の街頭ではこの制度に反対する匿名のチラシが相次いで張り出された。
年末には習近平自らがネット統制の強化を指示し、当局は年間を通じて何度もネット浄化運動を展開して人々を沈黙させた。「反清復明」を論じる風潮にも当局は極度の警戒を示し、中国全土が高圧鍋のような状態になっている。
頼栄偉氏は、中共によるネット統制強化にもかかわらず、民衆は皮肉や風刺を駆使して不満を表現していると述べ「高圧的で不安定な中共統治のもとで経済が下落し、失業者が増え続ければ、民衆蜂起の気候が自然と形成される」との見方を示した。
袁紅氷氏も「中共の暴政は『国家テロによる暴力』と『国家的虚偽』の二本柱で維持されてきた。ネット統制強化は国民の心の変化と情報拡散の力への恐れの表れである。しかし、ネットを締め付けても中共が崩壊へ向かう歴史の流れを止めることはできない」と語った。
「現在中共が直面する危機は、単なるネット統制の緩みではない。中共の国家ガバナンス全体がすでに崩壊寸前なのである」
袁氏はさらに「官僚の多くが無気力・放任状態にあり、政治警察でさえ監視業務で反体制派に憎まれることを避けようとしている。監視の際に見て見ぬふりをする者もいる」と述べた。
「これは政治警察でさえ中共の末期を悟り、自らの逃げ道を残そうとする兆候である。こうした現象はこれまで存在しなかった。習近平の最大の危機は、特務統治システムそのものが思想的に動揺し始めていることだ」と分析した。
政変・兵変・民変が連鎖する可能性
中共の全体主義統治下で、政変(政治クーデター)・兵変(軍事クーデター)・民変(民衆反乱)が起こる可能性は長年注目されてきた。
頼栄偉氏は「現時点では兵変や政変よりも民変の発生可能性が高い」と述べる。ただし、大規模な民変が実現するためには、厳しいネット統制下で各地の抗議を連携させる力と、全国規模の民間リーダーや行動資源の存在が必要だと指摘した。
「もし全国的な号令をかけられる人物が現れれば、中共は真に恐れるだろう」と語る。
袁紅氷氏は「兵変も政変の範疇に入る。一定の条件が整えば起こり得る」と述べる。習近平は最近、軍内部で大規模な粛清を実施したが、彼が育てた軍は皆、二面性をもつ人間ばかりだと指摘している。
「もし習近平が天下を敵に回してでも台湾への戦争を仕掛ければ、兵変の可能性が一気に高まる」「習近平による粛清で官僚の心が揺らぎ、不満が限界に達したとき、政変の可能性も急激に高まるだろう」と袁氏は分析している。
袁氏は「いま、兵変・政変・民変はいずれも急速にエネルギーを蓄積している。やがてそれらが同時に爆発し、互いに影響し合うことで、中共暴政を覆す重大な出来事が起こる可能性がある」と締めくくった。
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