【ニュースレターが届かない場合】無料会員の方でニュースレターが届いていないというケースが一部で発生しております。
届いていない方は、ニュースレター配信の再登録を致しますので、お手数ですがこちらのリンクからご連絡ください。

トランプ政権の新国家安全保障戦略 主要な5つのポイント

2025/12/06
更新: 2025/12/06

トランプ政権の新たな国家安全保障戦略は、2期目のドクトリンをこれまでで最も明確に示す文書となった。すなわち、米国はもはや「世界秩序を一身に支えるアトラスの役割」をやめ、国境管理、産業力、西半球での揺るぎない影響力を優先し、その他の地域にはより選択的かつ厳格に関与するという姿勢である。

以下では、同戦略の五つの主要ポイントと、それが欧州、中国・インド太平洋、ウクライナ、中東、西半球における米国の姿勢をどのように再定義するかを整理する。

 

欧州:自らの安全保障を取り戻すよう促された大陸

新戦略は、欧州が大量移民、人口減少、政治的分断といった構造的課題に直面していると分析し、これらを転換できなければ「文明的消滅」の危険すらあると警告する。
欧州政府に対し、「文明的自信」を取り戻し、より大きな安全保障責任を担うよう求めている。

ワシントンにとっては役割の転換を意味する。米国は引き続きNATO同盟国を支援するとしつつ、その役割は「大陸の安全保障を保証する存在」から「戦略的コーディネーター」へと変わると明記する。欧州は米軍や米資金への依存をやめ、自前の防衛力を再構築し、国境を強化し、政治を安定させることが期待されている。

文書には次のようにある。
「われわれは欧州の自由と安全を守るため同盟国を支援しつつ、欧州の文明的自信と西洋的アイデンティティを回復させたい」
「われわれは欧州、アングロ圏、その他の民主主義世界におけるエリート主導の反民主的な自由制限に反対する」

この転換は、ウクライナ戦争の停戦交渉を追求する政権の方針を支えるものだ。欧州経済への負担を止め、米国が軍事・産業資源をより優先度の高い地域へ再配分する必要があるためである。

欧州は米国にとって「戦略的かつ文化的に重要」な地域であり、大西洋貿易は世界経済と米国の繁栄の柱と位置づけられている。

「欧州を切り捨てることはできず、そうすることは本戦略の目的に照らして自滅的である」と文書は述べ、米国の国益は「強い欧州」が「いかなる敵対勢力による支配も阻止するために米国と協調して行動する」ことで守られるとする。

安全保障負担の再配分に加え、欧州の経済・政治姿勢の再調整も求めている。これには、米国の欧州市場アクセス拡大、中東欧・南欧との商業・防衛協力強化、NATOの「永遠の拡大」という印象の解消、そして過剰生産、技術窃取、サイバー諜報といった「敵対的経済行為」への対処が含まれる。

 

中国:競争の中心を経済力へ再配置

新戦略は、中国が米国の長期的な主要競争相手であることを認めつつ、競争の主軸は軍事ではなく経済であると位置づける。
供給網の主権回復、重要技術の確保、資源流通の管理、国内産業基盤の復活(関税やリショアリング支援策など)を重視する。

文書は「長期的には、経済・技術面での米国の優位性を維持することが、大規模な軍事衝突を抑止・回避する最も確実な方法である」と述べ、経済力こそが抑止力の背骨であるとの見方を示す。

軍事面ではインド太平洋での関与維持を約束しつつ、同盟国により大きな役割分担を求める。
「米軍だけでこれを担うことはできず、また担うべきでもない」とし、負担の長期的移行を明確にする。対象は豪州、日本、韓国、東南アジアの既存・新興パートナーまで広い。

米国は第一列島線での「侵略拒否能力」を維持するとし、台湾と地域安定へのコミットメントを再確認するが、これは米国単独ではなく同盟国との共同責務と位置付けられる。

文書は次のように述べる。
「米外交努力は、第一列島線の同盟国・パートナーに、米軍の港湾・施設へのアクセス拡大、自国防衛支出の増額、そして何より侵略を抑止する能力への投資を促すことに集中すべきである」
「これにより第一列島線の海上安全保障は相互に連結され、台湾奪取の試みを阻止し、米国に極めて不利な軍事バランスを回避する能力を強化する」

さらに、南シナ海について「潜在的敵対勢力による支配を防ぐ強力な措置」を取ると明記し、中国の影響拡大を牽制する。

経済面での対中再均衡と軍事抑止の維持は「相互に強化し合う好循環」を生み、経済面の引き締めが抑止力を支え、抑止力が経済対応をより自由にするとの考えである。

中国への依存削減、先端技術保護、重要鉱物供給網の確保、インド太平洋諸国との経済・安全保障協力拡大なども包括的課題として挙げる。

 

