米国の債務も問題だが 次の危機はユーロ圏から起きる可能性

2026/08/30
更新: 2026/08/30

論評

米国の40兆ドルに上る債務は、世界中で大きく報じられてきた。しかし、米国の財政問題が重要である一方、私たちは一つの重要な教訓を忘れてはならない。財政政策で問題となるのは「誰が勝つか」ではなく、「誰が先に負けるか」である。

2026年の公式推計によると、米国の社会保障制度とメディケアの資金不足額の現在価値は、今後75年間で約95兆ドルに達する。これは同期間に予測されるGDPの累積現在価値のおよそ5%に相当する。それに加え、一般投資家が保有する連邦政府債務は、2026年にはすでに年間GDPの101%に達すると予測されている。

しかし、ユーロ圏が抱える「帳簿に載らない隠れた借金」は、公式に発表されている国の借金と同じか、それ以上に膨らんでいる。

欧州委員会の公式試算によれば、将来支払わなければならない年金の総額はGDPの約3.7倍(371%)にのぼる。将来入ってくる保険料を差し引いて計算しても、なおGDPの約1.5倍(150%)もの年金財源が不足している。しかも、この数字には今後さらに増え続ける医療費や介護費用の負担がほとんど含まれていない。

これが何を意味するのか。次の債務危機(国家の借金問題)は、米国ではなくユーロ圏を震源地として起きる恐れがあるということである。

第一に、最近では金の購入や資産構成の見直しが進んでいるとはいえ、米ドルは依然として世界の基軸通貨であり、米国債は世界各国の中央銀行にとって最も重要な資産である。

第二に、EUの主要国の多くでは、財政問題を直視しようとしない政治状況が続いている。フランス国債の利回りは今やイタリアを上回っている。ユーロ圏では、歳出削減や将来債務の抑制に踏み切ろうとする政府がない。主要なユーロ圏諸国では、資金手当てのない既存の将来債務(すでに負担が約束されているものの、まだ国債として発行されていない債務)がGDPの300%を超えている。

第三に、2021年以降、ユーロ圏の国債などの資産は実質ベースでマイナスの経済リターンしか生み出しておらず、世界中の投資家の購入意欲は減退している。

米国の債務も課題ではあるが、ユーロ圏の債務はそれよりもはるかに深刻である。なぜなら、公式に報告されている債務額は「過剰財政赤字手続き(EDP)」に基づく数字にすぎず、政府・公的部門の総負債を示しているわけではないからである。

ユーロ圏のマーストリヒト基準による債務は、連結ベースの通貨・預金、融資、および債券を額面で計上しているにすぎない。したがって、この数値は公的部門の完全なバランスシート上の負債よりも実質的に小さく、ユーロ圏が抱える年金や公的部門関連の暗黙の支払い義務と比べれば、さらに狭い範囲しか捉えていないのである。

ここから得られる重要な教訓は、投資家がすでに発行された債務を懸念するのは当然だが、経済停滞に苦しむ地域で、財源の裏付けがない負債(年金・医療などの将来債務)に加えて政府の規模が拡大していることに対し、さらに警戒すべきだということである。

これらすべてが示しているのは、最近の世界的な債券売りが一時的な現象ではないということだ。もはや中央銀行が政府の無責任さを隠蔽することはないと、市場は政府に突きつけているのである。

先進国の政府は、債務に依存した政策の限界をことごとく押し広げ、財政、経済、インフレの各面で限界を超えてしまった。

財政上の限界: 歳出を増やせば恒常的な財政赤字が生じ、増税では決して問題を解決できない。政府支出は納税者と経済にとって負担となる。

経済上の限界: 政府支出をさらに増やし、債務で賄った公共部門の支出によってGDPを膨らませても、経済と生産的投資を弱体化させ、停滞を招くだけである。

インフレ上の限界: 政府支出は持続的なインフレにつながり、市場は消費者物価の高止まりを織り込む。これが経済をむしばむ一方、増税と物価上昇が重なることで中間層は打撃を受ける。

