北朝鮮の金正恩が脳出血により死亡したとの臆測が広がる中、北朝鮮当局は直接の反応を示していないものの、国営メディアは今月20日、金正恩が前日に行事へ出席した際の最新写真を掲載した。事実上の火消しとみられる。
国営メディア「労働新聞」と「朝鮮中央通信」は20日付で、金正恩が19日、娘の金主愛氏や高官らを伴い、衣料品や靴類の展示会を視察する様子を伝える複数の写真を掲載。写真には、展示会で関係者に話しかける金正恩の姿や、金正恩が娘とともに靴などの展示品を眺める様子が写っている。
国営メディアがこれらの写真を発表する前、米国在住の中国人反体制活動家がXで、金正恩が最近重度の脳出血を起こして意識不明に陥り、北京の協和医院に緊急搬送されて治療を受けたものの、死亡したと伝えられていると投稿していた。
この投稿には医学的根拠は一切示されていないが、関連する臆測はたちまちSNS上で拡散し、金正恩の健康問題が改めて注目を集める事態となった。北朝鮮国営メディアによる一連の写真は、金正恩が依然として公務を遂行していることを対外的に示す狙いがあるとみられる。
韓国の情報当局者は同国の通信社「聯合ニュース」に対し、金正恩の死亡説を裏付ける情報は把握していないと述べた。
同様の臆測は過去にも浮上している。2020年には、著名な脱北者の一人が、金正恩は心血管系の手術を受けた後に死亡したとして、「99%の確信がある」と主張した。しかし、その後まもなく金正恩は公の場に姿を現した。
なぜ金正恩の死亡説は繰り返し浮上するのか
北朝鮮は世界で最も閉鎖的な国家の一つであり、情報は厳しく統制されているため、外部から見れば一種の「情報のブラックホール」となっている。とりわけ指導者の健康状態は厳格な機密事項とされており、これがさまざまな臆測を呼ぶ一因となっている。
米シンクタンク「スティムソン・センター」の朝鮮半島プログラム上級研究員を務めるレイチェル・ミンヨン・リー氏は、米誌ニューズウィークに対し、こうした臆測は北朝鮮政権の秘密主義的な性質を映し出すと同時に、核兵器を保有し、世界的な地政学上の火種となっている地域に位置する国家の指導者が死去した場合に生じかねない深刻な影響をも反映していると語った。
英BBCの分析によれば、死亡説が繰り返し浮上する背景には、主に三つの理由があるという。
第一に、後継体制の不透明さが挙げられる。北朝鮮は金一族による三代にわたる統治が続いてきたが、金正恩氏の後継をめぐる見通しは、これまでの代替わりに比べて不確実性が高い。後継者が定まっていないことで、金正恩氏の体調が懸念されるたびに臆測が生まれやすくなっているという。
金日成氏は、息子である金正日氏への権力継承に向け、数十年をかけて準備を進めた。1994年に金日成氏が死去した時点で継承計画はすでに固まっており、金正日氏への権力移行は比較的円滑に進んだ。
これに対し、金正恩氏への継承過程はより不安定なものだった。2008年に金正日氏が脳卒中で倒れた後、末子である金正恩氏は短期間のうちに相次いで昇進を重ねた。2011年に金正日氏が死去した時点で、金正恩氏はすでに将来の指導者として公に位置づけられていた。それでもなお、金正恩氏は政敵とされる人物の粛清や潜在的な脅威の排除を通じて自らの権力基盤を固めるのに、その後何年も要した。
現在、韓国の情報機関は、金正恩氏が娘の金主愛氏を後継者として育てている可能性があるとみている。金主愛氏は近年、さまざまな重要行事や軍事関連行事への同行機会を増やしている。
もっとも、金主愛氏はまだ13歳とされる上、北朝鮮にはこれまで女性の最高指導者が存在したことがなく、正式に後継者として指名されているわけでもない。さらに、年齢が若いことから、万一権力闘争が生じた場合には不利な立場に置かれやすいとの見方もある。
こうした後継体制を巡る不透明さがある限り、金正恩氏が公の場からしばらく姿を消すたびに、死亡説が繰り返し浮上することになる。
第二の理由として、こうした臆測がまったく根拠のないものとは言い切れない点が挙げられる。金正恩氏は肥満体型で、長年の喫煙習慣もあり、韓国の国家情報院はこれまでも、同氏の生活習慣が心血管疾患のリスクを高めていると繰り返し警告してきた。加えて、金一族には心臓疾患や脳卒中の家族歴があるとされる。
第三に、北朝鮮政権自身が、誤った情報を意図的に流布することで国内の実情を覆い隠そうとしている可能性も指摘されている。
理由がいずれであれ、金正恩氏の身に万一のことがあれば、周辺国のみならず国際社会全体に大きな影響を及ぼすことになる。指導体制を巡る突発的な危機は、北朝鮮が保有する核兵器の管理問題や政治的混乱が生じる可能性など、一連の難題を一気に浮上させることになるだろう。
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