インドとパキスタンは2025年5月10日、カシミール地方での軍事衝突を受け、即時停戦で合意した。しかし、停戦発効直後から双方が「相手が停戦合意に違反した」と非難し合い、現地の緊張は依然として解消されていない。今回の衝突の背後には米中両大国の影響も指摘されており、地域情勢は複雑さを増している。
今回の軍事的緊張の発端は、4月下旬にカシミール地方で発生したテロ事件である。インド側の発表によれば、この事件でインド人観光客ら26人が犠牲となった。インド政府は、パキスタンを拠点とする武装勢力が関与したと主張し、パキスタン政府がこれを支援していると非難。パキスタン側は事件への関与を否定している。
テロ事件をきっかけに、インド軍はパキスタン支配地域への攻撃を開始。パキスタン側も報復措置としてインドへの軍事行動を発表し、両国間で激しい応酬が続いた。こうした中、アメリカの仲介により両国は10日午後5時(インド時間)をもって全ての軍事行動を停止することで合意した。インド外務省とパキスタン外務省はそれぞれ停戦合意を発表したが、直後から双方が「相手が停戦合意に違反している」と主張し合い、現地では爆発音や無人機の飛来が確認されたとの報道もある。
この地域情勢の背後では、米中両大国の影響力が色濃く反映されている。パキスタンは兵器の大半を中国から調達しており、最新鋭のJ-10C戦闘機やHQ-9防空システムなど中国製兵器を実戦投入している。一方、インドはアメリカ、フランス、イスラエルから兵器を導入し、仏製ラファール戦闘機や米製M777榴弾砲を配備している。5月7日の空中戦では、パキスタンが中国製J-10Cでインドのラファール戦闘機を撃墜したと主張し、中国の航空機メーカーの株価が急騰するなど、兵器性能の実戦評価の場となっている側面もある。
中国はパキスタンを「全天候型戦略パートナー」と位置づけ、経済・軍事両面で強い支援を続けている。「全天候型戦略パートナー」とは、国際情勢や時代の変化に左右されず、常に深く強固な協力関係を維持するという意味であり、中国がこの表現を使う国はパキスタンだけである。中国は今回の事態に対し「平静と自制」を呼びかけつつ、パキスタンへの支持を明確にしている。
一方、アメリカは近年インドとの関係を強化し、「インド太平洋戦略」の要と位置づけている。パキスタンへの軍事援助は減少傾向にあり、印パ両国への兵器供与が米中の地政学的な対立構造を反映していると見る専門家も多い。
アジア太平洋財団のサジャン・ゴヘル氏は「今回の交戦は中国軍事技術の実戦での検証の場となっている」と指摘し、民主主義防衛財団のクレイグ・シングルトン氏も「この衝突は中国の防衛輸出が地域の抑止力を再編する過程だ」と分析する。
今回の停戦合意は、核兵器を保有する両国の全面衝突をひとまず回避するものとなった。しかし、カシミール地方の領有権を巡る根本的な対立や、テロ事件への対応をめぐる不信感は解消されていない。今後も双方が自制を保ち、対話を継続できるかどうかは依然として不透明である。
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