ネパール大洪水の原因は気候変動ではない

2026/09/05
更新: 2026/09/05

論評

初期の報道とは異なり、ネパールでこれまでに1千人以上の死者を出し、依然として4千人が行方不明となっているヒマラヤ山脈の大洪水を引き起こしたのは、気候変動でも地震でもない。

オーストリア・グラーツ大学の地球科学者ヤコブ・シュタイナーは次のように説明する。「基本的には、下層の岩盤が崩壊したことで氷河舌の基部が剪断された。氷河を支えるものが何もなくなったのだ。その氷と岩塊が標高5100メートルから3千メートルへと落下し、川をせき止めた。その天然ダムが決壊すると、背後に蓄積されていた水が一気に放出され、洪水を引き起こした」

下流域の壊滅的な被害をもたらした数億トンもの土砂は、山あいの川を削り取りながら流れ下り、村全体を飲み込んだ水、氷、岩石の雪崩によるものだった。そして、流出したその大量の土砂の多くは、同じ河谷に建設されていた大規模なダム群や関連インフラに由来していた。

その谷とは、ヒマラヤで最も水力発電開発が過密に進められている地域の一つ、ルヘンデ・ボテコシ・トリシュリ回廊である。ネパールとチベットの国境から南へ、ラスワ郡およびヌワコット郡を抜ける同じ険しい峡谷と、土石流に削り取られた支流沿いには、20を超える事業計画がひしめいていた。

総出力431メガワットに及ぶ稼働中の発電所12基が破壊された。さらに建設中だった計約470メガワット相当の15事業も甚大な被害を受けた。既存および将来の発電設備を合わせると900メガワット以上、すなわちネパールの送電網の相当部分が、土砂の流路上に直接位置していたのである。

総工費460億ドルに達するこれらの大規模水力発電計画を後押ししたのは、ネパール国内の電力需要ではなく、国際開発業界が抱く気候変動への恐怖と、化石燃料を再生可能エネルギーに置き換えようとする強い意志であった。国際的な融資機関は、調理、交通、産業の電化を進め、余剰の再生可能エネルギーをインドへ輸出するため、2035年までにネパールの水力発電規模を28500メガワットにするという目標を掲げ、各計画を推進、融資し、加速させた。

未完成の事業の中で最大規模だったのが、被災時に約84%まで工事が進んでいた216メガワットのアッパー・トリシュリ第1発電所である。これは韓国のKOEN(韓国南東発電)、国際金融公社(IFC)、アジア開発銀行(ADB)、アジアインフラ投資銀行(AIIB)、さらにカナダ気候基金などの気候変動対策資金で構成される国際援助コンソーシアムが支援する旗艦的な流れ込み式水力発電計画だった。

その直上流および直下流には、111メガワットのラスワガディ発電所(発電所建屋と変電所が破壊)、建設中の120メガワットのラスワ・ボテコシ事業、60メガワットのアッパー・トリシュリ第3Aおよび同3Bに加え、サンジェン、チリメ、旧設の24メガワットのトリシュリ発電所、デヴィガート、そして一連の小規模発電所や堰が連なっていた。

氷と岩の雪崩が直撃したその狭い川底には、飯場、掘削残土、仮排水トンネル、締切堤、進入道路が密集していた。氷と土砂のダムが決壊したとき、奔流は単に増水しただけにとどまらなかった。谷にすでに積み上げられていた崩れやすい岩石やコンクリートを巻き込み、トンネルや発電所建屋そのものを粉砕しながら突き進んだ。

数百人の作業員がそれらのトンネル内にいた。数日後にも、両郡の9事業現場で5百人以上が行方不明のままであり、アッパー・トリシュリ第1だけでも行方不明者は数百人に達すると推計された。

環境保護と「気候変動への適応力(レジリエンス)」推進の名の下に、国際援助業界は、氷雪崩、地滑り、鉄砲水が頻発することで知られていた地質学的に不安定な峡谷へ、大量の作業員を送り込んでダムを過密に建設した。5100メートルで剪断された岩石と氷が最初の引き金を引いたが、被害規模を劇的に増大させ、何千人もの人々を危険地帯に晒したのは建設現場そのものだった。

二酸化炭素はヒマラヤの氷塊にとっての脅威ではない。インド政府による大規模な調査検討報告も、何年も前にその結論に至っている。2009年、環境森林省はV・K・ライナによる報告書『ヒマラヤの氷河:氷河研究、氷河後退、気候変動に関する最新レビュー』を刊行した。

インド地質調査所の元副長官であるライナは、1世紀以上の観測データを精査した。氷河は、あらゆる間氷期がそうであるように、最後の氷河期が終わって以来、融解と後退を続けている。その速度は氷河ごと、また年代ごとに大きく異なっている。隣接する氷河が後退する一方で、前進している末端部も存在する。

ガンゴートリーのように詳細に調査されている氷河の後退速度は、地球の気温が上昇していた1990年代以降であっても減速した。全体像が示しているのは、単一の気候変動に起因する一様な融解ではなく、動的で不均質な氷被の振る舞いである。

ネパールで起きたような氷と岩石の雪崩は、同じ山脈において地震の有無を問わずこれまでも発生してきた。今回決定的に異なっていたのは、眼下の谷に存在した人口とコンクリートの密度である。そしてその密度は、「気候変動の解決策」を性急に建設しようとする動きによって莫大に膨れ上がっていた。気候変動への恐怖がダムと作業員をあの場所に配置し、山が残りの惨劇を完遂したのである。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
エポックタイムズ(The Epoch Times)コラムニスト。かつてカナダ主要紙『ナショナル・ポスト』や『グローブ・アンド・メール』でもコラムニストを務める。トロントを拠点とする「エナジー・プローブ(Energy Probe)」および「消費者政策研究所(Consumer Policy Institute)」のエグゼクティブ・ディレクター。 米国・カナダ双方で環境分野のベストセラー第1位を記録した著書『The Deniers(否定派)』をはじめ、計7冊の著作を執筆している。
経済学者。カナダを拠点に世界規模で活動を展開する独立系シンクタンク「エナジー・プローブ研究財団(Energy Probe Research Foundation)」および「プローブ・インターショナル(Probe International)」代表。 オンライン報道メディア『スリー・ゴージズ・プローブ(Three Gorges Probe)』ならびに『オディアス・デッツ・オンライン(Odious Debts Online)』の発行人を務めるほか、多数の著作・編著を刊行。その著書や論文は日本語、中国語、スペイン語、ベンガル語、インドネシア語など多言語に翻訳されている。 連絡先: patriciaadams@probeinternational.org