古謝知事 首相らに「沖縄政策協議会」の早期再開を要請 世界各国の駐留米軍の犯罪への対応 

2026/10/08
更新: 2026/10/08

米軍の駐留による安全保障と、受け入れ国の住民の安全や司法権をいかに両立させるか。沖縄県で発生した米海兵隊員による強盗殺人事件を受け、駐留米軍による犯罪や事故への対応が改めて問われている。

韓国では米兵による性犯罪を契機に、容疑者の身柄引き渡し手続きや再発防止教育の仕組みを改善。フィリピンでは米兵による殺人事件で自国の刑事裁判権を行使し、イタリアでは米軍機事故を受けて議会が調査に乗り出した。各国は米国との安全保障関係を維持する一方、住民の安全と司法上の権利を確保するため、それぞれ異なる対応を進めてきた。

沖縄知事、単発の抗議から継続的な協議体制へ

沖縄県の古謝知事は、米海兵隊員による強盗殺人事件を受け、高市早苗首相や関係閣僚と面会し、事件への強い抗議とともに、10年以上開催されていない「沖縄政策協議会」の早期再開を要請した。

古謝知事が事件への対応に先立ち協議会の再開を要請したのは、事件が起きるたびに個別の抗議や要望を行うだけでなく、政府全体で基地負担軽減を継続的に協議し、その進捗を確認する枠組みを確保するためである。

米軍側は事件を受け、48時間の業務停止や規律訓練、30日間の外出・飲酒制限などの措置を発表した。古謝知事は、米軍が再発防止に取り組む姿勢を示したものとして一定の意義を認める一方、過去にも同様の措置が取られながら事件が繰り返されてきたことを指摘した。

その上で、米軍関係者への教育を米軍側だけに委ねず、日本政府も関与し、人権教育や過去の事件が日米同盟に与えた影響などについて共同で教育するよう提案した。

高市首相は事件について強い憤りを表明し、米側に抗議し、実効性のある再発防止策に向けて日米間で協議を進める意向を示した。

なお、今回の事件では容疑者の身柄が日本の警察側にあるため、会談で日米地位協定の改定そのものは直接の議題とならなかった。

しかし駐留米軍兵士の現地住民への犯罪は日本だけの事象ではない。米軍を受け入れている各国政府は、「安全保障上の同盟維持」と「自国民の生命・人権の保護および国内世論への対応」という強いジレンマを常に抱えている。

韓国、米兵犯罪を契機に身柄引き渡し手続きを改善

沖縄と同様に米軍が駐留する韓国では、米兵による犯罪を契機として、米韓地位協定(SOFA)の運用改善が進められてきた。

従来は、韓国側が起訴前に容疑者の身柄の引き渡しを受ける場合、引き渡し後24時間以内に起訴することが求められていたが、この要件を撤廃した。

これにより、韓国側は起訴前でも米軍容疑者の身柄引き渡しを求め、米側代表者の立ち会いの下で初期取り調べを進めることが可能となった。米軍関係者に対する捜査を、韓国の司法当局がより実効的に進めるための制度改善である。

ただし、起訴前の身柄引き渡しがすべての事件で無条件に認められるわけではなく、米韓地位協定に基づく手続きが適用される。

韓国は捜査権限の改善に加え、犯罪の予防や被害者支援についても米側との協議を進め、2013年6月の第191回米韓地位協定合同委員会では、合同委員会の開催頻度を従来の年1回から年2回へ増やし、継続的な協議を進める体制を整えた。

さらに、基地外で活動する米軍憲兵について、銃器の携帯や手錠の露出、活動範囲などの規律を明確化し、韓国警察との合同巡回を実施するなど、地域住民の安全確保に向けた対応を進めている。

フィリピン、米兵の重大犯罪で自国の刑事裁判権を行使

フィリピンでは、米軍関係者による重大犯罪を巡り、米比訪問軍協定(VFA)の下で自国の刑事裁判権をどのように行使するかが争点となってきた。

米軍関係者による殺人などの重大犯罪について、フィリピン司法省や裁判所は国内法と協定に基づいて捜査や公判を進め、容疑者の身柄管理や司法手続きのあり方を検討してきた。

韓国が地位協定の運用改善によって起訴前の捜査権限を強化したのに対し、フィリピンでは、米軍との「訪問軍協定(VFA)」に基づき、米兵が起こした事件の裁判自体はフィリピンの裁判所で行う仕組みとなっている。

ただし、容疑者の身柄をどこで管理するかについては、時期によって明確にルールが分かれている。フィリピンの事例は、「自国の司法制度で裁判を進める権利」を確保しつつ、「裁判中と判決後で容疑者の身柄の管理を分ける」という協定上の現実的な運用を示している。

イタリア、米軍機事故で議会が調査委員会設置

欧州でも、米軍の活動と住民の安全を巡る問題は発生している。

1998年、イタリアで米軍機がチェルミス山のケーブルカーのケーブルを切断し、乗客20人が死亡する事故が起きた。

事故を受け、イタリア下院は調査委員会を設置し、事故の原因や責任の所在、米軍機の飛行規制、安全管理体制について検証を進めた。

この事故では、北大西洋条約機構(NATO)地位協定に基づく刑事裁判権の分担も問題となった。

イタリア側は議会による調査を通じ、米軍の訓練活動に対する規制や安全確保のあり方を検討した。

また、NATO加盟国では、地位協定や関連規程に基づいて刑事裁判権の分担、民事請求、司法手続きなどを定め、駐留外国軍の活動と受け入れ国の法的権利との調整を図っている。

米陸軍欧州司令部の規程「AER 550-56」も、こうした制度運用に関係する資料の一つである。

イタリアの事例は、米軍による重大事故に対し、受け入れ国の議会が独自に調査を行い、軍事活動の安全管理や司法管轄権の問題を検証した点で、韓国やフィリピンとは異なる対応を示している。

安全保障と住民の安全、制度の実効性が焦点

米軍の駐留を受け入れる各国は、安全保障上の協力関係を維持する一方、重大犯罪や事故が発生した際には、捜査権限の確保、被害者支援、米軍の活動規制などについて米側との調整を重ねてきた。

韓国は地位協定の運用改善と政府横断的な対応体制の整備、フィリピンは刑事裁判権の行使、イタリアは議会による事故調査と安全管理体制の検証という、それぞれ異なる方法を取っている。

今回の沖縄の事件を受けて古謝知事が求めた沖縄政策協議会の再開と日本政府による人権教育への関与は、事件発生後の抗議を継続的な制度改善につなげるという点で、海外の取り組みと共通する。

エポックタイムズの記者。東京を拠点に活動。政治、経済、社会を担当。他メディアが報道しない重要な情報を伝えます