北朝鮮の金正恩は今月24日、中朝を結ぶ「新鴨緑江大橋」を経由して中国東北部・遼寧省丹東を訪問した。全国政治協商会議主席で、中国共産党序列4位の王滬寧が出迎えた。金正恩は今回、北京を訪れず、習近平とも会談しないまま、わずか数時間で帰国した。異例の短時間訪問の背景に何があるのか、関心が集まっている。
24日の報道によると、王滬寧は同日、金正恩の訪問先で出迎えた。金正恩は朝鮮戦争に関する記念施設を視察したほか、午後には丹東市内の自動車工場を訪問。王滬寧は一連の日程に付き添い、金正恩が帰国する際には中朝間の新鴨緑江大橋まで見送った。外交部長の王毅も関連行事に参加した。
金正恩が今回利用した新鴨緑江大橋は、先日完成式典が開かれたばかりだった。鴨緑江は朝鮮半島と中国東北部の境界を流れる川で、朝鮮戦争では中共軍が渡河して参戦した歴史を持つ。
金正恩の訪中について、台湾の国防安全研究院の沈明室研究員は、金正恩の健康状態を示す狙いや橋の開通を祝う意味がある可能性を指摘した。
金正恩をめぐっては、10月19日ごろから心臓発作で死亡したとのうわさが国際的に広がった。北朝鮮当局は、金正恩が娘とともに展示会を視察する写真を公開し、うわさの打消しを図った。しかし、翌日には北朝鮮の国営通信社・朝鮮中央通信や労働新聞など、約40のウェブサイトが相次いで接続できなくなったとされる。

さらに、金正恩の妹、金与正が南北軍事境界線を訪問し、「偉大な歴史が始まる」との趣旨の発言をしたことも、憶測を呼んだ。一連の異例の動きが、金正恩の健康状態や北朝鮮指導部の意図をめぐる関心を高めている。
一方、今回の訪中の時期にも注目が集まっている。中共は近く重要会議である五中全会を開催するほか、広東省深センで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議への対応も控えている。
金正恩の訪中は、政権発足後6回目とされるが、習近平と会談しない訪中は初めてだという。
沈氏は、習近平が党の重要会議を控えていたため、東北地方まで足を運ぶ可能性は低かったと分析。そのうえで、両首脳が実際に会談することも不可能ではなかったとし、中共指導部の権力運営をめぐる事情が影響した可能性にも言及した。
また、金正恩にとって、訪問を短時間で終えて帰国することは、自身の健康状態に関する情報が外部に伝わるのを抑えるうえでも都合がよかった可能性があると指摘した。
韓国の聯合ニュースは、金正恩の訪中により、APEC首脳会議に合わせて金正恩とトランプ米大統領が会談する可能性を巡る観測が強まったと報じた。トランプ氏は今月12日、ホワイトハウスで金正恩との会談の可能性を否定しなかったという。
軍事専門家で、ユーチューブチャンネル「マーク時空」の司会者、マーク氏は、金正恩が中共高官と急きょ接触した背景には、深圳でのAPEC首脳会議に合わせた米朝首脳会談に向け、事前調整を行う狙いがあった可能性があると分析する。
マーク氏は、金正恩がトランプ氏と会談する前に、中共側の許容範囲や対応方針を把握する必要があると指摘。過去にも米朝首脳会談に先立ち、金正恩が北京を訪れて習近平と会談してきたと説明した。

米中対立が国際情勢の主要な構図となる中、中共政権にとって北朝鮮は、米国に対抗するうえで重要な存在となっている。中共は過去、北朝鮮の非核化を目指す6カ国協議に参加してきた一方、北朝鮮の核開発を事実上支えてきたとの見方もある。
沈氏は、中共にとって核兵器を保有する北朝鮮は、米国への対抗上、有利な存在となり得ると指摘する。ただ、北朝鮮の核戦力が拡大すれば、中共にとっても安全保障上の懸念が生じると分析した。
核兵器を持つ北朝鮮が中共政権やロシアと連携して米国に対抗することは、中共にとって利点がある。一方、核戦力を背景に北朝鮮が中共から自立する度合いを強め、米国と独自に交渉したり、他国への強硬姿勢を強める可能性もある。
金正恩の短時間訪中が、中朝関係や、米朝首脳会談に向けた調整にどのような影響を及ぼすのか。金正恩が習近平と会談しなかった理由とともに、今後の動向が注目される。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。