【ニュースレターが届かない場合】無料会員の方でニュースレターが届いていないというケースが一部で発生しております。
届いていない方は、ニュースレター配信の再登録を致しますので、お手数ですがこちらのリンクからご連絡ください。

パロディか犯罪か AIが作る「現実」と戦う法律

2025/07/23
更新: 2025/07/23

デンマーク政府は、ソーシャルメディア上に投稿されたディープフェイクなどのデジタル偽造物に対して、削除を求める権利を国民に付与する方針を示した。

これは、現行のデンマーク著作権法の改正案に盛り込まれたもので、独立した新法としてではなく、既存法の一部改正という位置づけとなり、そのため、イギリスの「オンライン安全法」やアメリカの「テイク・イット・ダウン法」のように、特定の名称は付されない。

政府の説明によると、この改正により、個人は、自身のデジタル上の肖像、声、顔の特徴に対する法的な権利を持つことになり、無許可で生成されたAIコンテンツに伴うリスクの抑制が期待される。

AIによって生成された動画の進化は著しく、わずか2年前の映像と現在の映像を比較した動画を見れば、その技術的飛躍と社会にもたらす衝撃の大きさを理解できるはずだ。

2023年当時の動画は、動きが不自然で粗雑な描写が目立ち、視覚的にも現実感に乏しかった。しかし、2025年現在では、人の表情や発話の特徴までをリアルに再現する技術が確立しつつあり、本人が話しているように見える高精度な偽造映像の生成も可能となった。

AIは無限の可能性を秘めていて、私の世代でさえ、ポケットの中の強力なコンピュータで世界中の人々とビデオ通話し、瞬時に質問に答え、思考を即座に配信できるようになるとは想像していなかった。同様に、AIが実在しない人物に関する完全な偽造映像を作成できるなど、かつてはSFの領域と見なされていた技術も、すでに現実のものとなっている。

超高速インターネットが、私たちの世界との関わり方やその認識のあり方を変えたように、AIも人類とテクノロジーの関係を変える次の飛躍的な進化になると見られ、すでに多くの人々が、日常生活の中でAIを活用している。

自分の姿をスタジオジブリ風に加工するような無害な用途から、ChatGPTやGrokにメールの代筆を依頼するなど、活用の幅は広がった。理由は多忙だからか、あるいは単に面倒だからかは人によって異なるとはいえ、かつて携帯電話の普及に懐疑的な声があったように、新技術とその社会的影響に対する批判的な見方は、今も根強く存在している。

これは決して根拠のない懸念ではない。今年、私の国では、AIを使って「ディープフェイク・ポルノ」を作成したとして、ある人物が逮捕された。彼は、知人女性のSNS上の画像を加工し、ポルノ的な内容に仕立てて共有した。判決を下した裁判官は、「SNSに投稿された画像は、性的な目的で歪められることを、恐れることなく共有されるべきだ」と述べており、その主張は当然のものだ。

ただし、この男の行為を擁護するつもりは全くなく、その罪の重大性を軽視するものでもないが、これは本当の意味での「ディープフェイク」ではない。むしろ「ディープフェイク」という言葉には、実際には存在しなかった高度な技術的洗練さを感じさせてしまう。この事件で行われたのは、いわば粗雑な画像編集であり、インターネット黎明期(新しい時代や文化などが始まろうとする時期)から見られる行為だ。

画像の加工、メッセージの偽造、虚偽の引用などは以前から存在しており、「Let Me Tweet That(それをツイートさせてください)」を覚えている人もいるだろう。筆者の高校時代には、ある生徒の顔がポルノ女優の裸体に合成されたこともあった。それは粗悪で、誰が見ても本物ではないとわかるような代物だった。

しかし、画像のリアリズムが向上したことで、現実の人物を模倣した信憑性の高い偽造コンテンツが登場した。現在のAI技術は、単に、他人の顔を別人の体に合成する段階をはるかに超えた。本人の同意や認識がないまま、極めて現実的で、ほぼ見分けのつかない偽の画像や映像を、一から生成することが可能となり、これこそが、現代のAIによるディープフェイクと、過去の原始的な画像集との本質的な違いであった。

2025年のイギリスでは、「犯罪・治安法案」の一環として、性的なディープフェイクの作成を違法とする試みが行われた。しかし、法案の表現は依然としてあいまいであり、「本人の同意なく、性的なディープフェイクを作成すること」という包括的な定義にとどまった。

しかし、リスクもある。デンマークとイギリスの法制度は、急速に進化するテクノロジーに追いつこうとしているが、その変化の速度ゆえに、法律が施行される前に実効性を失うおそれがあった。デンマークは、この課題を認識しており、同国のヤコブ・エンゲル=シュミット文化大臣は、「テクノロジーは、現行法の進歩をすでに上回っている」と強調した。

そのためデンマークは、法律において「ディープフェイク」を「個人の外見や声を含む、非常に現実的なデジタル表現」と定義した。「デジタル」という要素を明示的に盛り込むことで、AI生成コンテンツに焦点を当てると同時に、パロディや風刺作品には例外を設けたのだ。

しかし、こうした法律には、表現の自由や言論の自由を制限する恐れがあり、定義が曖昧であるため、慎重に扱う必要があった。デンマークの法律では「ディープフェイク」の定義を設けたものの、「非常に現実的なデジタル表現」という広義の解釈が可能な表現は、害を与えるものでも誤解を招くものでもないコンテンツ、すなわちコメディや芸術的表現にまで規制の網をかける恐れがある。

仮にこのような制約が容認されるとしても、「風刺」の定義が政府によって決められてしまう可能性が生まれ、市民の表現の自由が損なわれかねないのだ。

同様に、「パロディ」という概念も法的には曖昧なままだ。たとえば、政治家が本来発言しないような内容を話すように編集された動画は、風刺なのか、パロディなのか、あるいは名誉毀損に該当するのか判断が分かれるところだ。

性的ディープフェイクが社会的に容認されないことは明らかだ。法律は害悪を的確に特定すると同時に、表現の自由と被害者保護との間の線引きを、より明確に定めることが必要だ。

 出典:経済教育基金(FEE)

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
ポピュリズムと政治的合憲性との関係を専門とする政治理論家。英国の複数の大学で教鞭を執り、いくつかのシンクタンク向けに研究報告書を作成している。