難民制度の濫用対策と保護の両立へ 保護を求める難民が直面する壁

2026/10/25
更新: 2026/10/25

難民制度に向けられる日本国民の視線は、ここ数年で確実に厳しくなっている。「難民申請を繰り返して日本に居座っている」などSNSにはこうした投稿をされ、また外国人による犯罪の報道も相次ぐ。

その一方で本国に戻れば拘束され、命をも奪われる恐れのある人が、日本で難民と認められるまで10年以上待たされているケースもある。

認定までに12年かかった男性

2024年10月、東京地裁は中国籍の男性(72)について、国に難民認定を命じる判決を出した。男性は1998年ごろから、法輪功の活動を続けていた。

法輪功は中国共産党(中共)政府が1999年7月から弾圧をしている気功修煉法で、その教えを「邪教」だとして中国国内で禁止している。

その弾圧は苛烈なもので、法輪功情報センターによると、20数年の弾圧で何百万人もの人々が拘束されたり、投獄されたりしており、10万人以上が拷問や虐待を受け、数千人が拷問で死亡している。欧米諸国からは人権侵害だとして非難の声が上がっているものの、今もなお迫害は続いている。

法輪功の学習者はピーク時には7千万人を越えていたといわれ、中国国内には現在まだ多数の学習者たちがいる。彼らは中共からの流される法輪功の情報を偽りだとして、真相を伝えるチラシを配るなどの真実を広める活動を草の根活動で伝えている。

難民認定を受けた男性も、真相を伝えるチラシを配ったことなどで身柄を拘束され、家宅捜索も受けていた。その後、男性は信仰を捨てさせる転向拷問を受け、心身に深刻な損傷を受けた。

男性は2012年に日本で難民申請をしたが、認められなかった。2015年の再申請も、その後の不服申立ても退けられた。裁判で「帰国すれば再び迫害される危険がある」と認められたのは、最初の申請から約12年後のことだ。男性は団体の幹部ではなく、一人の学習者にすぎない。

認定はわずか2% 高い認定の壁

2025年、日本で難民申請をした人は約1万1千人。一次審査で結論が出た人のうち、難民と認められたのは183人、約2%にとどまる。不服申立てで逆転して難民と認められたのは、わずか4人だった。

ウクライナ避難民などを対象にした「補完的保護」や、人道上の配慮による在留を含めても、日本に残ることを認められた人は年間1186人。条約上の「難民」は187人である。

大阪大学招へい教授の安藤由香里氏は、日本の審査が国際的な基準から離れていると指摘する。

安藤由香里氏は「【意見書】法輪功修練者の難民認定――『起こる可能性(リアルチャンス)』基準の必要性」の中で日本の難民受け入れについて、次のような指摘をしている。

一つ目は、証明のハードルの高さだ。日本の裁判では、刑事裁判と同じ「合理的な疑いを容れない程度」の証明が求められてきた。しかし難民審査で問われるのは、過去の犯罪ではなく「帰国したらどうなるか」という将来の危険である。英国はこの基準を2001年に改めている。

二つ目は「個別把握」と呼ばれる考え方だ。政府から名指しで狙われるリーダー格でなければ難民ではない、というもので、一般の学習者はこぼれ落ちやすい。国際難民法の第一人者であるハサウェイ教授は、この要件に法的な根拠はないと批判する。

三つ目は、話の細かな食い違いを理由に、申請者の信用を否定しがちな点だ。カナダの研究者キャメロン博士は、人の記憶はそもそも細部まで正確には残らないと指摘している。

ニュージーランドやオーストラリアでは、迫害を受ける「現実的な可能性(リアルチャンス)」があれば保護しており、安藤氏は「10人のうち1人が確実に殺されるバスに、あなたは乗るだろうか。確率は10%でも、それは現実に起こりうる危険だ」と例をあげ、説明している。

2012年、ニュージーランドの審判所は法輪功学習者の男性を難民と認めた。男性は指導的立場ではなかったが、中国の公安が実家を繰り返し訪れ、家宅捜索までしていた。審判所は妻や仲間の証言で話の信用性を確かめたうえで、当局が海外での活動を把握している以上、帰国すれば長期拘束の現実的な危険があると判断した。

濫用対策と保護は両立できるか

国民の懸念にも根拠はある。2025年の来日外国人の検挙人員は1万2777人で、3年連続で増えた。政府は法改正で3回目以降の申請者を原則として送還できるようにし、「不法滞在者ゼロプラン」で送還を強めている。2024年に3回目以降の申請で難民と認められた人は2人だけで、政府は繰り返しの申請の多くに保護の必要はないとみる。

ただ、犯罪統計は難民申請者を区別しておらず、外国人犯罪の増加をそのまま難民制度の問題とみることはできない。来日外国人の検挙件数は2005年の約4万3千件がピークで、いまはその半分ほどだ。

2013年、法務省の専門部会でUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は、公平で信頼される認定制度が、難民性のない申請や再申請の問題の解決にもつながると指摘した。また、ニュージーランドの審判所はリアルチャンス基準を使いつつ、まず証言から申請者の話が信用できるかを確かめている。

基準を緩めれば申請が殺到する、という慎重論もある。実際、申請中に働けることを目当てにした申請が急増した時期があった。しかし就労の扱いを見直すと申請は大きく減った。濫用への対策は、手続の側で打てるということだ。

二つの誤りの重さ

審査の誤りには二種類ある。保護の必要がない人を認めてしまう誤りと、本当の難民を送り返してしまう誤りだ。前者の結果は在留だが、後者の結果は拘束や拷問かもしれない。

中国での法輪功迫害を報道している明慧網が10月16日に公表した統計によると、2026年第3四半期(7月から9月)に、中国国内で少なくとも35人の法輪功学習者が死亡し、162人が有罪判決を受けて投獄されたことを確認している。

現在も複数の法輪功の学習者が日本への難民申請をしているものの、難航している。彼らの中国での境遇はいつでも拘束、拷問を受ける危険と隣り合わせにある。

国民の不安に応えることと、取り返しのつかない誤りを避けること。その両方を満たす制度をどう作るか。法輪功学習者の「12年」は、その問いを私たちに投げかけている。

大道修
社会からライフ記事まで幅広く扱っています。