日本のニュースでも、中国各地の洪水や救助の映像が時折流れる。毎年のように繰り返される水害、懸命に被災者を救う救援隊。だが、カメラの外には、報じられない現実がある。人々の善意は届かず、信頼は静かに沈んでいる。
「0.2円の寄付」に込められた抗議
台風に伴う洪水被害を受けた広西(こうせい)チワン族自治区で、寄付金の一覧に「0.01元(約0.2円)」や「0.02元(約0.4円)」といった超少額の金額が並び、話題になっている。
一見、冗談のようだが、背景には人々の深い不信感がある。SNSでは「これは貧しさではなく、届かない善意への皮肉だ」「寄付しても消えるなら、0.2円で十分」といった声が出ている。
中国ではかつて、2008年の四川大地震で全国的な寄付の熱気が起きたが、その後義援金の使途不明や不正流用が相次ぎ、人々の信頼を打ち砕いた。
当時集まった約650億元(約1兆3800億円)のうち、使途が確認できたのはわずか4分の1にとどまり、「8割以上の寄付が使途不明」とする報告もある。こうした経緯から、国民の間には「寄付しても届かない」という意識が深く根付いているもようだ。
0.2円の寄付は、そんな長年の不信が凝縮した象徴であり、国民が体制に向けて放った「静かな抵抗」である。

救援物資であってもきっちり「通行料」
広西の洪水では、災害対応のあり方にも疑問の声が上がっている。
ボランティア活動に従事する胡雷(こ らい)さんは、正規の手続きを経て自ら車を運転し、救援物資を被災地・百色(ひゃくしょく)市へ運んだ際、被災地の高速道路で1180元(約2万4千円)の通行料を請求された。
この件を報じた地方メディアによると、現地の道路局に取材のうえ通行料の免除を求めて交渉したものの、「地方の救援活動は対象外」との理由で拒否されたという。
この対応に対し、SNS上では「人命より規則が大事なのか」「善意まで課金するのか」といった怒りの声が相次いだ。
過去にも、非常時である被災状況を顧みない料金徴収が、たびたび世論の反発を招いてきた。
2023年8月、河北(かほく)省の涿州(たくしゅう)で洪水が発生した際には、避難中の住民が高速道路の料金所で数時間も足止めされる事態となった。係員は「洪水だろうが関係ない。ここを通るなら規定通り金を払え」と言い放ち、その冷たい一言が、災害のたびに露わになる体制の無情さを象徴していた。
予告無しのダム放流と情報封鎖
内モンゴル自治区では7月以降、豪雨により堤防が二度にわたり決壊し、多くの家屋が濁流に呑まれた。
本紙の取材に応じた地元住民は、「かつてない規模の災害だった。だが、自然の力ではなく、無予告のダム放流が原因だ」と訴える。
排水は進まず、発生から二か月を経た今も、一部の家屋は水没したままだ。損害の査定は行われず、政府の動きも見られない。支援として届いたのは一家あたり米4キロのみで、再建のめどは立っていない。農地は壊滅し、収入を断たれた人々は出稼ぎに追い込まれている。
「なぜ放流を知らせなかったのか」という住民の声が相次ぐなか、当局は報道を封鎖。被害の全貌は、今もなお闇の中にある。
(浸水が続く内モンゴルの街)
中共官製メディアは災害に関する報道をほとんど行わず、映しても被害の規模を小さく見せるような内容が多い。救援の映像は演出との指摘があり、被災地の声は検閲で届かない。義援金が途中で消え、救援物資が転売されるとの証言も後を絶たない。それが、いまの中国の災害現場の「現実」である。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。