中国共産党(中共)が推進する「一帯一路」構想に基づくインフラ事業をめぐり、南米エクアドルに建設した大規模水力発電所の欠陥問題が決着した。中国国有建設大手の子会社が、約4億ドル(約630億円)の賠償金を支払うことでエクアドル政府と合意した。
エクアドルの主力発電所に構造的欠陥
問題となったのは、ナポ県とスンクンビオス県の県境に位置する「コカ・コド・シンクレール水力発電所」。2009年に着工、総事業費は約30億ドルに上った。2016年に稼働を始めたが、その後タービン周辺で数千か所に及ぶ亀裂や漏水が見つかり、深刻な構造的欠陥が指摘されていた。
エクアドル政府は2021年、中国側に5億8千万ドルの仲裁を申し立てた。これに対し中国企業は逆に契約違反を主張して反訴。交渉は長期化したが、2025年になって賠償金の支払いで和解に至った。
政治的・環境的影響も
この発電所を推進したのは、当時のラファエル・コレア元大統領だった。しかしその後、同元大統領は汚職容疑で有罪判決を受け、プロジェクト自体も疑惑の対象となった。さらに環境専門家からは、アマゾン流域の生態系に長期的な影響を及ぼしかねないとの懸念が出た。当初、発電所の設計では、寿命は50年とされたが、15年程度しか持たない可能性の指摘もある。
エクアドルはこれまでに中国から総額約190億ドルの融資を受け、複数のダムや道路、学校、診療所といった施設を建設してきた。しかし議会関係者や市民団体からは、契約の透明性や工事品質への懸念が繰り返し示されている。
他国にも広がる「債務と品質」の問題
同様の事例は他国にも見られる。南アジアのネパールでは、中国輸出入銀行からの2億1600万ドルの融資で、中国国有企業・中工国際工程公司(CAMC)がポカラ国際空港を建設した。国際定期便の就航を期待したが、現在は利用がほとんどない。
2025年4月、ネパール国会の公共会計委員会は調査報告書を公表し、同空港が国際基準を満たしていないと指摘。劣悪な建材の使用や腐敗、監視体制の欠如などの問題が明らかになった。利用客が少なく収益も見込めないため、ネパール政府は中共に対し融資の帳消しを要請したが、合意には至っていない。
ヨーロッパでも問題は発生している。セルビア・ノヴィサドでは鉄道駅の改修工事中に屋根が崩落し、16人が死亡。大規模な抗議運動に発展し、政府は前基盤整備相らを汚職容疑で逮捕した。工事には中国企業も関与していた。
「低価格」の裏に潜む品質リスク
ドイツ在住の水利専門家・王維洛氏は、大紀元の取材に対し「中国国有企業が海外でプロジェクトを受注できる最大の理由は低価格にある」と指摘。同じ案件でも中国国内価格よりさらに安く提示するという。しかし、価格が低すぎるため品質の確保が困難になることも多い。中国企業は工事の途中で発注者に価格の引き上げを求める手法を取るケースもあるが、海外では交渉が難しい。
今後の展望
2013年に始動した「一帯一路」は、アジア、アフリカ、中南米へと広がってきた。しかし各地で債務問題や工事品質への懸念が高まり、持続の可能性に疑問を呈している。今回のエクアドルでの賠償合意は、今後各国が同様の請求を行う前例となる可能性がある。
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