5月23日、米連邦巡回区控訴裁判所は、トランプ米大統領による関税措置を差し止めた下級審の命令について、連邦政府の申し立てを受け、その執行を一時的に停止する判断を下した。連邦政府の申し立てを受け、「提出された申し立て資料を審理する間、アメリカ国際貿易裁判所の命令を保留する」と認めた。
控訴裁はまた、原告と被告の双方に対し、下級審である国際貿易裁判所が、政府の執行停止の申し立てに関して、今後取る措置を、直ちに報告するよう命じた。
同日、連邦政府は控訴裁に対して迅速な判断を求めており、対応がなされなかった場合、翌24日にも連邦最高裁に緊急救済を申請する意向を示していた。
22日、この訴訟をめぐっては、国際貿易裁判所の判事3人が1977年の「国際緊急経済権限法(IEEPA)」に基づき、トランプ氏が発動した広範な関税措置について、「認められた権限を逸脱している」と判断。判決文では「世界規模かつ報復的な関税命令は、IEEPAが大統領に認める輸入規制権限を超えている」と明記された。
IEEPAは、国家の非常事態において経済制裁や輸入規制を可能にする法律で、通常、関税を導入するには議会の承認が必要とされ、トランプ氏は、アメリカの貿易赤字を「国家的緊急事態」と位置づけ、この法律に基づいて一方的に関税を導入した。
今回の訴訟は、ワイン輸入業者V.O.S.セレクションズなど中小企業が、関税の影響で事業継続が困難になったとして起こしたもの。オレゴン州をはじめとする12の州も訴訟に加わっていた。
23日の控訴審では、連邦政府の弁護士が「この判決は、イギリスから中国、EU諸国に至る数十か国を対象とする関税措置を恒久的に差し止めるもので、前例がなく法的にも容認できない」と主張。「これらの関税は、アメリカの貿易赤字是正と世界経済の再構築に向けた外交・経済戦略の中核をなすものである」と強調した。
ホワイトハウスのレビット報道官も、「トランプ大統領、あるいはどの大統領であっても、重要な外交・貿易交渉が一部の判事によって妨げられるべきではない」と述べ、最終的な判断は、連邦最高裁が下すべきだとの認識を示した。
4月2日、トランプ氏は、世界のほぼすべての国を対象とした新たな関税を導入を決め、これ以前にも、カナダ、中国、メキシコからの輸入品に対して、移民や麻薬の流入対策を理由に関税を課していた。5月には中国との間で、互いの関税を115%ずつ引き下げる合意に達したと発表。EUからの輸入品については、6月から50%の関税を課すとしていたが、協議のため7月への延期を表明した。
ゴールドマン・サックスのアナリストらは、「仮に今回の関税措置が無効とされても、政権はIEEPAの他の条項を用いて、再び関税を導入する可能性がある」と指摘。現行の10%の一律関税が15%に引き上げられる可能性もあると分析した。
モルガン・スタンレーのマイケル・ゼザス氏も、「政権には、関税政策を再構築するための複数の法的選択肢があり、現在の関税水準が維持される可能性は高い」との見方を示した。
控訴審では、原告側に6月5日、被告側には6月9日までに、それぞれ意見書の提出が求められた。
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