特別リポート:イランのミサイル開発に新事実、アルミ粉末計画の内幕

2020/06/26
更新: 2020/06/26

[ロンドン 24日 ロイター] – イラン北東部、北ホラーサーン州の砂漠の端に、アルミニウム工場が建っている。近くには国内最大のボーキサイト鉱床。イラン政府はこの施設群について、アルミニウムの生産拡大に向けた取組みの重要な柱とうたっている。

ところがジャジャーム近郊のその敷地内には、イランの精鋭治安部隊であるイスラム革命防衛隊が建設した極秘の施設も存在する。

イラン政府の元当局者、そしてこの人物がロイターに提供した施設に関する文書によると、ここで生産されているのは革命防衛隊のミサイル計画に用いるアルミニウム粉末。ボーキサイトから製造されるアルミニウム粉末は、固体燃料ミサイルの推進剤の主要成分だ。

この元当局者アミル・モガダム氏によれば、イランが軍事用アルミニウム粉末の製造を開始したのは5年以上前。2013年から18年に行政担当副大統領のオフィスで広報業務に従事し、議会対応の窓口役も担った彼は、ほとんど知られていないこの施設を2回訪れたことがある。18年にイランを離れた後も生産は続いていると、モガダム氏は言う。

ミサイルに用いるアルミニウム粉末をイランが生産していることは、これまで報じられていない。国際的な制裁下、兵器の先進技術の獲得が難しくなるなかで進められてきたものだ。米国とその同盟国は、イランのミサイル能力が中東、そして世界全体にとって脅威になると考えている。

ロイターはこのほど、2011年から18年に作成されたアルミニウム粉末生産計画に関する10数点の文書を検証した。そうした文書の1つが、革命防衛隊の司令官かイランの最高指導者ハメネイ師に宛てられた書簡だ。この司令官のきょうだいには、同国のミサイル開発計画の父と称えられる人物がいる。

ムハンマド・テヘラニ・モガダム司令官(当時)は書簡のなかで、ジャジャームの施設を「金属粉末からミサイル燃料を生産するプロジェクト」と表現し、「ミサイル固体燃料生産の自給率を高める」うえで重要な役割を担っていると書いている。書簡に日付はないが、中で言及されている出来事から考えると、2017年以降のものとみられる。

ニューヨークのイラン国連代表部に問い合わせたところ、アリレザ・ミリューセフィ報道官は、「これらの主張について、また文書の真正性については何ら承知していない」と回答した。

「イランが核弾頭や核を搭載するミサイルを製造しようという意図を持ったことは一度もないことを強調しなければならない」と、同報道官は語った。イランはかねてから、ミサイル開発計画は防衛目的に限ったものだと主張している。

イランのミサイル開発計画を所管する革命防衛隊の広報室は、ロイターの質問に回答しなかった。ムハンマド・テヘラニ・モガダム司令官にもコメントを求めたが、回答はなかった(計画の詳細を明らかにした元当局者アミル・モガダム氏と司令官は、同姓ではあるが無関係)。ハメネイ師とロウハニ大統領いずれのオフィスからも回答はない。

アミル・モガダム氏がアルミニウム粉末の生産計画を明らかにしたことで、米国政府はイランのミサイル開発に関する調査を強化する可能性がある。現在フランスに住む同氏は、一部の政府官僚による汚職を告発したところ、社会不安を煽ったと非難され、18年にイランを離れた。アルミニウム粉末の生産計画を暴露しようと決めたのは、イランのミサイル開発の野望は国民の利益にならないと考えためただという。

米国はイランに広範な制裁を科している。金属類の生産や弾道ミサイル開発計画も対象で、アルミニウム製造や関連取引の制限も含まれている。革命防衛隊そのものや、革命防衛隊と取り引きしたり支援をする第三者も制裁対象だ。制裁の運用に当たっては、米財務省が中心的な役割を果たしている。

