中国の著名な監督・馮小剛(フォン・シャオガン)氏の新作映画『抓特務(スパイを捕まえろ)』の公開をきっかけに、中国のネット上では映画の感想以上に、社会への不満を書き込む声が相次いだ。
「『汚職官僚を捕まえろ』なら観る」
「『特権を捕まえろ』なら大ヒットする」
「国民が見たいのは、腐敗した役人が裁かれる映画だ」
コメント欄は、映画批評というより、社会や政治への不満を語る場となった。
一方で、多くの人が強い拒否感を示したのが、タイトルにある「スパイを捕まえろ」という言葉だった。
日本では「スパイ」と聞くと、外国の情報を盗む工作員やスパイ映画を思い浮かべる人が多い。しかし中国では、この言葉にはまったく違う意味が重なっている。
中国共産党は建国後、「特務(スパイ)」「反革命」「右派」などのレッテルを貼り、多くの市民を弾圧してきた。証拠がなくても「スパイ」と決めつけられれば、本人だけでなく家族まで監視や差別の対象となり、親子や夫婦、友人同士が互いを疑い、密告するよう仕向けられた。多くの中国人にとって、「スパイ」という言葉は、こうした政治運動の恐怖を象徴する言葉なのである。
さらに近年、中国政府は「国家安全」を最重要課題に掲げ、「スパイ摘発」や「海外勢力への警戒」を繰り返し呼びかけている。改正反スパイ法の施行後は、市民に通報を促す動画や広告も数多く公開され、「スパイを見つけたら通報を」というキャンペーンが続けられている。
こうした状況の中で公開された『スパイを捕まえろ』という映画は、多くの人に過去と現在を重ね合わせて受け止められた。
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