焦点:北朝鮮の「戦略兵器」実験、軍近代化の隠れた意味

2018/11/20
更新: 2018/11/20

Hyonhee Shin

[ソウル 18日 ロイター] – 北朝鮮の非核化協議が続いているにもかかわらず、「最新戦略兵器」実験を行ったとする同国の主張は、通常兵器の性能向上と軍部を安心させたい欲求の表れだと、専門家はみている。

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が、新たに開発された戦略兵器の実験を視察したと、国営の朝鮮中央通信社(KCNA)は16日伝えた。同兵器については、「鋼の壁」となり得るという以外、詳細は明らかにしていない。

今年、金委員長が兵器実験を視察したのはこれが初めてだが、すでにとん挫している米国との非核化協議の障害となりかねない。米韓両国は、非核化交渉を妨げないよう慎重な構えを見せている。

今回の実験は、通常戦力の柱を130万人強の兵士からハイテク兵器へと転換させる金委員長の戦略の一環だと専門家は指摘する。

「これは北朝鮮版の軍事改革といったところだ」と、韓国シンクタンク、峨山(アサン)政策研究所の崔剛(チェ・カン)副所長は指摘。「外の世界に対して隠れたメッセージがあるとすれば、それは『見くびるな、われわれも近代化している』というものだろう」

北朝鮮が保有核兵器の少なくとも一部を放棄するならば、新たな高性能兵器の重要性は一段と増す可能性がある。

制裁下にある北朝鮮の防衛費は、韓国や米国の比ではないが、北朝鮮の前方展開兵力や銃器、多連装ロケットシステム(MLRS)は米韓の同盟諸国にとっては多大な脅威となる。

韓国国防省が2016年に行った評価によると、北朝鮮軍は約5500のMLRS、4300台の戦車、2500台の装甲車両、810機の戦闘機、430隻の戦闘艦、70隻の潜水艦を保有している。

米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は12日、北朝鮮が明らかにしていない推定20カ所のミサイル基地のうち、少なくとも13カ所を特定したとする報告書を発表した。

また、軍近代化の一環として、20万人強の特殊部隊のためにホバークラフト部隊を開発していると、CSISは指摘している。

金氏は2011年に北朝鮮の指導者となって以来、軍需工場の生産ラインの近代化を進め、老朽化した兵器やテクノロジーからの転換をはかっている。

「防衛産業は、強力な戦略兵器や独自の軍用装備品を開発・製造すべきだ。また、主体(チュチェ)思想に沿う生産構造を完成させ、最新科学とテクノロジーに基づいてその生産ラインを近代化すべきだ」と、金委員長は自主性を唱える国家理念に言及しながら、2018年新年の演説で語った。

北朝鮮と韓国は平壌で9月行われた首脳会談で、軍事境界線付近の大幅な緊張緩和で合意。北朝鮮が衝突が起きやすい西部沿岸沿いに配置されている迫撃砲の解除を始めたと、韓国国防省は明らかにした。

だが、前方に展開されているMLRSの除去は合意には含まれていない。そのような場所に配備されている長距離砲やロケット発射装置は、韓国の首都ソウルに到達可能だ。

韓国の聯合ニュースが軍関係筋の話として伝えたところによると、今回新たに実験された兵器は新型MLRSだという。一方、新たな短距離ミサイルとの見方をする専門家もいる。

近代化した兵器を宣伝することで、金委員長は核のない未来を憂う軍の強硬派や国民を安心させようとしていると、韓国の慶南大学極東問題研究所の軍事専門家、Kim Dong-yub教授は指摘する。

「金氏が、新たな最優先事項は経済だと宣言し、北朝鮮は非核化すると述べていることにより、軍への関心と支援が減っていると感じている軍内部の多くは、終戦宣言のような目立った譲歩を同氏がまだ引き出せていないため、疑念と不安を感じている可能性がある」と同教授は言う。

「実験の視察は国際社会にとってはネガティブなメッセージを送ることになると分かっていても、国を固めるには必要だったのだろう」

(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

 

11月18日、北朝鮮の非核化協議が続いているにもかかわらず、「最新戦略兵器」実験を行ったとする同国の主張は、通常兵器の性能向上と軍部を安心させたい欲求の表れだと、専門家はみている。写真は、非武装地帯で警備にあたる韓国軍兵士。朝鮮半島中部の鉄原郡で15日代表撮影(2018年 ロイター)

 

Reuters
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