米国が大きく報じられるのは、米国債利回りが依然として世界の資金調達コストや担保価値を決める基準となっているからだ。しかし、次の大規模なソブリン危機(国家信用危機)を引き起こすのはユーロ圏かもしれない。なぜなら、加盟国自らが管理できない単一通貨で借金を重ねているうえ、各国政府は歳出削減を拒否し、経済をさらに弱体化させる増税や規制強化に絶えず頼っているからである。

8月21日時点で、米30年国債利回りは5.27%、10年国債利回りは約4.73%で推移していた。その前の1週間には激しい値動きがあり、長期債利回りは一時、2007年以来の高水準まで上昇した。しかし、世界が米国をリスクとみなし、他国を安全な避難先と考えているのであれば、過去のリスク回避局面と同じように、ドイツ国債の利回りは低下しているはずだ。実際にはそうなっていない。ドイツ10年国債(ブンド)の利回りは3.26%まで急上昇し、英国10年国債利回りは過去最高の5.1%、日本の10年国債利回りも2.89%近辺に達している。これは、価格の見直しが米国だけではなく世界規模で起きていることを示している。

投資家と政府にとって重要なのは、この点である。長期国債はもはや、無条件に安全とみなされる資産ではない。金価格が急騰しているのもそのためだ。

長期債は現在、インフレリスク、財政悪化、国債供給の増大、そして中央銀行が財政上の無責任さを覆い隠せなくなったことを反映して、価格の再評価(利回り上昇)が進んでいるのである。

米10年国債と30年国債の利回りが上昇すると、住宅ローン、企業向け融資、銀行の資金調達、新興国の借入コストを通じて、世界の金融環境が引き締まる。こうした状況の中、市場は安全を求めてユーロ圏の債券に向かっているのではない。むしろ、そこから資金を引き揚げている。

米国は依然として世界の基軸通貨を持ち、世界で最も厚みと流動性のある国債市場を有している。だからといって債務問題がなくなるわけではないが、問題が波及する仕組みは異なる。さらに、望まれるほど速いペースで削減してはいないものの、少なくとも米政府は連邦支出を抑制している。ユーロ圏ではそうではない。主要国のいずれも歳出を抑える意思があるようには見えず、むしろ逆方向に進んでいる。これが財源の裏付けのない負債の重圧をさらに強めることになる。

ユーロは、加盟国の離脱によって債券などが価値の劣る旧自国通貨へ強制転換されるリスク(リデノミネーション・リスク)を抱える唯一の国際通貨である。また、ユーロ圏の財政政策は自由市場よりも介入主義と政府統制を選んできた。欧州中央銀行(ECB)がユーロ圏の金融政策を一元的に担っているにもかかわらず、各国政府はあたかも無制限の通貨信用を持っているかのように支出と借り入れを続けている。そして彼らが頼る唯一の財政手段は増税である。この構造では、当初は流動性の問題にすぎなかったものが、瞬く間に支払い能力への懸念へと発展する危険がある。特に市場が、欧州委員会(ブリュッセル)、欧州中央銀行(フランクフルト)、各国政府が一貫した戦略で対応できるのか疑い始めた場合はなおさらだ。私たちは2011年にそれを目にした。

現在、ユーロ圏はさらに多くのリスクを抱えている。「貯蓄・銀行同盟」や中央銀行デジタル通貨(CBDC)の構想は、世界の投資家に安心感を与えるものではない。むしろ、自由市場と資本誘致の世界的拠点としての魅力を高める代わりに、通貨の利用を強制することで、ユーロ圏が介入主義と政府統制を選択したのではないかという懸念を強めている。

貯蓄・銀行同盟構想によって、ユーロ圏の債務危機を回避することはできない。歳出削減を受け入れない政府の下では、デジタル通貨は監視と統制、そして最終的にはさらなるインフレにつながるだけかもしれない。

