日本ではほとんど報じられないが、中国では今、広範な洪水が続き、被災者の声そのものが消されている。
10月に入っても中国各地で豪雨がやまず、黄河流域を中心に深刻な洪水が広がっている。陝西省(せんせい)、河南(かなん)、内モンゴル自治区、広西(こうせい)チワン族自治区などでは広範囲にわたり農地が水没し、家屋や道路が流された。だが、家を失い野宿を強いられる被災者たちの救助要請は次々と削除され、現地の悲惨な実情は隠されたままだ。

陝西省では40日以上も雨が続き、渭河(いが)沿いの村が相次いで沈み、住民が避難生活を強いられている。黄河支流の伊洛河(いらくが)や沁河(しんが)でも増水が続き、河南省の焦作(しょうさく)市では、稲やトウモロコシが腐り、収穫の見込みが絶たれた。
北の内モンゴル自治区・フフホト市近郊の村は、2か月以上も濁流に囲まれたまま放置されている。食料も尽き、家屋の多くが泥に沈んだ。村民たちの『助けて』というSOSはSNSに投稿されてもすぐに消され、外の世界には届かない。
南の広西自治区では百色(ひゃくしょく)市や河池(かち)市で家々が二階まで水没し、停電と通信障害が続く。家に帰れず、野宿を強いられている住民も多い中、当局は沈黙を貫いたままだ。人々はただ、水が引くのを待つしかない。しかし専門家によれば、完全に水が引くまでにはまだ相当の時間を要するとみられている。

「なぜ報じられないのか」「どうか広西の洪水がトレンド入りしてほしい」など、SNS上では、被災地の現状を知ってもらおうとする切実な声があふれている。彼らは世論の注目を、最後の望みとして懇願しているのだ。
悲しいことに、いまの中国では「問題を解決したければ、世論に頼るしかない」という考えが常識になりつつある。世論が動かなければ、どこへ訴えても誰も相手にしない。だが注目を集めたとしても、政府が動くとは限らない。そんな現実が、人々の胸に重くのしかかっている。
被災者を救うどころか、政府は「苦しみの声」を消すことに力を注いでいる。洪水のたびに繰り返される無作為と隠蔽、そして責任逃れ。その積み重ねが、いまや全国の民意を押し潰している。声を奪われ続けた人々の恨みは、静かに、しかし確実に積もり続けている。

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