軍事目的のアルミニウム粉末生産が制裁違反に該当しうるか財務省に問い合わせたところ、報道官は「潜在的に制裁対象となりうる行為についての報告はすべて真剣に受け止めている」と回答。調査を行う可能性についてはコメントしなかったが、「我々の管轄範囲内で、イランの現体制と世界各地における彼らの悪質な行動を支援する者を制裁対象とすることにも注力している」と述べた。

国連は、核弾頭を搭載できる弾道ミサイルに関するイランの活動については制裁対象としている。国連の報道官は、アルミニウム粉末生産活動が制裁違反に相当するかどうかは明らかではないと回答した。

<爆発性の物質>

ロンドンのシンクタンク、国際戦略研究所のマイケル・エルマン氏は、固体燃料ミサイルの推進剤に使うアルミニウム粉末を内製できるようになれば、サプライチェーンと品質を管理しやすくなると指摘する。

ロイターが検証した文書によると、ジャジャームの施設を運営するのはイラン・アルミナ・カンパニー(IAC)。IACは国営の鉱山・金属持株会社であるイラン鉱山鉱業開発機構の子会社だ。

IACがロイターの質問に回答することはなかったが、同社のホームページには、ジャジャームの北東約10キロに位置する施設群でボーキサイト鉱床とアルミニウム生産施設を運用していると記載されている。ボーキサイトを処理して得られるアルミナが、アルミニウムの原料となる。そのアルミニウムから粉末が作られる。

アルミニウム粉末は、塗料や電子部品、太陽光パネル、花火といったさまざまな製品に使われる。爆発性の物質であるため、ロケットやミサイルの発射に使う固体燃料推進剤の主要成分でもある。酸素を含む物質と混合すると、膨大なエネルギーを放出する。

英政府は2010年、調達物品を軍事転用する可能性があると思われるイラン企業のリストにIACを登録した。イラン企業との取引を考えている商社に対し、輸出許可を申請が必要になるかもしれないと警告するためのリストだ。リストは17年、国連と欧州連合(EU)がイランへの制裁を解除したことで撤回された。

<阻止された輸出>

国連はイランの核開発疑惑を阻止する取組みの一環として、同国のミサイル開発に目を付けてきた。安保理が10年6月に採択した決議第1929号により、イラン政府による核搭載可能な弾道ミサイルの製造は制限され、他国がイランに対し関連技術や技術支援を提供することも禁止された。

決議の順守状況を監視している国連の専門家パネルによると、シンガポール当局は10年9月、中国からイランに向けて輸出されたドラム缶302本分のアルミニウム粉末を押収した。専門家パネルは11年の報告書に、粉末中のアルミニウム含有率が高ければ「最終用途はほぼ確実に固体燃料ミサイルの推進剤であることを示唆している」という弾道ミサイルの専門家の指摘を盛り込んだ。

アミル・モガダム氏と、同氏がロイターに提供した2点の文書によると、ジャジャームの施設は11年までに整備計画が進められていた。その文書の1つは、11年10月にIACの担当部長だったマジド・ガセミ・フェイザバディ氏から、革命防衛隊のミサイル計画を指揮するハッサン・テヘラニ・モガダム大将に宛てた書簡だった。

IACのガセミ氏は、モガダム大将の指示に従いジャジャーム近郊の「使われなくなった空港」近くにプロジェクトに好適な場所を見つけたと書いている。また、プラント建設費用としてイランの政府系ファンドから1800万ドルを出資してほしいと要請している。

「イラン国家開発ファンド」と呼ばれるこのファンドが実際に出資したかどうか、ロイターは確認することができていない。

ロイターが検証した文書のなかには、ガセミ氏と彼の秘密計画のため、革命防衛隊とイラン当局者が司法に介入したことを記したものもあった。ガセミ氏は15年、IACが絡んだ金融取引の汚職疑惑をめぐってイラン国内で拘束されたことになっている。だがアミル・モガダム氏によると、ガセミ氏は起訴されることなく釈放されたという。

