中国の映像制作会社が発表した「AI俳優」が、思わぬ形で議論を呼んでいる。最先端技術の象徴として登場したはずの存在は、公開直後から「実在の俳優に似すぎている」との批判にさらされている。
3月18日、上海の制作会社・耀客伝媒は、AIで生成された2人の俳優「林汐顔」と「秦凌岳」を正式に発表した。両者はSNSアカウントも開設し、新作ドラマへの出演も予定されているという。企業側は「AI時代の新しい表現」として、仮想と現実を越える試みを強調した。
公開された映像では、女性キャラクターは整った顔立ちと知的な印象を持ち、男性キャラクターは輪郭がはっきりした端正な外見で描かれている。ただ、その完成度の高さが逆に違和感も生み、「表情が硬い」「目に感情がない」といった声も相次いだ。
それ以上に議論を呼んだのは、その顔立ちである。ネット上では、女性キャラクターが複数の若手女優の特徴を組み合わせたように見えるとの声が広がり、男性キャラクターについても特定の俳優に似ているとの指摘が出た。「これは合成ではなく、実質的なコピーではないか」と疑問を持つ声も少なくない。
法律面でも問題は小さくない。盈科法律事務所(北京市)の弁護士・周垂坤氏は、中国経済紙「北京商報」の取材に対し、一般の人が見て特定の人物を直接思い浮かべるようなAIキャラクターは、肖像権侵害に当たる可能性があると指摘した。たとえAIが合成や架空の存在であっても、顔立ちや表情に強い類似性があれば、法的責任が問われる可能性があるという。
一方で、こうした動きの背景には明確な産業的理由がある。AIを使った映像制作は、従来と比べて圧倒的に低コストである。通常の短編ドラマが1本あたり50万〜100万元(約1150万円〜2300万円)の制作費を必要とするのに対し、AI作品は3千〜5千元(約7万円〜12万円)で制作可能。
市場の拡大も急速に進んでいる。「北京商報」によると、2025年6月と7月の時点では、AI作品はほとんど視聴されていなかったが、半年後には再生数が21.96億回に達し、その年には約181倍に増えたという。
その象徴的な例として挙げているのが、大ヒットしたAI制作の実写風短編ドラマ「霍去病」である。この作品は、制作チーム約20人、制作時間48時間、AIの処理コスト3千元(約7万円)で制作と報じている。つまり、単なる「安い実験作」ではなく、実際に注目を集めた作品でも、ここまでコストを抑えられることを示した形だ。
制作会社側にとって、AI俳優の導入はコスト削減にとどまらず、俳優の不祥事などによる出演リスクの回避や効率化を見据えた動きでもある。
ただし、今回の議論で浮き彫りになったのは、AI俳優をめぐる肖像権侵害のリスクである。
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