次の危機が欧州から起きる可能性があるのは、このためである。米国に債務問題がないからではなく、ユーロ圏には制度上の柔軟性、規律、そして開かれた市場への姿勢が欠けているからだ。したがって、ユーロ圏が投資を強制し、抑圧的な手段によって通貨利用を促進する介入主義的な計画を加速させれば、問題はさらに深刻になる可能性がある。金融政策が財政の無責任さに歯止めをかけられず、各国政府も歳出削減を拒むのであれば、通貨と金融システムそのものが危険にさらされる。

米国の債務問題を解決するには、歳出削減を実施し、生産性の高い経済成長を促す必要がある。残念ながら、ユーロ圏の各国政府は経済成長を生み出さず、むしろ政府介入を強めている。そのため、主要加盟国の一つに対する信頼が失われれば、その影響は通貨同盟全体に及ぶことになる。

世界は今、ドイツの歳出拡大という実験が失敗していく様子をリアルタイムで目にしている。だからこそ、ドイツ国債は安全資産として買われるのではなく、他国の国債と同じような速さで売られている。

フランスとドイツの最近のデータは、問題がユーロ圏内の小国だけに限られていないことを示している。ユーロ圏の中核国が弱体化する一方、周辺国は移民と政治的な支出によって停滞を覆い隠しているか(スペイン)、依然として危機後の状態から抜け出せずにいる。

フランスの10年国債利回りは、2008年以来見られなかった水準まで急上昇した。かつて安全資産とみなされていたドイツ国債も、ユーロ圏の他国債とともに下落した。欧州中央銀行(ECB)は、財政の弱い国の国債金利が急上昇するのを防ぐ救済策(TPIなどの「市場の分断防止策」)によって、各国の財政格差を一時的にごまかしてきた。しかしその結果、本来なら財政が脆弱な国だけが負うべきリスクが、ドイツなどを含めたユーロ圏すべての国債発行国(政府)へと広く押し付けられる形になっている。

フランスが重要なのは、ドイツと並ぶユーロ圏の中核経済国だからである。フランスの公的債務は2026年にGDP比約118%となり、2030年までには最大130%に達する可能性がある。市場は今や、新たな首相が誕生しても歳出削減には踏み切らないと理解している。彼らは過去30年間と同じ失敗した手法、つまり増税を行い、必要な歳出削減を先送りするというやり方を繰り返すだろう。

市場がフランスをユーロ圏の中核的な強みではなく、財政上の弱点として評価し始めるにつれ、ユーロ圏内部の問題はもはや無視できなくなっている。欧州のプロジェクトは、政府支出の拡大と巨大な公共部門を政策の中心に据え、膨張し続ける官僚機構のための「現金自動支払機」として民間部門を利用してきた。

本当の問題は、単に債務の絶対額ではない。巨額の借り入れ、肥大化した政府、高い税負担、そして実質的な成長力の欠如が組み合わさることで利払い費が増大している。そして今や、中央銀行がこの問題を覆い隠すことはできないことが明らかになっている。

米国の借入コストが上昇すれば、世界の金融環境は引き締まる。これは歳出削減、政府機関の閉鎖、そして民間部門のさらなる成長を必要とする重大な問題である。一方、ユーロ圏の借入コストが急騰すれば、それは政府規模をどんな代償を払ってでも拡大することを基盤としてきた欧州のプロジェクトが持続不可能であることを示す。政府が短期的な痛みを拒めば、その痛みは国民に転嫁される。

解決策は、政府をさらに肥大化させることでも、国債のマネタイズ(中央銀行引き受け)でも、介入を増やすことでも、生産的な資本への増税でもない。必要なのは、信頼に足る歳出削減、構造的財政赤字の縮小、民間投資へのインセンティブ強化、そして規制負担を取り除き、生産性と経済成長を高める改革である。

何も変わらなければ、米国の債務は今後も世界の金融環境を引き締め続けるだろう。しかし、それでも次のソブリン債務危機が勃発する場所は、ユーロ圏になる可能性がある。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
ヘッジファンド「Tressis」のチーフエコノミストであり、ベストセラー書籍『自由か平等か』(2020年)、『中央銀行の罠からの脱出』(2017年)、『エネルギーの世界はフラット化している』(2015年)、『金融市場での人生』の著者。