ガセミ氏にコメントを求めたが回答は得られなかった。革命防衛隊のミサイル開発計画を指揮していたハッサン・テヘラニ・モガダム氏は故人であり、同姓ではあるがアミル・モガダム氏とは無関係である。ロイターは故人のきょうだいのムハマド・テヘラニ・モガダム革命防衛隊司令官にコメントを求めようとしたものの、連絡がつかなかった。

<設備の調達>

ロイターが検証した複数の書簡によると、IACは設備を調達するため中国企業とも交渉した。文書で確認された企業は、政府の支援を受けている中国有色金属建設(NFC)だ。

ガセミ氏は11年10月、革命防衛隊のミサイル開発計画トップへの書簡で、「閣下の指示に従い、中国企業NFCを経由し、(ドイツ企業と日本企業それぞれ1社から)必要な機械・設備の一部を提供する件に関して、リー・シャオフェン氏と合意に至った」と記している。この書簡の表題には、「アルミニウム粉末の微粒子化について」とある。

さらに2カ月後にガセミ氏からリー・シャオフェン氏に送られた書簡では、リー氏の肩書きはNFC副社長兼最高法務責任者となっていた。

IACが最終的に設備を最終的にどこから購入したのか、文書からは分からない。ロイターはこの書簡で言及されているドイツと日本に企業を特定することができなかった。リー氏への連絡はついていない。

中国外務省にNFCとIACについて質問したところ、「把握していない」との回答があった。中国外務省は、「(我が国は)国連安保理による決定を含め、核不拡散に関する国際的な義務」を厳格に順守しているとした。

NFCはロイターに対し、「用途が何であれ、アルミニウム粉末の生産に関連したいかなる技術、設備またはサービスについても、輸出したことはなく、またその入手を支援したこともない」と返答。事業内容は「民生分野」に限定している、とした。

しかし、NFCのホームページを確認したところ、同社の市場の1つとしてイランが明記されていた。05年の報道発表資料では、ジャジャームのアルミナ生産施設が「NFCによる技術改善プロジェクト」として挙げられている。アルミニウム粉末生産に関連した設備、技術、サービスをIACに提供したかどうかをNFCに問い合わせたが、回答を得られなかった。

<「制裁を生き延びる」>

フランスに逃れた元イラン当局者のモガダム氏は、15年にジャジャーム近郊の施設を2回訪れた。テヘランでも、イラン政府当局者とIAC幹部らとの会合に複数回出席したという。

「(IACは)軍事プロジェクトが制裁下を生き延びるためには政府による支援が必要だと言い、外貨へのアクセスを求めていた」と、モガダム氏は言う。ロイターは行政担当副大統領のオフィスにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

15年のイラン核合意を受け、弾道ミサイルをめぐる国連安保理の過去の条項は解除され、新たな決議が有効となった。決議第2231号は、イラン政府に対し、核弾頭の搭載を意図した弾道ミサイルに関する活動を控えるよう「要求して」いる。

イランと一部の同盟国は、この文言で順守義務は生じないと主張している。

国連の報道官は、アルミニウム粉末は核弾頭搭載を意図しないミサイルやロケットの推進剤としても使えるため、その生産が同決議の対象になるどうか確定していないとしている。また、軍事目的のアルミニウム粉末の生産が制裁決議第1929号の対象になるかどうかを判断する立場にもないという。

Bozorgmehr Sharafedin Pratima Desai

(翻訳:エァクレーレン、取材協力:Min Zhang、Tom Daly、Arshad、Michelle Nichols、新田裕貴)

 

6月24日、米国とその同盟国は、イランのミサイル能力が中東、そして世界全体にとって脅威になると考えている。写真はイスラム革命防衛隊が演習中に発射したミサイル。写真は2006年11月、北部コム近くの砂漠地帯で撮影(2020年 Fars News)

 

 

6月24日、米国とその同盟国は、イランのミサイル能力が中東、そして世界全体にとって脅威になると考えている。写真はイスラム革命防衛隊が演習中に発射したミサイル。写真は2006年11月、北部コム近くの砂漠地帯で撮影(2020年 Fars News)

 

 

Reuters
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