ウクライナ:交渉による平和を戦略的必要性と位置づけ

新戦略は、ウクライナ戦争が欧州安定と米国の戦略的余力を大きく消耗しているとし、紛争解決が米国の全体戦略再構築に不可欠であると主張する。

文書は次のように述べる。
「欧州経済の安定、戦争の拡大・予期せぬエスカレーションの回避、ロシアとの戦略的安定の再構築、そしてウクライナが存続可能な国家として復興するためには、迅速な停戦交渉が米国の核心的利益である」

また、ロシアの侵略により欧州諸国が深く不安定化し、多くがロシアを「存亡上の脅威」とみなすようになったと指摘する。

欧州とロシアの関係管理には米国の大規模な外交努力が必要であり、ユーラシア全域で戦略的安定を回復し、ロシアと欧州国家間の衝突リスクを抑える必要があるとする。

同時に、欧州の一部政府は「非現実的な戦争期待」を維持し、政治的反対意見を抑圧してきたため、国民の和平志向が政策に反映されていないと批判する。

交渉追求はウクライナを見捨てるものではなく、「欧州が自ら安定を取り戻し、信頼できる同盟国として再浮上するための前提条件」であると位置づけられる。

文書は具体的な和平案を提示していないが、紛争は今後、欧州が主体的に管理すべき問題であり、米国は主導でなく支援役に回るべきだとする。

この方針は、米国が「終わりなき国際負担」を減らすという大戦略の一部であり、他地域の長期的防衛責任を米国が当然に担うという前提からの離脱を意図する。

 

西半球:モンロー主義を再解釈した「トランプ補論」

新戦略の柱の一つが、西半球を最優先地域と位置づける地政学的再方向づけである。文書はモンロー主義を明確に復活・更新させている。

「米国は安全と繁栄の条件として西半球で卓越した地位を維持しなければならない。この条件があってこそ、われわれは地域で必要な時に自信を持って行動できる」と述べ、米国の強さはまず半球内の確保によって支えられるとする。

文書はこれを「モンロー主義へのトランプ補論」と呼び、中国を暗に念頭に置きつつ、外国勢力による中南米の港湾や通信網、インフラ取得を阻止する方針を打ち出す。

海軍・沿岸警備隊の行動拡大、麻薬カルテルへの強力な攻撃(場合によっては致死力行使)、外国投資の代替となる米国の商業関与を強化する方針も示す。

「われわれは敵対的外国勢力の侵入や重要資産の所有を排した半球を望み、重要なサプライチェーンを守りたい」
「そして重要拠点へのアクセスを確保し続けたい」

地域安定と統治能力の向上により、大量移民の抑制や、カルテル・麻薬テロ組織・犯罪ネットワークの米国への影響軽減を図ることも柱となる。

 

中東:安全保障コミットは維持しつつ、「国家建設」は拒否

新戦略は、中東を従来とは異なるカテゴリーに分類している。依然として戦略的重要性はあるが、もはや長期介入や国家建設の舞台ではないという立場だ。
過去数十年の大規模介入と国家建設は持続的安定をもたらさず、米国の資源を優先地域から逸らしたと批判する。

今後は「重要海域の防護、主要パートナーの防衛、テロ封じ込め、敵対勢力によるエネルギー安全保障への脅威阻止」という限定的目標を中心とする。

文書は次のように述べる。
「米国は、湾岸のエネルギー供給が敵の手に落ちないこと、ホルムズ海峡が開かれていること、紅海が航行可能であること、地域が米国や米本土へのテロの温床・輸出拠点とならないこと、そしてイスラエルの安全が守られることに核心的利益を持つ」
「われわれは数十年に及ぶ実りなき『国家建設』戦争を繰り返すことなく、思想的・軍事的にこの脅威へ対処できる」
「アブラハム合意の域内外への拡大も明確な利益である」

戦略は、中東がもはや「常時の不安要因や差し迫る大惨事の源」ではなく、投資と協力の場へと変わりつつある点を指摘する。

総じて、新戦略は、米国の力が依然として強大であるものの、より狭く集中した形で行使されるという世界観を体系化したものである。
同盟国にはより自立を求め、遠隔地での米国の負担を減らし、国境管理、産業再生、西半球安定といった「自国に近い優先課題」へ焦点を戻すことで、国力回復を目指す内容となっている。

The Epoch Times上級記者。ジャーナリズム、マーケティング、コミュニケーション等の分野に精通している。