医師の言葉を、どこまで信用していいのか。
中国で43年間にわたり法医学に携わってきた著名な法医学者、華中科技大学同済医学院の劉良教授の警告が、大きな注目を集めている。
劉氏は、中国版TikTok「抖音」で、専門家や著名人へのインタビュー、社会問題などを扱う人気アカウントの取材に応じ、中国の医療現場に潜む問題を指摘した。
劉氏によると、患者が生前に病院で受けた診断と、死後の解剖で判明した結果が食い違うケースは少なくない。有名な医師や大病院でも、医療事故は起きているという。
さらに、病院の売上目標や業績ノルマが治療方針に影響し、必要のない手術を勧められる可能性もあると警告した。
中には「今すぐ手術しないと大変なことになる」と患者の不安をあおり、手術へ誘導するケースもあるという。
劉氏は、医師の説明をうのみにせず、疑問があれば別の病院でも意見を聞くなど、患者自身が慎重に判断するよう呼びかけた。
実際、中国では、病院の利益を優先するあまり、必要のない検査や手術を勧められたと訴える患者が後を絶たない。
2024年には上海で、体のかゆみを訴えて病院を訪れた男性が、医師から「放置すればがんになる可能性がある」と告げられ、約10日間の治療に貯金を使い果たした。ところが症状は改善せず、別の病院では「治療の必要はない」と診断された。男性がメディアに訴えると、最初の病院は治療費の全額返金と補償を申し出た。
また、湖北省のある肛門科専門病院では、軽い痔や便秘の患者にまで手術を勧めていたとされる。元職員によると、院内には「手術率90%以上を維持せよ」というノルマがあったという。
2025年には甘粛省の病院が、外来患者7577人、手術426件という実績を、赤と金の派手なポスターで祝って物議を醸した。患者数や手術件数の増加を、まるで企業の売上記録のように祝う姿勢に、「病院は人を治す場所なのか、それとも商売をする場所なのか」と批判が相次いだ。

劉氏は、2025年11月に浙江省寧波市で起きた「小洛熙事件」の鑑定にも関わった専門家だ。
この事件では、生後5か月の女児が心臓手術後に死亡。手術の必要性や医療ミスをめぐって疑惑が浮上し、当局も重大な医療事故と認定した。遺族が真相究明を訴えると、全国から支援者が集まり、世論を巻き込む大きな騒動に発展。支援者の一部が拘束されるなど、当局による締め付けも報じられた。ネット上では、過剰医療や医療事故の隠蔽、さらには臓器摘出をめぐる疑惑まで取り沙汰され、中国の医療制度への不信が一気に広がった。

こうした問題が相次ぐ中、劉氏の発言は中国のSNSで広まり、共感を呼んだ。
あるネットユーザーは、腕を骨折して病院を訪れた際、手術が必要だと言われたものの、別の病院では患部を固定するだけで済んだと投稿した。
別の人も、足の骨折で手術と金属製の固定具を勧められたが、別の病院でギプス固定を受け、その後回復したという。
もちろん、病院によって治療方針が異なるからといって、必ずしも過剰医療とは限らない。緊急の手術が必要な場合もある。
それでも、長年にわたり医療事故の鑑定に携わってきた専門家が、患者に「用心」を呼びかけた意味は重い。
本来、患者の命と健康を守るはずの医療が、病院の利益を優先するものになっていないか。
劉氏の警告は、中国の医療現場が抱える深刻な問題を改めて浮き彫りにした。
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